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教科書が配布された初日のうちに、全ての教科書に目を通した。
やるべき事がある、という環境は張り合いがあって楽しい。
なので一年生の最後辺りで「精神干渉魔法」に関する理論を習う事が分かっている。
精神干渉魔法ーー。
実は身近なものらしい。
魅惑によって
「判断力を狂わせる」
誘導がなされる。
魅了によって
「不自然なまでの好意の吸引」
が引き起こされる。
そうした事態は少年少女が集う学院内でもこれまで度々問題になってきたらしい。
精神干渉に必要な魔力は被術者に馴染みやすいものでなければならない。
なので魔力のない大衆を操作するにあたっては魔力の質が高い高位貴族や王族は術の行使には向かず、寧ろ、魔力の質が低い下位貴族の方が術の行使に向いている事がこれまでの実例・研究で判明している。
意外だったのは
「精神干渉は光属性魔法に分類される」
という事。
あと
「精神干渉の解除」
つまり
「解呪」
は闇属性魔法に分類されている。
魔法の論理的には
「光属性と闇属性は他の属性よりも抽象度が高い」
と位置付けられているようだ。
「…なるほど。『光は錯覚とエネルギー、闇は錯覚の消去と時空間を司る。抽象度が高く具体度が低いこれら二つの属性は源泉的な位置付けにある』という事ね」
自主学習でかなり魔法への理解も進んでいる。
あと、意外にも
「呪い」
は風属性魔法と地属性魔法の複合上位互換属性。
「音属性」
だ。
闇属性ではない。
「呪い」
は闇属性魔法で解呪すべきもの。
「闇」と聞くと「悪いもの」を連想しそうになるが…
意外にも闇属性は
「御伽話の魔王が使う禁忌魔法」
以外の魔法は無害なようだ。
入学早々に
「一年生の教科書だけではもう物足りなくなってきた」
という事もあり、図書室にあった参考書を拝借して読んでいる。
有り難いことに図書室の隣にある隠し部屋から図書室へ出入りできる。
そして、図書室の隣にある隠し部屋は隠し通路と繋がっている。
その隠し通路は寮へ移動できる地下通路に通じているので、夜中の読書を楽しむのにもってこいの隠し部屋なのだ。
「この隠し部屋で過ごす時間は落ち着くわね」
(誰にも気付かれず過ごせるのは心底ホッとする…)
図書室がすぐ隣なので調べ物をしながらの自習にも適している。
ふと気がつくとーー
物音一つしない真夜中になっていた。
闖入者が訪れる可能性など
予想もしていなかった…。
というのに無情にも
不意に
カツンコツンと足音が響いてきたーー。
「………」
(私以外にも隠し通路・隠し部屋を見つけて利用する人間なんていないと勘違いしてたけど…。考えてみれば、他の人が見つけて利用するのを止める権利はないんだわ…)
自分自身の迂闊さに改めて気がついて
急に冷や汗が出てきた。
ギイィィィーッ
と隠し部屋の入り口が開けられて
すぐさま
「ギャッ!」
と可愛げのない悲鳴が上がった。
「ーーああ〜、びびったぁ〜…。幽霊かと思ったら、なんだ、ちゃんと人間じゃないか…」
と言われて
「こちらこそ驚きましたよ」
とドキドキしながら言い返した。
不審者をマジマジと見てみると…
見知った顔によく似ていたので
「あなたは…。フィリベールお兄様を護衛してる影?ですね?」
と尋ねたところ
「…よくお分かりですね」
と肯定の言葉が返ってきた。
「…私自身には仕えてくれる影もいないけれど、王城内の噂話では普通に暗部構成員に関しても触れられてるわ。
だから王族には普通は影が数人付いていて、いざという時には影武者役も務めるから容姿も似てる者が採用されてるって事くらいは知ってるのよ」
「へぇ〜…。ヴィヴィアンヌ王女殿下は世間知らずだと思ってたら、意外に噂話を盗み聞きする趣味のある耳年増だったんですねぇ〜。
にしても、俺をフィリベール殿下の影だって思ったって事は、妹君のヴィヴィアンヌ殿下から見ても俺はフィリベール殿下に似てるって事ですね?」
「…ええ。似てるわね。髪色と瞳の色が少し違うし、お兄様は貴方と違って口元にホクロなんて無いけれど…ソックリなんじゃない?」
「遠目で見た事があるだけでしょ?話した事もないのに、よく見てますね」
「一応、家族ですから」
ご丁寧に眼鏡までかけているので、フィリベールにソックリな地顔を余程隠しておきたいらしい。
「…ところで何故こんな所をお兄様の影が彷徨いてるの?あの人、何か良からぬ事でも企んでるのかしら?」
「そういう話、俺の立場で何か教えられると思ってるんですか?アンタ、俺に『死ね』と?」
「…ごめんなさい。私には昔から侍女すら付けてもらえていなかったんで、普通の主従関係がどの程度厳格なものなのか、ちょっと予想も付かないのよ」
「…俺が何故、こんな所をウロついているのか、お話はできませんが…。俺の方ではヴィヴィアンヌ殿下に同じ質問をさせていただいて構いませんか?」
「貴方、失礼ね。家族からも使用人からも相手にされずにネグレクトされてる令嬢が『隠し通路に隠し部屋を見つけて利用する趣味を持ってる』理由なんて、それこそ『友達の1人もいなくて寂しい人間だから』に決まってるでしょう?
こっちは仲間も部下も居ない身だし、何の悪だくみもできないのよ?
変に深読みされても困るし、何より、貴方、孤独な人間に対しても思いやりが徹底して欠如してるわ」
「…それは…。どうもスミマセンでした…」
「分かれば良いんです。そういうわけだから、邪魔しないでください。今後も私が隠し通路や隠し部屋を利用してても、いちいち見に来ずにソッと放置しておいてね」
「…いや、それはダメでしょう。こういう所をウロつく人間の中には悪人だっている訳ですし。俺はヴィヴィアンヌ殿下の担当ではありませんが、王族が危険に晒される可能性を放置はできません。
どうか今後はこういった場所への立ち入りはご遠慮ください」
「…貴方、私の唯一の楽しみを取り上げる気なの?」
「…それじゃ、物音がしたら、やっぱりいちいち確認に来ますよ。これは譲歩できません。絶対です」
「…分かりました。平穏が乱される事態に甘んじます。確認に来られても不満に思わないように私の方でも気をつけます」
「はい。よろしくお願いします。本当に悪人も来る可能性もありますので、どうかお気をつけて」
「ご心配、ありがとう」
「今日はもうフェリベール殿下の元へ戻りますが…。ちゃんと自衛について自分でも考えておいてくださいね」
「了解です」
今まで、自分以外の者達も隠し通路・隠し部屋を利用する可能性を全く考えてもいなかったのだから私はマヌケなのだと思う。
だけど一度、他の利用者の存在に気がついたなら、今後はちゃんと警戒できると思う。
「貴方、名前は?」
と訊くと
「リュカと申します」
そう返事が聞こえてーー
次の瞬間には
彼の姿は出入り口の向こう側へと消えていた…。
【注意】
この物語内では暗部構成員を「影」と表現してます。
たまに間違えて「陰」になってるかも知れません(汗)。




