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「貴族は王立魔法学院へ通う」
のはアザール王国では常識だったが…
ランドル王国の場合には
「貴族だからと誰でも通える訳ではない」
という社会環境。
「生粋のランドル人はバルシュミーデ人との婚約が無いと王立魔法学院には通えない」
らしいので
「陛下のご厚意でアニーは『側妃候補』の一人というポジションを頂いている」
のだそうだ。
「陛下って、ヴィクトール陛下ですよね?」
この国の国王陛下…。確か40歳くらいの筈…。
(親子くらい歳が違う…)
「君を学院に在籍させるための方便だから、学院内で本当の婚約者候補を探せば良い。ヴィクトール陛下には既に側妃がいらっしゃって、仲睦まじい」
とアランが言ってくれる。
「私、シャリエール公爵令嬢時代はクリストフと婚約してたんですけど、その話はどうなっているのでしょう?」
「戸籍上は君が危惧していた通りになっている。ヴィヴィアンヌ・シャリエールは死亡した事になっているので、もう存在していない。なので当然シャリエール公爵令嬢とカークランド公爵令息との婚約も白紙に戻っている」
「そう、なんですね。あの人、今後こそ、ちゃんとした令嬢を婚約者にできるのね…。良かった…」
「…アニーも『ちゃんとした令嬢』だと思うのだが」
「それはお義父様の贔屓目です。私のような出自の怪しい人間は常に周りから『偽物』と見做されます」
「まさか」
「…危機管理のための情報収集も必要だと思い、この屋敷の使用人達を対象に『読心』で本音を垣間見ましたが…『受け入れてもらうのに時間が必要だ』と思いました」
「『読心』…。そんな事まで出来るのか…」
「お義父様は保護者なので信頼してます。勝手に心を覗くような真似はしません。ご安心ください」
「こんなお爺さんになってしまうと、読心されて困るような事も考えていないが…プライバシーの尊重は有り難いね」
「ともかく、私はマトモな嫁ぎ先も無いでしょうし、無理に結婚する気はありません。独学で魔法薬学を勉強したので、ちょっとしたポーションなら作れます」
「…ポーション?水属性の者でも作れなくはないらしいが…光属性の適性が無いとマトモな物は作れないのでは?」
「闇属性、水属性と比べて、私の光属性の適性は微々たるもので擦り傷くらいしか治せませんが…。
ポーションだと魔石に魔力を蓄えて、その魔力を使う事ができるから、時間をかけて魔力を貯めておけば中級ポーションくらいなら作れるんです」
「三属性か…。すごい才能だな」
(本当は二属性で、光属性は盗んだモノですが…)
「…『養女』という形で私に投資してくださったお義父様のご恩に報いる方法は、政略結婚だけではないのだと、証明してみせますね」
「アニー、君は、まるで『聖女』だな…。何故アザール王国の民は『闇属性』を悪だと決めつけて『魔女』だなどという悪評を信じて君を排除してしまえたのだろう」
「…『聖女』は『光属性』、というイメージが強いのでしょうね。実際は解毒や浄化が治療に必要な事も多いので、『聖女』の役目には『光属性』と『闇属性』の二つが必要な筈なのですが。
…魔力すらない庶民ともなると、イメージ先行で『闇属性の有用性』が理解できず、悪いイメージを持ってしまうのだと思います」
「…昔から庶民と接する機会が無かったから深く考えた事もなかったが…。確かに圧倒的多数の人々が魔力を持たないのだから、何も知らずにイメージ先行で不合理な扇動に乗せられてしまうものなのかも知れないな」
「『光属性』を良いイメージで捉える人達は、『光属性』で心を操られる事の怖さを実感できないのかも知れませんね。
私だったら、誰かに操られて無実の人間を罪人扱いする罪を犯したりしたら、と思うと…心を操る者も罪深いけれど、心を操られる者も罪深いと気がついてしまうと思うのですが…庶民の皆様は私とは違うのでしょう」
「…私がかつて異母妹のクラリッサの事が嫌いだった理由がまさにそれだよ。クラリッサは特定の令嬢を『悪役令嬢』に仕立て上げる精神干渉魔法を使っていたが、クラリッサによって陥れられそうになった令嬢こそが私の片想いの相手だったので、心を操る者の罪にも操られる者達の罪にも心底から辟易していた」
「『悪役令嬢』ですか…」
「…辺境伯の妻のリリアン夫人は私が唯一愛した女性の忘れ形見なので、幸せになって欲しいと思った。…彼女を解呪してくれて、本当に、有り難う…」
「…私が『遠縁だから』というのは言い訳で、本当は、それが引き取ってくださった理由なのですね?」
「…そうだ。だから私は君の闇魔法を肯定する。誰が何と言おうとも、君が私にとっての聖女だ」
「…この国の『聖女』って、アザール王国の『聖女』と同じですよね?」
「ああ。この国の『聖女』は、アザール王国の『聖女』と同じく、怪我も病も治療する万能な治癒魔法の使い手の事を言う」
「…ポーションは中級までしか作れませんが」
「『解毒』『浄化』で病の原因を解消して、ポーションで傷も癒せるんだ。充分に『聖女』だ。皆に褒め称えられるべきだ」
「…お義父様は、血の繋がった実の父親よりもずっと本物の父親らしいですね。私を正当に評価してくださる…」
「…私は『妻が産んだ娘』に対してどうしても愛情を持ってやれなかった。
心のどこかで子育てをやり直ししたかったのかも知れない」
そう言えばーー
先代クレーバーン公爵アランの妻といえば旧ランドル王国の王女…。
バルシュミーデ皇国の侵略に屈した後すぐに女王として担ぎ上げられ
「売国奴筆頭」
とランドル人庶民らに最も憎まれたランドル人だ。
そしてその娘と言えば、ヴィクトール王の正妃アラーナ…。
(アラーナ王妃は病気になられて離宮で静養中という話だけど…)
と、ランドル王国の王族事情を思い出した。
アランは女王の元夫でヴィクトール王の舅親に当たる人。
だから公爵達が居並ぶ中で、ただの伯爵なのに発言権があったのだ…。
「『妻が産んだ娘』とはアラーナ王妃殿下の事ですね?」
「ああ。私はあの子を嫌っていた。『自分の胤ではないのに実子として育てなければならない』という点で辛かったのもあるが…。
あの子の方に『托卵雛である事に対する罪悪感』が全く無かったのが、人間として全く好感を持てなかった原因だとも思っている」
「…もしかして、アラーナ王妃殿下は『開き直っていた』のかも知れませんね」
「まぁ、そうなのかも知れないね。誰だって好き好んで托卵雛に生まれてくる事はないだろうからね」
「以前、クリストフに言われました。『悲しい時には悲しむように』と。…悲しい時に、悲しむ代わりに怒り出すと、どんどん嫌な人間になってしまうし、開き直って、そのうち平気で他人を傷つけるようになってしまうのかも」
「…フローレンスは私と出会った頃には、既にそういった人間だったよ。でもアラーナは…。母親と引き離して、誠実な乳母にでも育てさせたら、もっとずっとマトモな人間に育つ可能性もあったのかも知れないと、今では思う」
「後悔なさっているのですか」
「そう。後悔、なのだろう。悪影響を与えて子供の人格を歪める親というものは存在する。
そういう親から子供を引き離しておけば良かったのだ。なのにそうしなかった。
その後悔のお陰で、私は君をあの国の人々から保護できた事を嬉しく思うよ」
「…私は王城の下級使用人区画で放置されて生きてきましたが…。ある意味では『邪まな人間の悪影響を受けずに育った』ので恵まれていたのでしょうか」
「おそらくそうだろう」
「歪められずに済んで良かったです」
「…あの人も…レベッカも、家族から放置されて、誰の悪影響も受けずに育った女性だった。
私は、あの人が本当に好きだった。見た目の美しさよりも何よりも、あの人の孤高さが好きだった」
「………」
(そんなに好きだったのに、結婚相手ではなかったのね…)
と可哀想な気がしたが…
貴族は恋愛結婚なんてできないのが当たり前。
(「誰かを好きになれた経験」だけを心に秘めて、好きでもない人と結婚する事になるんでしょうね。私も…)
せめて相手がマトモな人であって欲しいと切実に思った…。




