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いつもは
「いつもお世話になってる魔法薬師さんに顔を合わせてお礼を言いたい」
とか言う冒険者を追い払ってくれてるくせに
何故かその日は
「お前さんと同じ歳の連中だし」
と言って、ギルマスが調薬室へ冒険者を連れて来させるつもりなのだと知らされた。
どういうつもりなのか…
と思っているうちに足音が近付いてきたので訝しく思っていると…
見知った顔だった。
クリストフと、辺境伯の親戚の子達。
「いや〜。どうしてるかなって心配だったんだ」
と親戚の子の1人が明るく言った。
「ヴィヴィ…いや、アンナ。久しぶり。本当に会いたかった…」
クリストフが感極まったように言ってハグしてきた。
「クリストフ…。いえ、クリストファー様、と呼ばなくちゃね…」
身分差は横たわる。
「いいや。俺達は『冒険者ギルドで出会って意気投合した友人』設定になるんだ。呼び捨てで構わない」
「『意気投合』しちゃったんだ?…えっと、今、この瞬間がそう?」
「そう。俺達は学院ですれ違ってた程度の縁だったのが、冒険者ギルドで再会。同じ歳という事もあり、意気投合して友人になる、というか、今なってる最中」
「誰が考えたの?そんなこじつけ臭い設定」
「俺だけど…。辺境伯も賛成してくれたぞ?」
「ブライトウェル辺境伯…。私、双子の件でしみじみ分かったわ。あの方は悪い人では無さそうだけれど、人間のネチネチドロドロした心理戦のようなものを実は全く認識できないタイプの方なんだろうなって」
私がそう言うと
「叔父様は脳筋が過ぎるのよね…」
「双子の乳姉弟がアレな人間だって実は有名だったのにね」
「何故あの女の本性に気付かずにいられたのか謎過ぎ…」
と辺境伯の身内が賛同してくれた。
エルネスティーネ・アメルハウザー。辺境伯の姪。
ディーデリヒ・フラウンホーファー。辺境伯の甥。
ベルトルト・クンツ。辺境伯の従兄弟の子。
同じ学年の子達だ。
「ギルマスの話では40年くらい前に流通した魅惑魔道具の類が使われてたらしいんだけど?」
「ハルトおじさんの話では『そういう道具が存在する』という事を全く想定していないと意外に気付けないものなんだって」
「辺境伯領では『魔法攻撃無効化魔道具』が普及してて、樹海に入る時には必ずそれを使うんだ。
だから魅惑魔道具の効果もその度に一旦リセットされるんで、長年そういう邪道な魔道具が使われ続けてたにも関わらず、辺境にいる間は効果はイマイチだったらしい」
「双子がおかしくなってたのは大抵、あの女を連れて王都まで来た時だったのよ」
「そもそも王都では辺境の人間は田舎者呼ばわりで馬鹿にされやすいから感情的になりやすくなっても不思議はない。
だから、あの女が『平民のくせに』って貴族達から嫌悪される状況で双子があの女を庇っても特に両親も不審には感じていなかったって事だ」
「なら、王都での滞在が長引けば長引くほど精神干渉が途切れず進んでしまうという事ね?」
「そう」
クリストフが顔を顰めて
「その問題の女に引っ叩かれたと聞いたが…」
と言って、私の頬を確認するように見た。
「令嬢じゃなくて使用人だからなんでしょうけど、力は強かったわね。掴み掛かられたら振り解くのが大変だったわ。それこそ戦闘経験もない並みの令嬢なら」
「アンナが戦えて良かった」
「クリストファーが冒険者活動に誘ってくれてたから身体強化が得意になったの。貴方のお陰よ。有り難う」
「ああ。だけど、成長期に身体強化を多用すると成長が止まるらしいから、必要時のみの使用に留めておいてくれよ」
「分かったわ」
「それにしても、魔法薬師としての腕は既に一人前だって聞いた。いつの間にそんなに多芸になったんだ?」
「それに関しては、いつか話すわ。ここではちょっと…」
辺境伯の親戚の子達の方をチラッと見て言うと
(親しくない人達にまで知られたくない)
という意図を察してくれて、クリストフがコクンと頷いた。
「それより、随分とこの子達と仲良くなった?のね?ジョシュアは一緒じゃないの?」
「ああ…。ジョシュアは…。今、俺の口から言うのも狡いのかも知れないけど…。ジョシュアは婚約したんで、婚約者令嬢のご機嫌取りに忙しい」
「婚約者令嬢って、私の知ってる人?」
「謁見室にオブライアン公爵令息のクライド・ゼーフェリンクが居たんだけど、その妹がジョシュアの婚約者だな」
「ゼーフェリンク?ドロテーアの親戚とか?」
「ああ。オブライアン公爵はドラの叔父だな」
「結構、血縁関係があちこちにあるのね…」
「そうだな。『この世界は乙女ゲームの世界だ』という主張をしてたエメライン・マルトリッツ嬢はエレの従姉妹だしな」
「世間は狭いわね」
「そういう関連もあるから、自分の足場に自覚的になればなるほど、同じ派閥の貴族同士は揉め事を避けたがるものなんだが…。この国の上位貴族の令息・令嬢はその辺の対人関係バランスがすこぶる未熟なんだ」
「えっと…。仲良くしようという歩み寄りがないって事?」
「ああ」
「それじゃジョシュアは今大変なのね」
「可哀想だが、カークランド公爵家は騎士団を擁する重要な家だし、何とかランドル王国内の子供世代の大派閥に喰らい込んでいかなきゃならない」
「クリストファーはそういう苦労は背負わなくて良いの?」
「俺が継ぐワイアット侯爵家というのは元々評判が最悪な家なんで、普通の貴族は関わりを持とうともしない訳アリの家らしい。
だから平民を妻に迎えようが、元平民の伯爵令嬢を妻に迎えようが問題にはならない。
ただ領民は旧ランドル王国時代のワイアット侯爵家のイメージを引きずってるので、領地の領主館で生活すると領民が襲撃してくる可能性がある。
そういった事故物件の爵位をいただく俺から求婚される令嬢は気の毒なんだが…俺は、アンナに、婚約者になって欲しいと思ってる…」
「…私自身が事故物件どころか地雷物件なんで、そんな苦労は何でもないわ。だけど…クリストファーは、もっとちゃんと探せば良い人が見つかると思うわ」
「ちゃんと探したくなんてないな。俺はアンナが良い。アンナじゃなければダメだ。アンナが俺の人生そのものだ。
アンナと一緒に生きられないなら、生きてても仕方ない。そんな人生は嫌だ」
「大袈裟よ…」
「大袈裟でも何でも良い。とにかく俺の気持ちを知っておいて欲しい」
「…分かりました」
「本当は直ぐにでも婚約したいところなんだ。でも、先日ヴィクトール陛下に呼び出されて直々に釘を刺された」
「国王陛下に?」
(そんな事にまで干渉されるのが貴族なのね…)




