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「お忙しいところスミマセン。ですが、どうしても確認しておきたい事と、お願いがあって、こちらに参りました。
本当に確認なんですが、ブライトウェル辺境伯は、本当に私に対して『感謝している』と、『恩人だ』と仰ってたんですよね?」
「………」
「実は少し前にご子息達が幼馴染みの少女と一緒にお見えになられたんですが、どうやら私が解呪のフリをして精神干渉魔法を使ったとお思いになってらっしゃる様子で、ポーション作りを学ぶような態度ではありませんでした。
挙句、同伴の少女が一方的に暴力を振るってきて、一方的にペンダントを弁償しろと怒鳴りつけてきました。
とてもではありませんが、ああいった方々を受け入れる事はできません。弁償するまで帰らず居座ってやると啖呵を切られて、こちらは作業を続けられません。
私が何を言っても無駄なので仲裁に入って頂ければと、こうしてお願いに参りました」
私が事情を話すと
「あ“〜…。そうだな…」
とギルマスが歯切れの悪い言い方をした。
「…もしかして、こうなる事を予めご存知だった?んでしょうか…」
「いや、そうじゃない。実はあの部屋は隠し通路から覗ける仕様の部屋なんだ。一部始終、俺もこの目で見てたから知ってる訳さ…」
「覗いてたんですか?」
(覗きは私がする側だと思ってたのに…)
「スマンな。俺も少し不安に思ってたんだ。…双子に関して良くない噂があって、いつもそうした話の元凶は乳母の娘とかいう幼馴染み関連だったんで、何かあるのか?って前々から不審に思ってた」
「噂になってたんですか?ああいうイビツな関係。…最初に教えてくれれば無駄な時間を過ごさずに、それを理由に断れたのに…」
「うん。だから本当にスマン。もうちょっとマシかと思ってた。だが、あの娘、ペンダントが壊れたとか言ってただろ?アレがヒントだな。丁度壊れてくれて良かった」
「もしかして変な魔道具?とかだったんですか?」
「ああ。それこそ40年くらい前に魅惑魔道具みたいなものが密かに王都内で流通してた時期があったんだ。
回収は済んでいたと思ってたんだが、回収漏れがあったみたいだな」
「そんな物。持ってるだけで犯罪では?」
「ああ。警備隊を呼んで捕らえさせなきゃならないな。双子の方は納得せず一悶着起きそうだが、仕方ない。ちょっくら行ってくる。
警備隊への通報は職員にさせるから、お前さんはあの娘とのやり取りを思い出して紙に書き出しておいてくれないか?
事情聴取の時に参考になるし、事情聴取の時間の短縮にもなる」
「分かりました」
「まぁ、魔道具だと知らずに持ってた分には大した罪には問えないが、平民が貴族令嬢に暴力を振るったんだ。
その分では罰金刑で毟り取れる。借金まみれになれば多少は礼儀をわきまえられるようになるさ。
あと、こういう事態を許した双子をお前さんに近付けないよう接近禁止にできる。国内の治安維持法に則った規則でな。
酷い目に遭わされたとしても、ちゃんと犯人側には相応の罰がくだるなら、お前さんも損ばかりしてる訳じゃねえ。
腐らず、前向きに今後も頑張るようにしろよ。俺はお前さんの味方だからな」
(…ギルマスが善い人過ぎる…)
「有り難う御座います。頼りにしてます」
「…チクショウ、可愛いなぁ。俺があと10歳若くて独身だったら絶対口説いてたぞ」
「そういう軽口は良いので、どうぞ行って来てください。こうしてる間にもあの子達が調薬室を荒らしてるかも知れません」
「そうだな。行ってくる、頼りにしててくれ」
そう言って廊下へ消えたギルマスに対して
(居てくれて良かった…)
と頼もしく思いながら…
指示された通り、ステイシーとのやり取りを紙に書き起こした。
そのうち警備隊員が来て事情聴取された。
警備隊の詰め所まで連れて行かれて、また詳しく何度も訊きなおされたので何回も同じ事を答え、夜遅くまで掛かった。
亜空間収納庫の事でしつこく訊かれたので、それで不審者扱いされたのかも知れない。
一応容量は旅行鞄一つ分くらいだし、そんなに入らないと謙遜して自己申告しておいた。
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私が受けた仕打ちに一番怒ってくれたのは義父のアランだった。
ギルマスも善い人だったが、アランも善い人だった。
(私の心に寄り添ってくれる人達って、有り難いな…)
と思う。
そう言えばーー
パスカルに絡まれて怒鳴りつけられていた時にクリストフが庇ってくれた。
あれが実はこの人生で初めて他人から明確に庇ってもらえた体験かも知れない。
(クリストフ…。今頃何してるのかな…)
学院で授業を受けた後、寮で寛いでいるとか?
或いは寮へ入らずカークランド公爵邸で過ごしているとか?
アランは優しいけど、クリストフとジョシュアの事に関しては
「ごめんよ。私も知らないんだ」
と言って何も教えてくれない。
本当に知らないだけなら、知ってる人に訊いて教えてくれても良いんじゃないかと思うのだけれど…
(もしかして…カークランド公爵が嫌がってる、という事なのかな)
と思い当たる。
大事な息子と甥に
私のような人間を近づけたくなくて
アランにも口止めしてるのかも知れない。
それだと今後もずっと私はクリストフとジョシュアの事を何も知れないままになる…。
(でも、仕方ないのかな…)
もう公爵令嬢じゃない。
養女の伯爵令嬢の政略結婚先なんて家格の落ちる子爵家とか男爵家。
それですら「偽物令嬢」「平民のくせに」と侮られる可能性が高い。
このまま貴族の方々とは疎遠になるのが無難な人生だ。
平民として独り立ちして、そのうち結婚するにしても相手は平民。
不意に涙が溢れて
(ああ、そうか。…私はクリストフの事が好きだったんだ…)
と自覚した。
愛情よりも自分の命が大事。
だけど命が確保されれば
やっぱり少し贅沢になって
「失われた愛情」
のために泣けてしまったりする。
良い事だ。
私は贅沢な感情を堪能できる程に身の安全を確保できたんだ。
喜ぼう。
好きな人と結婚できなくなった事を悲しめる今の自分を。
そう思って、自分を納得させた…。




