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10:間話

挿絵(By みてみん)


【sideリュカ・ヴィアラット】


王家の暗部。

所謂「影」と呼ばれる者達の組織。

それは赤眼を引き継いだ「王家の庶子達」で構成されている。


王族が妃を娶り、妃が懐妊するとーー

妃と同じ髪色・瞳の色をした女性の影達が王族の寝所に送り込まれるようになる。

つまりは「影武者用の庶子を意図的に作る」ためである。


妃が産んだ子と「影武者用の庶子」とでは人生に雲泥の差が生じる。

俺は第三王子フィリベール用の影武者を兼ねた護衛の一人だ。

リュカ・ヴィアラットという名前こそあるが、実のところ戸籍はない。


影は文字通り影として生きるもの。

戸籍の無い王家の庶子はヴィアラット姓を与えられる。

王族にとっては「ヴィアラット」こそが「=影」なのだ。


影は自分自身というアイデンティティを持ってはならず、自分自身の感情を持ってもならない。

仕える主人の一部として生きるしかない。

つまらない人生だと思う。


最近はフィリベール王子が俺と入れ替わる遊びを覚えてしまって、その間、俺が王子として振る舞う生活を送っているが…

正直言って、王子の生活もまたつまらない。


どんな立場に身を置こうが、常に閉塞感と気鬱が付き纏う。

それこそ赤眼の呪いのように…。


赤眼の王族は昔から短命だ。

50歳まで生きた者はいない。

40前後、或いは40半ばで皆病死する。


それを思うと

「赤眼ではない王族が生まれたら」

皆で祝福して喜ぶべきなのではないのか?という気がする。

なのに

「赤眼ではない王族=不貞の証」

のように見做される価値観がずっと浸透したままだ。


******************


今日も王子は俺に変装するためにカツラを被って髪色を明るめに、色替え眼鏡をかけて瞳の色も明るめに見えるように調整して、口元にホクロをつけた。


俺の方もカツラを被って髪色を王子の色に合わせた。


瞳の色は濃淡が違うままだが、王子の顔をマジマジ見て瞳の色の微妙な違いを見抜くようなヤツもいない。

ホクロは肌色に調整した白粉をピンポイントで付けて見えなくする。


声質も似てるので、ちょっとやそっとじゃ誰も気付かない入れ替わり。


(もしも入れ替わった状態で王子の身に何かあったら、俺が王子として生きなければならなくなるのでは?)

という可能性に思い至ると、ゾッとする…。


王家の影としての人生もつまらないが…

王子の人生となると更に輪をかけてつまらない。


毎度

(何事もなく無事に帰ってきてくれよ)

と思ってしまう…。


今日もフィリベール王子が俺に成りすました状態で

「学院と寮とを繋ぐ地下の隠し通路を探検してくる」

と言って出かけていた。


フィリベール王子は入学当初から学院七不思議で語られる魔道具の収集に力を入れていた。

幼い頃からレア魔道具の収集と魔道具の試用が趣味なのだ。

それに加えて兄王と婚姻相手に関する賭けをしている事もあり、せっせと隠し部屋や隠し通路を探検している。


そういった探検は密かにストレス解消の役に立っているらしく、探検の後は、鬱憤が晴れたスッキリした顔で帰ってくる。


しかしーー

今日はいつもと違い、何故か暗い顔で帰ってきた…。


入れ替わって互いに離れて過ごした後は

「何があったか」

情報をすり合わせている。


なのでいつも通り

「何かあったんですか?」

と訊いたら


「…なぁ、リュカ。お前は、ヴィヴィアンヌが俺達と血が繋がった妹だって思えるか?」

と急にヴィヴィアンヌ王女に関して尋ねられて面食らった。


ヴィヴィアンヌ王女ーー。


誰に似たのか思い当たる人物が王家の中で見当たらない青い瞳の少女…。

正直、ヴィヴィアンヌ王女にアザール王家の血が流れているとは一度も思った事はない。


彼女は

「不貞の子」

と蔑まれているが…

俺もやはり

「側妃の浮気でできた不貞の子なのだろう」

と思っている。


第四王子のヴィルジールはヴィヴィアンヌ王女と母親が同じなので父親が違う胤違いであっても「兄妹」に当たるのだろうが…

俺やフィリベール王子にとってヴィヴィアンヌ王女が胤違いであれば、赤の他人なのだ。


不思議と

「身内だから庇いたい」

と思うような庇護欲は一切感じた事が無かった。


それよりは寧ろ

「赤の他人だからこそ惹かれる」

ような吸引力を感じそうになり、無関心を装うのに心血を注いだ。


「俺は…ヴィヴィアンヌ王女は噂通り『不貞の子』だと思ってます」

と正直に答えたところ


「俺もだ」

と王子が頷いた。


「…『赤の他人なのに、妹って事になってる女』が、どうでも良いと思えるパッとしない女だったら、こんな風に悩む事も無かったんだろうがな…(ハァァーッ)」


「赤の他人が血の繋がった家族って事になってるのが不満なんですね?」


「逆にな、血の繋がった妹かも知れない女が『婚約者候補』としてプッシュされてる現状もまた悩ましいところだよ…」


「『血の繋がった妹かも知れない女』って…もしかしてシャルリーヌ・シャリエール公爵令嬢?の事を言ってます?」


「ああ。シャルリーヌはヴィルジールに似過ぎているだろう?従姉妹というより妹だ。しかもヴィルジールは父上似だ。つまりシャルリーヌも父上に似ているという事だ」


「ですが、たまたま似てるだけでは?公爵家は王家の血も入ってます。隔世遺伝的な偶然でそうなってる可能性もありますよね」


「シャルリーヌの誕生日はヴィヴィアンヌと同じ日なんだよ。ヴィルジールからそれを聞かされた時から内心で『怪しい』と思うようになってたんだろうな」


「…しかし、なんで今更、そんな疑惑を口に出すんですか?」


「今更だが、俺はシャルリーヌと婚約するより、ヴィヴィアンヌとキッパリ他人だと周知されてから婚約したいと思った。…思ってしまった…」


「…要するに今夜の徘徊でヴィヴィアンヌ王女に遭遇して、ウッカリ会話して、ウッカリ惹かれてしまった、と?」


「端的に言うとその通りだが。お前の指摘は明け透け過ぎて容赦ないな」


「…その願望を通そうとしても色々無理があるのは、ご存知ですよね?」


「ああ、知ってる。父上はヴィヴィアンヌが本当に不貞の子か実は自分の子なのか確かめようともしなかった。

誰も上奏しもしなかったのかも知れないが、『血縁関係看破魔道具』なるものはランドル王国で生み出されていて、とっくに実用化されている。

高性能な魔道具は希少な高ランク魔物の素材を使って作られるものだし、正攻法で購入すればとんでもない値段になるのは必至だが…。

それでも父上はそれを使って真実を突き止めるべきだったと俺は思う」


「…ランドル王国の魔道具を非正規に安価で入手するのは今では不可能ですよ。ランドル王国がバルシュミーデ皇国に実効支配されて後、ランドル王国の各貴族家では婿に、嫁に、とバルシュミーデ人貴族を迎えて、今やランドル王国は立派にバルシュミーデ皇国の属国となっています。

ランドル王国の現国王自体がバルシュミーデ皇国皇王の義兄ですからね。

ランドル王国への手出しはバルシュミーデ皇国への手出しと一緒。二、三十年前までのようにはいきません」


「アザール人がランドル王国の魔道具を購入したい場合にはランドル王国のヴィクトール王か宰相コルネリウス・アーベレの許可が必要、という事だったな?」


「その昔はアザール王家の影がランドル王国の魔道具を裏取引で安く買い叩いたり、盗賊団に盗ませたり、やりたい放題にやってたから、その世代の罪を現在の我々が背負わされて、今や我々世代は強制的に多方面から制限を振りかけられてる現状です。理不尽だとは思いますが…」


「全く…ひいお祖父様も、お祖父様も、父上も、ロクデモナイ治世をしてくれたもんだよ…」


「ランドル王国との交渉カードが何か有れば、血縁関係看破魔道具をボラれず正規の値段で購入できるんでしょうが…」


「ともかく方法を探していくしかないだろうな…」


「…不確かな噂話で信憑性はほぼありませんが、『シャリエール公爵がランドル国王と取引きして血縁関係看破魔道具を入手しようとしている』という話は耳にした事があります」


「シャリエール公爵が?…あの公爵家のルーツはバルシュミーデ皇国だったな。ランドル国王はバルシュミーデ人だし、一応取引きを持ちかけるツテだけはあるのか?」


「ですが根拠のない噂です」


「そうか…」


「…ヴィヴィアンヌ王女を諦めて、シャルリーヌ嬢も婚約者候補から外してもらって、バルシュミーデ皇国の高位貴族令嬢を選ぶ、というのが一番無難ですよ?」


「それは最終手段で良い…」

フィリベール王子は疲れたような表情で俺を睨みつけた。


ヴィヴィアンヌ王女を諦めきれない、という気持ちが伝わってくる。

俺にもその気持ちが理解できてしまう。


フィリベール王子と俺は、顔も食べ物の好みもそっくりな兄弟。

当然、好みの異性のタイプも全く同じだったとしても不思議はないのだ…。



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