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「冒険者ギルドは国を跨いだ民間組織だ」
と言われているが、実際には
「各国ごとに独立している民間組織」
である。
アザール王国で登録された内容は、他国では一応共有はされてもチェックはされない。
「国外に対してはわざと誤情報を流す方針のギルドもある」
からだ。
なので、いざ外国人冒険者が入国してきたら…
転移魔法陣を使った書類のやり取りで事実確認が行われる事になるが、それすらも信憑性が低い。
しかも私の場合のように
「死んだ事になっている人間の事で問い合わせる」
となると
「もしや生きているのか?」
という勘ぐりを持たれ、逆にこちらが探られかねない。
なのでこういう時のために予め
「他国の冒険者ギルドに間諜を紛れ込ませている」
のだという話だ。
王都レンジリーにある
ランドル王国冒険者ギルド本部。
そこに紹介状を持って訪ねて行くと
「間違いなく、ヴィヴィアンヌ・シャリエールは死んだ事になっていて、冒険者登録も抹消されている」
とギルドマスターから直々に告げられた。
(これで一安心…)
つつがなく新規登録の手続きをした。
「アンナ」として。
ヴィヴィアンヌの略称の一つがアンヌなので、これはこれで完全に偽名という訳ではないのだ。
ギルドマスターはブライトウェル辺境伯夫人と面識があるらしく
「…お前さんに関しては、夫人を解呪してくれた恩人だと辺境伯から報せがあった。俺からも礼を言う。有り難う」
と言った。
「はあ」
(何故、この人が礼を言うんだろ?)
…ギルマスはイケメンだ。
辺境伯夫人と同世代っぽい。
20代前半にも見える30代。
辺境伯が30代前半に見える40代。
見た目だけならギルマスの方が夫人とお似合いだ。
(このオジサンが「夫人の元恋人」とかだったら複雑だなぁ…)
とか思ってたら、表情に出ていたのか…
「…リリアン夫人は初恋の相手なんだ」
とシレッとカミングアウトしてくれた。
「世間は意外に狭いんですね…」
「人助けする際には『助けるべき人間か』『助けてはいけない人間か』識別する目が必要だと思うが、お前さんは知ってか知らずか『助けるべき人間』を助けてくれた。
なのでランドル王国内の冒険者ギルドでは、お前の権利を保証する。絶対、お前の労力が搾取されずに済むよう適正価格での買取を徹底させる」
「有り難う御座います」
公正な取引は責任者がそれを徹底しないと実現せず、すぐに不正が入る。
そんな世の中の実態を知る身からすれば本当に有り難い。
しかし一方で、このギルマス、クリス・ジョーンズの言葉は気になる。
助けるべき人間と助けてはいけない人間との識別とか…
私は学院で悪意をぶつけてきたバルシュミーデ人に対して助けないと決めたが…
それはかなり私的な判断だ。
社会全体では、ああいう人達も助けられるべき人間なのかも知れない。
「既に調薬室は用意してあるんで、自由に使いな」
「有り難う御座います。…ですが、調薬室を用意して欲しい旨は、今日持ってきた紹介状に書いてあったのでは?…随分と準備が良いんですね」
「いや、事前に話は付いていたんだ。今日お前さんが持参した紹介状は魔法薬の専門家と鑑定士がお前さんのポーションを分析・評価した結果が添えられたものだ。ギルドの保管用。職員を納得させるためのものだな」
「それ、多分、私は見せてもらってません」
「ああ。解毒ポーションは文句のつけようがない高品質だと保証されたが、回復ポーションの方が評価が低かったんで、クレーバーン伯爵自身、少し納得していない風だったんだ。
お前さんが客観的評価を知って落ち込むと思い、敢えて見せなかったんじゃないのか?」
「…自分でも回復ポーションの治癒力の低さは自覚してます」
「光属性魔法の適性はじっくり習熟して上げていくしかないんだ。特に治癒魔法は余程の才能がない限り、適性があっても最初はそんなもんさ。
お前さん、中級の闇魔法を使いこなして、水魔法は水刃まで使えるくせに、光属性魔法は使い慣れていない。
もしかして、自分に光属性がある事にずっと気付かずにいて使ってなかったんじゃないのか?」
「…それもありますが。闇魔法の熟練度の高さは『毎日浄化を使っていた』事が関係しているかと。
幾ら貧しいからといって不潔ではいたくなかったんです。
あと、たまに古い食べ物を食べる時なんかも、お腹壊すのが嫌だったんで『解毒』して食べてました。
水属性も服を洗うのに重宝してましたし、やっぱり毎日使う魔法は熟練度が上がりやすいんだと思います」
(私が他の人達より魔法が上手なのは生活上必要だったからよね…)
「かもな?火・水・風・地の四大属性のうち、水属性の者だけが熟練度が上がりやすいんだ。
水を出す魔法は風を出す魔法より成功が実感しやすいし、火と違って危なくないし、地属性の発動に必要な魔力よりは少ない魔力で魔法が発動するし、真面目にコツコツ頑張るタイプの魔力持ちが一番伸びる属性が水属性だ。
適性属性が三つあるのもそうだが、水属性があって魔力量も多い時点で、お前さんは魔法向きの人材だったんだろうな」
「毎日のように使う、のが熟練度を上げる鍵なのでしょうね」
「だろうな。…光属性だと、精神干渉魔法もあるからな。そっちを毎日使うヤツらはヤバいだろ。
毎日使えば適性も伸びるだろうし、悪用する連中はそういう力がある事自体、自分で気付かずにいてくれた方が周りは安全だな」
「…私は、他人を操ったりとか、してない筈です。そんな良い思いしてきてないし」
「ああ。それは、実は知ってる。冒険者ギルドの情報収集力は王家の影に匹敵するものがあるんだ。
お前さんの元の身元も生い立ちも魔法属性に関してもちゃんと情報が入ってきてる。
ウチの情報収集力を見込んで、たまに宰相様まで情報を買いに来る事があるんだぜ。内緒だがな」
「宰相様が…?」
「あの人も俺と同じく初恋の人がかの女性なんで、宰相にとっても、お前さんは恩人なんだ」
「全然気付きませんでした」
(謁見室で見た宰相は若い奥さんを連れてて普通に仲良さそうだった)
私の考えを読んだかのようにギルマスは
「クレーバーン伯爵の結婚の失敗を知ってる者は『結婚相手に初恋の女性の話は絶対しない』という心遣いを忘れないものさ。
お前さんの義父はその点で大失敗した大先輩なんだよ」
と話してくれた…。




