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「過去見」を発動させた結果ーー
(物に憑く情報体は生霊や精霊のような主観が更新され続ける意識体とは違って残留思念のようなものなのよね)
と改めて実感した。
前世から霊感らしきものがあって、普通に生きてるだけで
「リサイクルショップでアレを買ってから良くない事が起きだした」
的な事象に関して敏感だった。
この世界でいうところの
「呪物化した道具」
だったのだろうと思う。
度々その道具に触れる人、その道具がある部屋で長時間過ごし続ける人。
そういった人物の常態的気分が道具には不思議と染み付いている。
他者に悪意を向けて呪う人や、他者から悪意を向けられて呪われている人。
地雷系の人間は知らず知らずのうちに呪物を生み出し続ける。
呪殺する程の致命的呪物を作るには生き物を殺す行為が必要になるのだろうが…
呪物の影響下に入った人を不幸体質にする程度の呪物なら、ストレス社会では普通に量産される。
調薬道具を「過去見」して得た情報からはーー
「薬材は調伏して使用するべし」
と考える意思の存在を感じられた。
何故、薬材を刻むのに黒曜石製のナイフが使われていたのか。
板状の黒曜石が(まな板が)使われていたのか。
天然石を削りだしたようなビーカーが使われていたのか。
天然石のすり鉢とすりこぎが使われていたのか。
丈夫な金属製と違い、使い込まれた天然石製は脆い。
それらは
「薬材は調伏して使用するべし」
という意思によって使われていたのだと分かった。
呪物化まではいかなくても、物質には雑多で不純な残留思念が憑くし、薬草や動物の角や内臓などもそう。
「人間の役に立つべく加工される」
という目的に従わない粗野な反発心を様々な物質は持っている。
そうした反発心を削り落として
「人間の役に立つべく加工される」
事に従わせなければならない。
才能ある魔法薬師はそういった手順を誰に教えられるでもなく行い、自分の魔力を存分に活かした魔法薬を作れるのだと、直感的に理解できた…。
だが「解呪」を使える私の場合は、手動で「調伏」せずとも、一瞬で薬材に染み付いた負の情報体を消去できる。
(もしも私が闇属性に適性がなくて「解呪」魔法を使えない状態でポーションを作ろうとしたなら…果たして「薬材を調伏しなければならない」と自発的に思いつく事ができたのかしら…)
と、たらればで考えてみた結果ーー
以前、この調薬室を使ってた人というのが
「天才なのだろう」
と判った…。
******************
辺境伯家の双子がポーション作りの手伝いにやってくる日になった。
辺境伯の領地は遠い。
普段は辺境ブライトウェル領で過ごしている辺境伯一家だが、私の入国と共に王都にやってきて滞在していたらしい。
双子は王都に滞在中は王家直属騎士団で訓練を受けるのが慣例だったが、この度はこれまでの慣例を無視して私の調薬室へ通うべく冒険者ギルドへと来る事になった。
(素直の指示に従ってくれる子達なら、邪魔にはならないだろうし、良いか…)
と思って、特に警戒もせずに受け入れたのだが…
何故か、リチャード・クンツ、チャールズ・クンツに付いて、「乳母の娘」(所謂「乳姉弟」)のステイシー・ベニントンという少女まで来た…。
「ステイシーです!先日14歳になりました。宜しくお願いします!」
元気の良い子だ。
別に年齢など聞いていないのだが…
双子の方を振り返って
「ちゃんと挨拶できたよ?」
と満面の笑顔を浮かべている。
少し違和感を感じながら
「?…ステイシーさんは光属性の適性をお持ちだという事ですか?」
と質問すると
「いいえ。水属性です。水属性でもポーション作りはできると聞いた事があるので、坊っちゃまがたにお願いして、来させて頂きました」
と、おかしな返事が返ってきた。
(いや、水属性で作るポーションは低品質で売り物にするのは難しいという話が有名な筈…)
「…辺境伯からはポーション作りを習いたい人はご子息のお二人のみと知らされていましたが…。追加でステイシーさんの事が頼まれているのかどうか、今日にでも帰宅後に確認させて頂きますね?」
「あ、いえ、それは…」
「とにかく、時間は限られています。私も通いでギルドの調薬室を使わせていただく身なので、提供して頂いている調薬室と薬材を有効利用して価値あるポーションを出来るだけ効率良く作る必要があります」
私がそう言いながら双子の方を見ると
「理解しています」
「お手間を取らせてしまい申し訳ありません」
と言われた。
「先ずは、私が手順を説明しながらポーション5本分を作っていきます。私の作り方では闇属性、水属性、光属性が必要となるので、皆様は真似できないと思いますが、一応、基本の作り方のお手本として今から作ります。真似できる部分は真似してください」
私は先ず部屋全体と作業場近辺を「浄化」し、器具と薬材も「浄化」した。
「これは『浄化』。闇属性の下級魔法です。地道に清潔を心掛ける事で殺菌を徹底すれば闇魔法が無くても補えます」
次いで薬材を「解呪」した。
「次は薬材を薬材として役立たせる行為を行います。私は中級闇魔法の『解呪』で済ませましたが、闇魔法の無い人達は天然石から削りだした道具を使って『調伏する』事になります。
『調伏』の合理性に気付かず、この手順を知らない魔法薬師も多いようですが、少しでもポーションの品質を上げようと思うなら必要な事だと私は判断しました」
「あ、スミマセン!『調伏』ってなんですか?本当に必要な事ですか?」
「(ハァァーッ)…必要な事です。何故必要なのかはポーションを作り終わってから説明します」
「ご、ごめんなさい…。私、アンナさんが同じ平民だったって聞いて、勝手に親しみを感じて仲良くなれるって思っちゃって…。
ずっとお姉さんが欲しかったから、『お姉さんがいたら、私に優しくしてくれて、私が知らない事なんかも喜んで教えてくれるんだろうな』って…。
勝手に、私、アンナさんの事好きになっちゃって…。ご迷惑みたいで…。ううっ…。ぐすっ…。ご、ごめんなさい…」
何故かステイシーが嘘泣きを始めた…。
(お前ら、この女、何とかしろよ…)
と思いながら双子を見ると
「初対面の人に馴れ馴れしくして迷惑かけるのはダメだって、初めから、俺、言ってたよね?」
「まぁまぁ、ステイシーだって、わざとじゃないんだから」
だのと言い合いを始めた。
(コイツら、ダメだ。学ぶ姿勢ってものがなってない)
私は彼らが私の言葉を聞くかどうか分からないながら
「続けます」
と言い、次の手順に移った。
「次は水魔法で魔力水を出す作業になりますが、私は『調伏』で薬材を切り刻む手順を『解呪』で済ませて居ますので、ここでは小規模水刃の乱れ斬りで薬材を刻み水刃の魔力水と共に刻んだ薬材を錬金鍋へ入れます」
ステイシーは
「リッチーもチャーリーも私のために争わないで」
だのと言って、まだ嘘泣きしている。
私は構わず
「錬金鍋ですが、魔法薬の成分が鍋に残ると次に作る別の魔法薬の品質に影響を与える可能性がありますので、闇魔法の『浄化』を使えない一般的な魔法薬師は製作する魔法薬の種類の分だけ鍋を用意するのが常識です」
と述べる。
(アンタらにこそ必要な魔法薬師の常識なんだけど…聞いてないみたいね…)
嫌な時間だ。
なんで、コイツらここに来てるんだろ?…




