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挿絵(By みてみん)


ステイシーは潤んだ上目遣いで

「アンナさんが優しくないのは、きっと、私が悪いの…」

とイジケたセリフを吐いている。


「アンナ嬢は優しいし、善人だ。常識的だからステイシーのペースに巻き込まれてくれない、というだけだよ」


「アンナさんが優しくないのは、彼女自身の性格だろう。仕事に勤勉な人ではあるのだろう。才能だけでは『解呪』できる腕前の術者にはなれないんだ」


(帰れよ、お前ら…)

「…錬金鍋のサイズは魔法薬師の魔力量に合わせた物にしなければなりません。一連の作業を1人の魔法薬師が独りで終えないと薬材の効能を上昇させて副作用成分の活性化を抑制する術式が未完のままとなり、ポーションは完成せず、ただの薬草汁となってしまいます」


「私、みんなの役に立ちたくてポーション作りを学ばせてもらえたら…と思ったけれど、才能のある人から見れば、私なんて相手にするだけ時間の無駄なのね。仲良くできると思っていた分、悲しいわ…」


「水属性ではマトモなポーションは作れないし、ステイシーも知ってるよね。何もできずに邪魔になるだけだって分かってて、なんで来ようと思ったの?」


「リッチーは薄情だな。アンナさんに媚びようとして幼馴染みの善意を切り捨てようだなんて、変だぞ」


(完全に学ぶ姿勢ゼロ…)

「…錬金鍋で魔力水と薬材を煮立てる間に『治癒《ヒール》の魔力を蓄えた光属性の魔石』の魔力を全て鍋の中に注ぎます。

治癒適性の高い人達は魔石に魔力を蓄えておく必要もなく、鍋の中身にヒールを掛ければ良いだけですが、そこまで治癒適性の高い光属性の人は滅多にいないので、一般的な魔法薬師は大抵魔石に魔力を蓄えます」


「リッチーはアンナさんに恩義を感じているのね…。アンナさんはリッチー達を助けた見返りに伯爵家の養女になれたって聞いたわ。

彼女は過分な報酬を既に受け取っているのだから、リッチーはそこまでアンナさんに気をつかって媚びなくても良いのよ。

リッチーは次期辺境伯なんだもの。たかが養女の伯爵令嬢よりもずっと偉いわ」


「…たかが平民のステイシーが伯爵令嬢のアンナ嬢に対して悪意満々に悪役に仕立て上げようとして、こんな所にまで付いて来たことはよく分かったよ」


「お前、ステイシーに『たかが平民』だなんて、よくも言えたものだな?お前、ホントおかしいぞ?変な闇魔法で洗脳されて、その女に操られてるんじゃないだろうな?実は解呪ってのは嘘で、精神干渉魔法だったのか?」


(「その女」呼ばわり…)

「『魔石に魔力を注ぐ』という行為には通常非効率が起こります。魔石に注がれる筈が空気中に漏れて無駄になってしまうのです。

そうした漏れを無くすための魔道具も存在しますが、基本的に魔道具製作には光属性に加えて地属性も必要なので、ちゃんとしたものを作れる魔道具師の数はいつの時代もそう多くありません。

魔道具を入手できない魔法薬師の知恵として『地属性魔物の魔石に地属性魔物の血液で魔法陣を描く』という自作方法があります。これには勿論、魔力が必要です。

趣味で魔道具作りを楽しんでいらっしゃる貴族の方は大抵この方法を採用なさっています」


「闇魔法って怖いわ。アザール王国でも『闇の魔女』って女が王立魔法学院で悪さして『光の聖女』を虐げて楽しんでいたんでしょ?」


「精神干渉系魔法は光属性魔法のほうだよ。闇属性は寧ろ狂わされた連中を解呪で正気に戻せる魔法だ。

迷信じみた嘘の知識に基づく偏見しか持てないのなら、君は闇属性の人の前にのこのこ出てきちゃいけない。失礼が過ぎるし、露骨に侮辱罪に該当する」


「人の噂にも一部の真実が混じってる可能性はあるんだ。火のない所に煙は立たないんだぜ?

そもそもオカシイだろうが。公女と王女が入れ替えられてただなんて。そんな事が起こる時点で闇属性の連中には何か俺達では理解できない後ろ暗さがあるって事かも知れない」


(…もう二度と来ないで欲しい)

「さて、魔石にこめていた治癒魔法の魔力が出尽くして鍋全体に行き渡ったようですね。これで冷まして、清潔な瓶に移し替えたら完成です。

冷ますために鍋を水で冷やす事にしますね」


「私はリッチーが心配だわ。…急に冷たくなって。私の事を『平民』って見下す人達からずっと守ってくれていたのに…」


「俺はずっと君に騙されてた事に気が付いたんだ。君は『平民』だ。これと言って社会の役にたつ取り柄があるという事でもない。

演技力に優れていて被害者ぶりっ子が異様に板についていて、君に好意的ではない人間を悪者に仕立て上げる『平民』だ」


「やっぱり、リッチーはオカシイな。あの女が解呪のフリをして操っているとしか思えない」

チャールズが何故か私の方をギロリと睨んできたが…


こちとら鍋を冷やすので忙しい。

ハァァーッ

とまたも溜息が漏れた。


子供は短絡的だ。

まさかこんな場所でポーション作成の作業中の私を攻撃してくるかも知れないなどと思いたくないが…

(頭のオカシイ人達はほんと何をするか分かったものじゃないのよね)

とも思う。


…無駄なキラキラなどは出さずに、気付かれぬようステイシーとチャールズには「解呪」を施す事にするか…。

と思い「解呪」。


傍目には私はせっせと鍋を水で冷やしてるだけだ。


途端にーー

パリンッ

と音がして…


「「「ん?」」」

と、お子様達が顔を見合わせたようだった。


「今、何か、パリンッって割れた音が…」

「何かふんだか?」

双子が戸惑っていると


「あっ!酷い!アンナさん!貴女が何かしたのね!私のペンダントが壊れたわ!」

とステイシーが言うや、物理的に私に掴み掛かってきた。


「わっ!」

(溢れる!)


咄嗟に、鍋を亜空間に収納した。


「「………」」

双子は鍋が消えた事に驚愕したように目を見開いたが


ステイシーは

「どうしてこんな酷い事をするの!おばあちゃんの形見なのに!」

と怒りの形相で私の襟首を掴んでグイグイ揺すってくる。


私は双子を見遣り

(この女をなんとかしなさい)

と視線で伝えるが…


双子が

「「あっ」」

と言ってる間にステイシーの平手打ちが飛んできた。


バシッ

という可愛くない威力の暴力で

口の中が少し切れた…。


(ヒリヒリする…)


ステイシーは自分が加害者という自覚すらないのか

「酷いわ!形見を壊すなんて!」

と更に私を詰った。


流石にキレそう…。


(心臓を抜き取って殺す、というのは過剰報復だからできないんだけど…困ったな。こういう無礼な野蛮人を撃退できる威力の魔法がない)


「…本当に…全然、何も聞いておらず、何も見てなかったのね。貴方達は…。

…私は水刃で薬草を微塵切りにできるレベルの魔法が使えるのに、貴方達はこうやって私を一方的に侮辱して怒らせて、何の不安も恐怖も感じずにいる…。

一方的に暴力を振るって、それでいて私には何ら報復権を認めていないから、所詮平民だと、どうせやり返さないだろうと安心しきってて、見下しきっているのよね…。

…よく分かりましたよ。ええ。…帰ってください。今すぐに。そしてもう二度と来ないで」


「はぁ?…なんて無責任なの!良い加減にして!リッチーとチャーリーを侮辱してるのは貴女よ!

教えるべき事も教えないで!挙句私のペンダントを壊して!何故こんな酷いことができるの!弁償しなさいよ!」


「おい、ステイシー、やめろ!」


「とにかく帰ろう。これじゃ、ポーション作りを学ぶ事もできない」


「このまま帰れるわけないでしょう!この貴族令嬢ぶった平民女に私のペンダントを弁償させるまで!私は帰らないわ!」


ハァァーッ

私はまたも溜息を吐いてから

今度は私自身が調薬室を出る事にした。


ステイシーが腕を掴もうとしてきたので、ステイシーの腕を払い落とすと同時に気配隠蔽も使った。


ギルマスが

「困った事があったら、いつでも相談に来い」

と言ってくれてたので早速、ギルマス執務室へ向かったのだった…。



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