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挿絵(By みてみん)


その中年女の背後から

「おい、何してるんだ!」

と声が掛かった。


食事を作ってる料理人のバルシュミーデ人。

こちらは中年男。

「お前、またやりやがったな!ランドル人学生を差別するなって警告されてただろ!告げ口されればクビになるぞ!」


差別加害犯の中年女は前科があるらしい。

でも未だクビになっていない。


クビにされる云々の話はちょっとした脅しで

学院自体が

「本気で差別を無くそうなどとは思っていない」

のを知っているのだろう。


中年男が

「ほら、嬢ちゃん。ランチだ。この性悪ババアに待たされた分、オマケでデザートを付けておくよ。その代わり先生達には何も言わないでおいてやってくれよ」

と言ってランチを手渡してくれた。


「…先生達に何も言わずにおくかどうかは今後の様子見で決めます。これ以上、差別しないのなら『魔が差しただけだろう』と納得しますが…。また同じ事をされた時には、然るべき相手へ相談します」


「…そうか。誰だって仕事を失いたくないからな。明日からはちゃんとしてくれるだろうさ」


「………」

(そうだと良いけど…)


中年女は私を横目で睨みつけながら

「なんでこんな所にまで紛れ込むランドル人女はみんな可愛子ぶりっ子の性悪ばかりなのかね…。可愛い見た目に騙される男どもは直ぐ誑かされちまう…」

だのと小声でボヤいている。

この女は、きっと、明日も明後日も私にだけ食事を与えないつもりだ…。


ハァァーッ

と溜息が漏れた。


ふと視線を感じて、視線の方向へ目を向けると…

クリストフとジョシュアが心配そうにこちらを見ていた。


私はアザール人のヴィヴィアンヌ・シャリエール公爵令嬢ではない。

カークランド公爵令息と知り合いだと不自然だ。

なので互いに見ず知らずの赤の他人のフリをしなければならない。


それよりも、と辺境伯の親戚の子達を探す。

(居た…)

食堂の席に着くにも、彼らの視界に入る位置に座る事にする。

(食べてる時にも何されるか分からないしね…)


残念な事に。

その予感は的中。


パシャッとスープの中に丸めた紙切れのようなものが放り込まれた。

紙切れを投げつけている学生を見ると、クラスメイトではないが…

直ぐ近くにクラスメイトが居て、何故か真新しい教科書を破いて、破った紙を床にばら撒いている…。


(まさか…)


私のスープに丸めた紙切れを入れた男子生徒が床にばら撒かれた紙切れを拾って丸め、私の方に向かって投げた…。

今度は私の頭に軽く当たってから、オカズの肉炒めの上に落ちた…。


「ヤッタァ〜!命中!」

「下手くそ!ちゃんと顔に当てろよ!」

「バカ!飯に落ちるように当てるのが名人なんだよ!」


「………」

(ああ…。クズだ。ホント、バルシュミーデ人はクズだらけなのか…)

思わず殺意が湧いた。


(心臓抜き取って殺しちゃダメかな…)

と思ってしまう…。


今度はクラスメイトの男子がランチをトレーごと抱えて、わざとらしくヨロヨロと歩きながら近づいて来た…。


(熱々のスープが乗ってるのに、まさかぶっ掛けるとか、しないよね?)


万が一、ぶっ掛けるなら、ぶっ掛けるで、近くまで来てからぶっ掛けるのだろうと思ったのだが…


離れた位置から

「うわぁぁ〜っ!!!ヤッベッ!」

とトレーごと投げつけるように、ぶっ掛けてきたのだ。


私だけでなく周りにまでスープやオカズが飛び散った。

私の近くに人は座っていなかったけれど

二、三メートル離れた所くらいまで飛び散ったらしく…

「靴に掛かった!」

「靴下に掛かった!」

「ズボンに掛かった!」

と苦情が一斉に捲し立てられた。


「わりい、わりい、けどランドル人なんかの近くに居たお前らにも非があるんだぜ」


「はぁ?俺らがランドル人の近くに座ったんじゃねえぞ!」

「ランドル人が近くに来たんだ!」


…こちらは一方的加害行為の被害者なので、お門違いな怒りを向けられても困る。


それより、顔を庇おうとして顔の前に翳した手に、スープが降りかかってしまって、ヤケドしている…。


(早めに洗い流して、ポーションを飲んでおかないと痕が残りそうだ…)

と思ったので


その場で

「洗浄」

「浄化」

した。


「浄化」

の消去作用で

「洗浄」

で出した水も消したので

制服もびしょ濡れではなく元通りだ。

ヤケドした手だけが元通りではない。


治療は早期治療が一番だ。

亜空間収納庫から、これ見よがしにポーションを取り出して、飲み。

「治癒《ヒール》」

を唱えた。


残飯となったランチが散らばった食堂の一画で、その中央に立つ私だけが床やテーブルの惨状と打って変わって綺麗になったのだ。


途端にーー

ザワッと食道内が騒がしくなった。


尤もな反応だろう。

アザール王国でもだが、ランドル王国でもバルシュミーデ皇国でも

「体外魔法は廃れている」

事は分かっている。


少量の水を出すだけで魔力切れになるヘボ魔法使いしかいない社会だ。

私のように全身の汚れを落とせる程の水魔法を使える人間はそうそう居ない筈。


闇魔法の浄化にしても、闇属性自体希少だ。

光魔法の治癒にしても、使える人など国に数人いるかいないかだろう。

亜空間収納庫を使える人間に至ってはおそらく数100年単位でいない筈。


クズどもの顔からはニヤニヤ笑いが消えている。


無言で立ち去りたかったが、忠告くらいはしてやるべきなのかも知れないと思い、声をかけてやる事にした。


「…貴方達は勘違いをしてるわ。今後の貴方達の将来が潰れる事になりかねない致命的な勘違いをしてる。

…私は、『有能だから』特別扱いしてもらえてるの。…私は誰かを誑かしたりもしてないし、誰かを貶めたりもしてない。

他の人達には使えない魔法を使えるから、私は今後も引き立てられて、出世していく事になるわ。

私自身がただの平民で居たくても、国の偉い人達がそれを許してくれないから貴族になる気もなかったのに貴族になったの。

国の偉い人達が『無能のくせに威張りたがるバカ』しか居ない社会を望まないから、私はその手のバカから護ってもらえるの。…忘れずに、よく覚えておきなさいよ…。

私は貴方達のためには今後一生魔法を使ってあげないし、貴方達にはポーションを売ってあげない。

貴方達が今後何処に逃げようとも貴方達を『私の敵だ』と吹聴して、私の魔法やポーションを欲しがる人達が攻撃するように仕向けてやる。

誓って、私は、一生貴方達を絶対、助けない。

一生許す気はないし、許してあげる必要性すらないでしょう?『無能のくせに威張りたがるバカ』の貴方達に対しては」


そう宣言してから、私は教室へ向かった。

どうせ荷物は荒らされてる筈。

あの破られた教科書は私の教科書だと思う。

職員室へ向かう前に教科書類の盗難を確認しておきたかった。


…本当はあの場で心臓を抜き取って全員「変死」させても良かったのに、それをせずにいてやったのだ。

連中が今後どんな人生を送ろうとも、「絶対、助けてやらない」という誓いを貫いても問題ないだろうと思う…。



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