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冒険者ギルドは国を跨いだ民間ギルドだと言われているけれど、実際には国籍はそれなりに意味がある。
世の中には「民間人のフリをした工作兵」のような卑怯な人間もいるので、冒険者に擬態した騎士などは特に警戒される。
冒険者ギルドの会員証は国内の町や村の出入りにおいては立派に身分証の役目を果たしてくれるが…
国境を越えるには、冒険者ギルドの会員証では不充分だ。
自国の関所の執政官へと
「移住申請書」
を提出し
「関所の執政官の印が押された出国許可証」
を発行してもらわなければならない。
一度行った事がある地なら自在に転移できるシーカーが出国許可証を用意してくれていたから、私もフィリベールへ【泥棒の極意】を潔く渡せたのである。
勿論、出国はできても入国させてもらえない可能性もあるにはある。
「国際指名手配されている」
ような犯罪者は国境のボディーチェックで武器を全て没収されて、そのまま牢屋へ連行される。
悪質な国への入国だと
「指名手配されてもいないのに身包み剥がれて牢屋へ入れられ、奴隷落ちさせられる」
ような事もある。
国交のない国へ行くのは、実はかなり怖い事なのだ。
私の場合は、他のアザール人の時と比べて、ランドル王国側の関所の人達はかなり親切だった。
アザール王国との国境の町は
パートランド公爵家の領地に含まれる。
パートランド公爵家騎士団の管轄地。
バルシュミーデ軍がアザール王国内を通過してランドル王国へ侵攻した際に、アザール人工作員が暗躍して、パートランド騎士団に壊滅的被害が生じたと言われている。
この地ではアザール人工作員のせいで大量のランドル人騎士達の命が散らされた。
この地の人達のアザール人への憎しみはひとしおなのだろう。
そういう土地は逆に同胞愛が強い。
青い眼がパスポート代わりなのか…
「里帰りかい?」
と笑顔で聞かれて
「生き別れの父を探しに」
と言うと
「見つかると良いね」
と応援された。
眼が青いだけで皆、好意的なのだ。
冒険者ヴィヴィもヴィヴィアンヌ・シャリエールと同じ設定。
「母親がランドル人男性と浮気して生まれた混血児」
「母の夫から憎まれて虐待されて育った」
そうした不遇設定にしておくと、国籍がアザール王国にあっても同情され、優しくされる。
不思議と誰も疑わない。
実際にネグレクトされて育ったので、雰囲気に孤独が染み付いてて妙に説得力を生じさせているのかも知れない。
「冒険者ヴィヴィとして生きていくのよね…。これからは」
不安もあれど
不安を上回る期待もあった。
冒険者ギルドの預金機能は国境を跨ぐと引き継げないので、アザール王国の冒険者ギルドへ預けていたお金は二度と引き出せないが…
どの道、凍結されていた。
それに今後は貯蓄にギルドの預金機能は使わない。
亜空間収納が一番だ。
因みに【泥棒の極意】と違って
「財布の中身のお金だけをスル」
事はできない。
熟練度が未だ不充分で
「財布ごとスッてしまう」
のだが…
亜空間へ収納するので
「お前が盗んだな!」
と疑われて身包み剥がれても証拠は出ない。
しかも財布は「ゴミ箱」へ捨てるので
「ゴミ箱を空にする」機能で消滅させられる。
ある意味で証拠隠滅の達人だ。
人を殺した後も死体を消滅させられるので証拠は出ない。
冤罪を仕組まれない限りは捕まる事がない。
しばらくは金回りの良さそうな道ゆく人々から財布を頂戴して暮らして行こうと思う。
あと一応、盗んだ硬貨を鑑定するように心掛けたい。
贋金が出回っている事もあるからだ。
もしも贋金をつかまされて、それを使用してしまえば
「何処で贋金を手に入れたのだ」
と追求される。
それは絶対に避けたい。
宿屋に入る前に一泊分の宿泊費用の金を亜空間から出して鑑定し
「本物だ」
と確認してから、宿屋に入り
「一泊」
申し込んだ。
そこで盗んだ金を全て鑑定。
自分の財布に鑑定済みの硬貨の九割を入れて亜空間収納。
一割を巾着袋に入れてウエストポーチに入れておく。
ランドル王国に入国した後も旅は続く。
ランドル王国内のダンジョンで稼いで、ポーションの店を開く開業資金を貯めたい。
店一つ開業するだけの資金を流石に盗みで賄う気はない。
絶対に怪しまれる。
アザール王国の公爵令嬢だとバレる訳にはいかないのだ。
(この国のダンジョンで一番人気はクレーバーン公爵領のパクストン・ダンジョンだったわね。ドロップ品が豪華でドロップ率も高いって話…)
クレーバーン公爵領のダンジョン街まで先ずは行かなければならない。
どの程度稼げるのかは分からないけれど…
「心臓を『転移』で盗む」
闇魔法は発動速度だけは自信がある。
人間にやると
「元に戻す」
事が出来ずに殺してしまうだろうから
殺されそうになった場合以外ではやれないけれど…
魔物相手なら気軽にいつでも遠慮なくやれる。
ダンジョン内で魔力を体外へ出すとダンジョンがそれを吸収して活性化するので良くないという話だが…
「転移」の場合は標的の心臓と亜空間とを直接繋ぐので、標的の心臓に向けて放った魔力は心臓と共に亜空間へと回収され、亜空間を維持する役に立つべく使用されるらしい。
ダンジョン内で魔物自体を少しズラした座標に転移させても殺せるが、死骸が肉片化して無駄にグロテスクになるし、それだと魔力をダンジョンに吸われるので良くない。
心臓を亜空間収納で殺すのが一番万能だ。
「くれぐれも心臓だけを亜空間へ収納して殺すように」
「短槍で心臓を突き刺してトドメをさすように」
慣れておかなければならない。
(息を吸うのと同じレベルの熟練度で)
内部空間拡張の収納鞄を購入しておけば、亜空間収納から出すものも鞄から出したように擬態できる。
「独りで冒険者活動をする気なら必ず購入しておくように」
とシーカーにも勧められた。
師匠お勧めの冒険者グッズだ。
勿論、勧められたのは中古品の低ランク品だ。
高級品を持っていると、それを狙う者が出てくる。
気配隠蔽しながら活動していても、冒険者ギルドで素材買い取りや討伐報酬をもらう時は気配隠蔽を解かなければならないのだから。
あと、高ランク冒険者には(一流の傭兵もだが)気配隠蔽は効かない。
「強者に目を付けられないようにしろ」
とシーカーが心配していた。
無二の親友からの心配だ。
無碍にはしない。
充分に気をつけていくつもりである。
公式にランドル王国内にはダンジョンが五つある。
ランドル王国とバルシュミーデ皇国とを隔てる樹海の中にある二つのダンジョンのうち、一つはランドル王国が、もう一つはバルシュミーデ皇国が管理しているらしいので、実質的にはランドル王国は六つのダンジョンを所有している事になる。
(パクストン・ダンジョンで稼げなければ、他のダンジョン街へ拠点を移しても良いし…。とりあえず、ドロップ品の豪華さで名高いダンジョンから探索してみるとしましょうか)
冒険者ヴィヴィのソロ活動は、先ずはダンジョン街まで旅する中での盗賊退治から始まる事になったのだが…
入国して直ぐの頃の私には
「元貴族が盗賊落ちしている」
というランドル王国の裏事情が理解できていなかった…。




