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挿絵(By みてみん)


「色替え魔道具の発動を解除してくれ」

ブライトウェル辺境伯がそう言うと…


彼が抱き寄せた女性と少年は

首から下げているペンダントに触れた。


私が

(「色替え魔道具」ってまさか…)

と2人の様子を観察しているうちに


女性と少年の瞳の色が

暗い紫から真紅へと変わっていった。


「…アザール人、だったのですか?…辺境伯家の夫人と子息が?!」


そんな事があり得るのか?

アザール人を虐殺しまくった辺境伯がアザール人の妻を娶るだなんて…。


「いや、リリアンは正真正銘ランドル人だ。隔世遺伝なんだ。リチャードもリリアンが産んだ俺の息子だ。アザール人ではない」

辺境伯がそう言うが、疑わしい。


だけど考えてみれば

「…私も、アザール人なのに目が青いんですよね…」

と隔世遺伝の紛らわしさに思い当たる節もあるので強くは言えない。


「…バルシュミーデ皇国の文献によると『アザール人の赤眼は解呪で解ける』とある。強力な呪いとして赤眼が引き継がれていて、お陰で赤眼のアザール人は瞳が真紅に近ければ近い程能力が高く短命と言われている」


「そのようですね」

シーカーから聞いていたから、そのバルシュミーデ皇国の文献も信じられるけど、そうじゃなかったら、この人達の全てが疑わしく感じられた筈だ…。


「…俺は自分の妻と息子を短命で終わらせたくない。ヴィヴィアンヌ嬢が解呪できて2人が赤眼ではなくなるのなら、お礼は幾らでも支払う。

後見人になっても良いし、辺境育ちの平民としての戸籍を用意する準備もできている」


「…ブライトウェル辺境伯は、『アザール人がお嫌いだ』と専らの評判なので、そう言ったお言葉も信じてみたくはあるのですが…正直信じきる事はできません。

…ですが、ご当人達が『短命で終わる可能性を回避したい』とお思いなら、解呪いたします。私が解呪魔法を使うかどうかは、対象者ご当人の意思次第です」


(つい本音を言ってしまった…)

と思いながら


怒っているであろう辺境伯から

スーッ

と目を逸らすと


辺境伯夫人と令息が一歩前に出てきて

「解呪を望みます」

「私も、解呪を望みます」

と望みを自分で口にしてくれた…。


「…それなら、解呪させていただきます」

そう言って、今度はキラキラを出す余裕もなく真剣に解呪する事にした。


物を解呪するのと

人間を解呪するのとでは

術の制御の繊細さも大きく異なる。


(アザール王国では「赤眼じゃなくなると虐げられる」から解呪で寿命を伸ばせても誰も解呪を望まなかったのに、ランドル王国だと逆に解呪せずにおく利点が一切無いのよね…)


真紅の瞳が徐々に漆黒へ変わり

漆黒から徐々に赤が抜けて緑色の瞳へと変わった。


緑眼。

本来のアザール王家の瞳の色。

精霊に好かれる色。


直ぐに辺境伯の背中で夫人と令息の顔は隠れた。

辺境伯がガバッと2人を抱き締めたのだ。

肩が震えて嗚咽が漏れている。


(まさか、泣いてるとか…)


恐る恐る周りを見てみると

女性達は皆ハンカチで涙を拭いている。


男性達も少年少女達も

(良かったね)

と喜んでいる様子だ。


アザール人を殺しまくったアザール人の天敵。

悪鬼と恐れられる人も、自分の家族に対してはちゃんと人間だったんだな、と理解した瞬間だった…。


それにしてもーー


気になるのは

先程、解呪した辺境伯令息と瓜二つの令息が傍らにいる事だ。


(双子のうち片方が赤眼で生まれてたという事かしら?)

と推測ができた。


バチッ

と視線が合って

「あ」

と戸惑うと

(ありがとう)

と口パクで伝えてきた。


悪い子では無さそう。


「それでは、クレーバーン伯爵がヴィヴィアンヌ嬢を養女に迎える件、反対の者はいるかな?」

ヴィクトール王が尋ねると


「いいえ」

と辺境伯が答え


「なら、皆、賛成という事で良いか?賛成の者達は祝福の拍手を」

という言葉には、皆が盛大な拍手で答えてくれた。


そうして和やかな空気で謁見という名の

「解呪能力の見極め」

は終了したのだった。


ディーン・クロックフォードはヴィクトール王に呼び止められていたので、私はクレーバーン伯爵と衛兵に連れられて、元の部屋へと戻った。


******************


私は辺境伯領の孤児の戸籍をもらえる事になった。

そうなれば私は正式にランドル人である。


(国王承認の戸籍の乗っ取りなんてやって良いのかな?)

と疑問に思わないでもないが…

アザール人への偏見が強過ぎる国内事情がある。


「身も心も帰化するつもりのある有能なアザール人には、こうして生きていける環境を与える準備はあるのだ」

と言うブライトウェル辺境伯は、実はアザール人を嫌ってる訳でもないのかも知れない。


大抵の国で使われている手口だがーー


死者の死亡届が出されていない場合

領主は敢えて

その実質と戸籍との齟齬をそのままにしておく。


それによって自分や配下の者達がお忍びで市井を廻る際に、ちゃんと戸籍のある別人に成りすます事ができるのだ。


ブライトウェル辺境伯もまたそうして

「(実際には亡くなっている)戸籍上の生者」

の名前を有効利用していた。


当然ながら、様々な年齢の者が、死亡届の出し忘れによって戸籍上は未だ生きている事になっている。

ヴィヴィアンヌが成りすますのに丁度良い年齢の少女の戸籍もそうやって宙に浮いていた。


「アンナ」という名の孤児の少女。

彼女の死亡届が出し忘れたままになっていたのだそうだ。

生きていたら15歳。


「その戸籍を提供するので『ヴィヴィアン』に改名しても良いし、そのまま『アンナ』の名で暮らしても良い」

と言われた。


「『ヴィヴィアンヌ』の名前はアザール王国で『闇の魔女』として悪名に塗れてますよね…。ランドル王国風に『ヴィヴィアン』にしたところで、やっぱり闇属性の魔法を使う機会があった場合には、同じように『闇の魔女』が連想されてしまうのではないでしょうか?」

という心配もあって


「…それなら『アンナ』の名でクレーバーン伯爵家の養子となり、セカンドネームをヴィヴィアンと名付けてもらえば良い」

と提案された通りにしてもらった。


アンナ・ヴィヴィアン・チャニング。

普段からヴィヴィアンはVと略して

アンナ・V・チャニングと署名すれば実名はバレない。

一安心だ。


申請が通り

養子縁組の手続きが終わるまで

王城の客室に滞在させてもらった。


そしてとうとう無事に戸籍を得られ

養子の手続きも終了し

「正式にクレーバーン伯爵家の人間となった」

事で義父のアラン・チャニングが迎えに来てくれた…。


養父となったアランは私を

「アニー」

と呼ぶ事に決めたようだ。


「アニー。改めてこれから宜しく」


「こちらこそ宜しくお願いします」


お互いに良い印象だと思いたい…。



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