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挿絵(By みてみん)


「陛下が仰るにはカークランド公爵家は大事な家だから、ジョシュアと俺が将来的に揉めるのは望ましくない、という事らしい」


「?…クリストファーはジョシュアと仲が悪いの?」

(従兄弟同士気が合うように見えてたけど…)


「仲は悪くない。今のところは。だけど、俺とアンナが婚約すれば、政略結婚を強いられるジョシュアがどう思うのか分からない。多分『狡い』と恨まれると思う」


「そうなのね…」


「お陰で陛下に条件を出されたんだ」


「条件?」


「アンナ・チャニングに婚約を申し込みたいなら、王立魔法学院の名物である剣術大会で3年連続優勝してみせろって」


「そんな無茶な」


「或いはそれに匹敵するくらいの功績を示せって」


「…要するに陛下はクリストファーと私を婚約させたくないのね」


「どうなんだろうな。陛下の言い分では、俺がジョシュアから『認められる男』になれば良いって話だった」


「『認められる』には具体的にどうすれば…」


「ジョシュアから見て『クリストファーはすごい、敵わない』とか思えるような人間に俺がならなきゃならない、という事だろうな」


「なんて無茶振りを…」


「お陰でこうやって休日には冒険者活動に身を入れる事になった。長期休暇の間はブライトウェル辺境伯家にお世話になって辺境伯に稽古を付けてもらう事になっている」


「…だから辺境伯の親戚の子達が一緒に居るのね?」


「そういう事」

「兄弟弟子って事になるんで」

「宜しくね」


「本当はリチャードも一緒に来たがってたんだけど、アイツはチャールズ共々接近禁止令が出てるから、アンナに会いたがっても連れて来れなかった」


「うん。連れて来なくて正解よ。会話すら成立しなかったもの」


「そんなに酷かったんだ」

「いや、あの乳姉弟が付いてたんだ」

「ホント馬鹿よね〜」

ステイシーは評判が悪い。

少し溜飲が下がった。


「そう言えばチャールズの方は勘当の危機だって?」

クリストフが尋ねたところ


「うん。ここだけの話、乳姉弟だけでなく乳母もとんでもない女だったって」

「ステイシーへの愛情は魔道具が壊れて失くなったらしいけど乳母には道具抜きで懐いてたんだね」

「チャーリーは乳母の処分に反対して叔父様にキレられたみたい」

との事。


色々揉めたようだ。


「チャーリーは変に要領が良くて訓練もサボる事が多かったし、あのままリッチーのスペアとして辺境伯家に居座ってたら結構なクズになってたと思う」

「まぁ、可哀想だけど、結果的には家を追い出されて本人のためになったんじゃない?」

「叔父様が陛下に『再教育したい』って相談したって話だから、あの陛下だし、チャーリーは改心するまで悲惨な目に遭うと思うわ」


「『あの陛下』って…言い方…」


「…メイスフィールド公爵は『手段を選ばない腹黒』で有名だけど、陛下はそのメイスフィールド公爵の意見を重用なさるのよ。

『鬼畜な計画を敢えて自分では言わず部下に言わせる』のが陛下のお人柄だって王城の使用人達は噂してる…」


「「「「うわぁ〜…」」」」


「それなら『逆恨みされて、次に遭遇した時に襲撃される』とかは心配要らないのね」


「それは勿論。それやったらチャーリーも『奴隷落ちさせられる』って、ちゃんと理解できてるだろうしね」


「奴隷落ち…。自分の息子にそこまでするかしら…」


「「「やりかねない!」」」

辺境伯を知る子達がそう言うのなら、その件はもう心配は要らないのだろう。


「そんな怖い辺境伯に稽古を付けてもらう事になるのか…。俺は大丈夫なのだろうか…」

クリストフの方は私とは逆に未来に暗雲が垂れ込めていた…。


******************


クレーバーン伯爵家のタウンハウスに戻ると、私はすぐさまアランにクリストフの事を話した。


婚約したいと言ってくれている事。

陛下に無理難題を出されている事。

無理難題をこなすために辺境伯に稽古を付けてもらう事。


「それで?アニーはどうしたいんだ?」

と訊かれて


「私もクリストファーと婚約したいです」

と答えた。


「…うん。そうだと思った。だからクリストファー君だけが寄越されたんだろうね」


「お義父様は何かご存知なんですか?」


「カークランド公爵がアニーを息子の嫁には相応しくないと思っている事は知っている。

本当は甥の嫁にもしたくないって所だろうけれど、陛下も私も、クリストファー君とアニーは両想いなんじゃないかって思っていた。

それで陛下は妥協案を出したのだろう。なのでクリストファー君が剣術大会で3年連続優勝できなくても、その頃にはカークランド公爵を懐柔していて、婚約は許可されると思うよ」


「要するに、本当はカークランド公爵が反対してたんですね?」

(あのオジサン、本当に嫌なヤツなのね…)


「そうだね。彼はジョシュア君が可愛くて堪らないんだろうね。瑕疵ある令嬢を徹底してジョシュア君に近づけたくないようだ。

アニーに対してだけ、という事ではないんだ。婚約者候補になり得る年齢・家柄の少女達を調査して、良くない噂がある令嬢に関しては先入観を植え付ける情報をジョシュア君に与えて、必死で遠ざけようとしている」


「私、ジョシュアとは良い友達だったと思うのだけど。友人枠ですら父親が管理しようと言うのね…」


「それだけ可愛いんだろう。死産だと思ってた我が子が生きてたんだから」


「私は、あのオジサンのやり方は納得できないけれど…。でも陛下もお義父様も味方なら心強いわ」


「だがカークランド公爵がクリストファー君とアニーの婚約を認めるには、これ以上、アニーがトラブルに巻き込まれずにいる事と、やっぱりクリストファー君がジョシュア君に『認められる男』になる事が必要なので気を抜かずにいて欲しい」


「分かりました。有り難う御座います。お義父様、大好き!陛下にも『感謝してます。大好きです』って伝えておいてくださいね!」


自分がカークランド公爵から嫌われている事実を知らされたのは内心ショックだったけど、それでも味方がいるのなら頑張れる。


ただ

(「トラブルに巻き込まれずにいる」のが難しい気がするのよね…)

とは思った。


何せ、私は特に不必要な悪行など行ってきてないし、悪目立ちするような事もしてきてない。

単に殺されずに生き抜こうとしてきただけだ。


ふと

(シーカーの事が懐かしいわ…)

と思った。


私がお金がない時にシレッと意地悪な学生達から銀貨一枚づつ頂戴するように勧めてくれた図太さ。


(シーカーは「悪」という感じでもなく、本当に、単に人間社会の道徳感を根本的に理解できてないという感じだったけど…)

きっとあの頃の私はシーカーが居てくれたから前向きでいられたのだと思う。


この世界でできた初めての友達。


(シーカーだったら、こんな時、なんて言ってくれるのかしら)

それを想像したら、思わず微笑みが浮かんだ…。



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