85:間話
【side:クリストフ・クラルヴァイン】
ランドル王国に来て、いざ国王陛下の側近の子供達と顔合わせして少し会話して
「今後協力関係を築けそうか?」
と内心で分析してみたところーー
(なんというか…。ここのヤツらは、みんな色々オカシイよな。…スゴイ我儘だし、既に幼馴染みやらと癒着した人間関係が出来上がっていそうだし、俺やジョシュアと仲良くするのは難しそうだよな…)
と思ってしまった。
子供だから、政争がチーム戦だと理解できていないという事なのか。
どいつもこいつも高飛車。
好きあらばマウントを取りたがる。
歩み寄りの姿勢がない。
そうした偉そうな態度の理由は不明だが…
(コイツらは色々な面で未熟だ)
という事だけはハッキリ分かった。
この国は、国名は「ランドル王国」と引き継いでいるものの、実質は新興国。
国王も側近も忙しすぎて次世代の人材育成にまで手が回らず、実は子育てで失敗してるんじゃないのかと感じた。
子供達の戦闘力や知能の高さがそれなりであっても、政争はあくまでもチーム戦だ。
同じ派閥傘下に身を置く者同士が共闘関係を築くのは権力を支える上での基本中の基本。
「社会的足場を盤石化するために必要な心理的姿勢」すら弁えられないのであれば…
彼らは政争面で無能だし、愛玩動物レベルで何も理解できていない事になる。
ランドル王国の側近の子供達がそんなレベル…。
現役世代が元気なうちは俺達世代がガタガタでも何とかなるのかも知れないが、20年後30年後はその限りではない。
(この国の未来は暗そうだ…)
ヴィヴィアンヌが国境の町で見つかったと聞いた時は、俺自身が生き返った気がした。
ヴィヴィアンヌが死んだと思っていた時期の俺は精神状態も普段の俺とは全く異なっていて、ちょっとした二重人格状態だったと思う。
その期間に自分が何をしていたとか、何を言ったとか、よく覚えていない。
ゾンビみたいに自我のない状態で自動的にただ呼吸をして生きていただけなのだと思う。
ヴィヴィアンヌが生きていてくれたお陰で俺は人間に戻る事ができた。
「生きていてくれて有り難う」
と心から思った。
カークランド公爵である叔父に
「ヴィヴィアンヌとの婚約の件はどうなるんでしょうか?」
と尋ねたところーー
「ヴィヴィアンヌ・シャリエール公爵令嬢は死んだ事になっているので戸籍がない。今の時点では彼女と婚約する利点がない」
だのと言いやがったので思わずキレそうになった。
「つまり、ヴィヴィアンヌ・シャリエールが死んだという事になってるので婚約は白紙になっているという事ですね?」
「そうだ」
「俺は再婚約を希望します」
「…利点がないんだ。クリストファー。今の時点で彼女は戸籍のない流民。平民以下の身分だ。
奴隷契約されてる訳ではないが、奴隷と等しい身分に落ちている。
婚約云々は陛下が彼女の身分をどうなさるのか次第では検討できるが、今の時点では何も決められない」
「ジョシュアは何と言ってますか?」
「ジョシュアには『ヴィヴィアンヌ嬢が公爵夫人になれる身分を手に入れる可能性は低い』と正直に伝えてある。
愛人として囲う分には、身分は関係ないので、相応しい身分の令嬢と結婚して第一子をもうけた後で囲い込むなりすれば良いと言ったら、納得してくれた」
「…叔父上。俺は騎士団を抱える名門公爵家の後継ではなく、悪名に塗れたワイアット侯爵位を頂く予定なんですよね?」
「…そうだな」
「なら俺はジョシュアと違って妻の身分を気にする必要はないのでは?」
「…しかし、流石に流民は不味い。…陛下が平民の戸籍をお与えになると判断くださるなら、その後、寄子男爵家にでも養女にさせて貴族籍に入れてやれる。
だがその場合はジョシュアが側室に望むかも知れないので、その時に以前言ってた続きを2人で話し合ってやれば良い」
「…全ては陛下次第なんですね?」
「そうだ」
「分かりました」
王城の謁見室で、ヴィヴィアンヌに再会する少し前にはそんなやりとりをしていた。
なにが流民だ。
なにが奴隷だ。
なにが愛人だ。
なにが側室だ。
叔父にとってヴィヴィアンヌは本当にどうでも良い人間らしい。
それが分かったからこそ
「俺が守ってやらなければ!」
と心底から思った…。
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第一王子、ゴドフリー王子殿下。
名目上は正妃が産んだ子で、実はヴィクトール王の胤ではないと言われているのだが…
容姿的には第一側妃と陛下によく似ている…。
(実はヴィクトール王は、側妃と自分との間の子を「正妃の産んだ子だ」と偽っているんじゃないのか?)
と思ってしまう。
ただその場合ーー
(本物の「正妃が産んだ子」は一体何処に居るんだろうな…)
と想像すると、かなりコワイ…。
ヴィクトール王が王子と王女を見る視線は優しい。
だが俺達のような「他人の子」を見る視線の温度はかなり低い。
他人の子など心底どうでも良いというタイプの大人だ。
ましてや政略結婚相手の妻が産んだ不貞の子となると、どんな対応をしたものやら…。
(とっくに殺処分されてるんだろうな…)
と予想がつく。
ヴィクトール王の視線が多少和らぐ他人の子は、メイスフィールド公爵令嬢のエメライン・マルトリッツくらいか…。
キングスコート侯爵令息ベネディクト・パラディース
オブライアン侯爵令息クライド・ゼーフェリンク
コンクウェスト侯爵令息ラッセル・ヴィルダー
彼らはゴドフリー殿下の側近候補として幼少期から殿下と関わってきているらしいが、殿下に対して態度がデカい。
多分、殿下の表向きの血筋である「正妃が産んだ不貞の子」云々を鵜呑みにしていて内心で殿下を蔑んでいるのだろう。
おそらくそれが原因でヴィクトール王が彼らを見る視線の温度が低い。
初対面の俺とジョシュアの方がまだマシと思われていそうな雰囲気だ。
ヴィクトール王の許可の下ーー
ヴィヴィアンヌがブライトウェル辺境伯の厚意で平民の戸籍を得られるようになり、更にはクレーバーン伯爵家の養女になる事になったので、多少は「この王家に頑張って仕えよう」という気持ちを絞り出せた。
しかしヴィヴィアンヌがアンナ・チャニングとして学院に登校して早々に悲惨な目に遭わされた事を考えると…
(なんで差別者を取り締まっていないんだ…)
と、王家に対する信頼もまた失墜したのは言うまでもない…。




