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高い場所で椅子に座ってるのが国王だとするなら、他の人達は高位貴族とその家族だろうか。
衣装も煌びやかで皆が皆、壮麗だと感じられる。
(とりあえず、悪意の有無だけでも把握しておきたいわね)
と思いつつ
ざっと皆様の顔を見渡してーー
思わずギョッとする。
何故かクリストフもジョスランもいる。
他にも同じ年頃の少年少女らもいて、興味津々でこちらを見ている。
高位貴族らしい成人男性らの内の一人はカークランド公爵だ。
皆すぐ側に夫人らしき美女がいるが、カークランド公爵だけが美女を連れていない。
妻に寝首をかかれそうになって殺して以来、後妻も迎えず独り身を貫いたとかいう話は本当だったようだ…。
王国の太陽へご挨拶申し上げます云々の挨拶をディーン・クロックフォードがしている傍らで…
私はお辞儀して身じろぎもせずにいた。
(カーテシーというのは本当に無防備よね…)
と思う。
こんな体制でいる時にいきなり攻撃されたら普通に死ぬと思う。
どんな腕利きの魔法使いでも。
そんな覚悟をしてしまうくらいに、クリストフとジョスラン以外の皆様の視線は好意的ではなかった。
かと言って悪意的というのも違う。
珍獣を観察して
後で解剖してやろうとか
そんな事を考えているかのような視線だ。
単にこちらに人権を認めていないだけ、という感じか…。
「お前がヴィヴィアンヌ・シャリエール公爵令嬢で間違いないか?」
と訊かれれば
「はい」
と答えざるを得ない。
「お前を監視していた傭兵からの報告によると、お前は解呪魔法を使えるらしいが、確かか?」
「はい」
「そうか。それなら『解呪魔法を使える術者に解呪を依頼したい』と長年要望を出していたブライトウェル辺境伯に来てもらっているので、彼から話をしてもらおう」
そう言われて、カークランド公爵の近くに居た貴族男性が一歩進み出てきた。
「辺境ブライトウェル領伯爵ブルクハルト・クンツだ。お前が本当に解呪魔法を使えるかどうかを先ずは試させてもらう」
ブライトウェル辺境伯…。
その名を聞いて恐れないアザール人はいない。
ブライトウェル辺境伯は、ランドル王国内に巣食っていたアザール系裏権力を粛正しまくった虐殺者として知られている。
当時のバルシュミーデ人にとってランドル王国は新天地。
アングラ旧権力のアザール人が邪魔だったのは分かるが…
悪鬼の如き粛正ぶりはその一端を伝え聞くだけでも恐ろしいものがある。
ランドル王国に行く事があってもブライトウェル辺境伯とだけは遭遇してはならない、という心得はアザール人の間では広く共有されている。
「…何をするのですか?」
思わず警戒心が声にも滲み出た。
「いや、どうという事もない。所謂『呪物』と呼ばれる厄災を招く装飾品を幾つか解呪して、お前の能力を示せ」
「…分かりました」
身に付けた人間を不幸にするアンティークジュエリー。
その手の者を好む人達もいる。
だけど私は「所詮は装飾品」と思ってしまう。
わざわざ解呪してでも使おうと思う神経が分からない。
だけどーー
(「嫌です」と言ったところで私が解放される事は無さそうよね…)
と分かってしまう。
解呪自体は簡単だ。
アザール王国の王都中の呪物を解呪したのだ。
既に慣れたもの。
無詠唱で即座に解呪できる。
問題は
「魔力を認識できる人」
がいない場では
「本当に解呪したのか」
確認が取れないという事。
(まぁ、それっぽく見えるパフォーマンスは習得済みではあるのよね…)
ドリアーヌ・パラディールは微力な治癒魔法を使う際にわざわざキラキラ光るようにエフェクト演出をしていた。
その手口は読心と過去見でシーカーが暴いているので、私も習得済み。
なので解毒やら浄化やら解呪やらの闇属性魔法を使う時も、同時に光属性魔法でキラキラが出るようにする事も可能だ。
ブライトウェル辺境伯が
「これを解呪しろ」
と出してきたアンティークジュエリーに手を翳しながら、先ずはキラキラを出し、次いで解呪した。
「なんて崇高な光!」
「闇魔法の筈なのに…」
「解呪とは聖なるものなのだな」
「素晴らしい」
「美しい魔法だ…」
と大人の皆様が騙されてくれている。
鑑定魔道具かどうか知らないがブライトウェル辺境伯が何かの道具を取り出してアンティークジュエリーをジッと見てから
「…本当に解呪できている」
と目を見開いた。
(誰も解呪を目の前で見た事は無いみたいね。パフォーマンスは良い感じに決まったわ)
とホッとしたのも束の間。
「アンタ、何をしたのよ!」
同じ歳か少し歳下くらいの女の子が目を釣り上げて怒り出した。
「『アカオト』のグラフィックはシナリオに忠実なのよ!ヴィヴィアンヌがアナイスの魅了を解呪で無効化し続けてジョシュアに何も気付かれずに済んだのは、無詠唱による解呪は誰にも見抜かれないからよ。アンタ、無駄にワザとキラキラを出したわね!」
グラフィックとかシナリオとか言うキーワードで違和感を感じた。
「何の事でしょう?『アカオト』って何を仰ってるのでしょうか?」
(…もしかして、この女もドリアーヌやアナイスと同じように『この世界は乙女ゲームの世界だ』とか思ってるのかしら)
「…トボけてるの?それとも本当にアカオトシリーズの第二作品『暁の乙女と初代国王の遺産〜アントワーヌの人形〜』を知らないの?」
「…私は基本的乙女ゲームとは無縁の人間でしたので、何の話か理解できません」
「乙女ゲームって単語が出てくる時点で、アンタも転生者ってことよね?」
「とある精霊に言わせると『異界から来た魂』という事らしいですね。私も、幾人かの人達も」
「シーカーね?」
「…名前を知ってるんですね」
「そりゃ知ってるわよ。シーカーとフィリベール王子はヒロインがどのルートを選んでも出てくるんだから」
(…ドリアーヌみたいな革命推進派じゃないでしょうね)
「…アザール王国では『この世界は乙女ゲームの世界だ』と思い込んでいたらしいとある令嬢が革命派の悪意を私へ誘導するべく意図的に悪評を流していたようですが…。
そもそも革命は必要無いでしょう?私からするなら、革命派に協力して気に入られようとするのではなく、革命自体を止めろよなって話です」
「…アカオトのシナリオ傾向を知らないと、アンタみたいな考え方もできるんでしょうね。羨ましいわ。単純なオツムで」
「シナリオ、ね…」
「アカオトは基本的に普通のハッピーエンドにはならないの。国が滅んで、ヒロインが攻略対象と亡命して他国で平民として暮らすのが無難なエンド。
下手に国を救おうとすると【世界】が滅びる事になる。だからヒロインは救国的行動は一切取らずに攻略対象と逃げ延びる準備をするものなのよ」
「手頃な生贄を革命派に捧げて媚びるのもアリだと言うの?」
「そうよ。アンタ、それにしてもよく死ななかったわね。まだ殺される時期じゃないからかしら?」
「…私は殺されるキャラなの?」
「アンタはジョシュアルートの悪役令嬢。ヒロインがジョシュアルートの時には1年生の終業時に学院追放で平民落ちさせられる事になってる。
どの道、ヒロインがジョシュアルートじゃなくても2年生の時に起こる王都大火災の混乱時に暴徒に八つ裂きにされる運命よ」
「ヒロインをいじめてないのに?」
「死にキャラは普通大人しく死ぬものだと思うんだけどね…」
言い草が酷い。
「誰が死にキャラだ!」
「勝手にヴィヴィアンヌを殺すな!」
とジョスランとクリストフが失礼な令嬢に文句を言ってくれた。
ーーが
「黙れ!」
とブライトウェル辺境伯に一喝されて、ビクッとしてすぐに大人しくなったが…チラチラとこちらを見て、心配してた事を伝えようとしてくれている。
(それにしても、この失礼な令嬢は一体誰なんだろう?)
と不審者を見る目になったのが伝わったのか…
令嬢は皮肉な笑みを浮かべながら
「エメライン・マルトリッツ。メイスフィールド公爵令嬢よ」
と名乗ってくれたのだった…。




