6:間話
【sideクリストフ・クラルヴァイン】
俺はアザール王国の王立魔法学院へ入学する事になった。
我が国のーーバルシュミーデ皇国のーー第一皇女と第二皇女の両名が
「アザール王国の国王の妃・王弟の妃となる」
事が決まったからだ。
未だ幼い皇女らが
「名実共に王妃・王弟妃となる」
のは先の事になるが…
「軍事大国」
の看板を背負う我が国が
「皇女らを他国へと身一つで行かせる」
筈もない。
第一皇女派、第二皇女派の各貴族家の子女らが
「将来的にこぞって仕える予定だった」
のだ。
「将来は第二皇女ベネディクタ様の良き側近として仕えるように」
と言われていた俺も…
ベネディクタ様の輿入れよりも先にアザール王国へ入国する事になった。
しかしアザール王国入りする直前ーー
俺の運命は急に不穏な方向へ向かった。
父から執務室に呼ばれて
「…お前は覚えていないだろうが、私には弟がいる。弟はーーヨナタンはーーランドル王国のカークランド公爵だ」
と言われたので、面食らった。
「………」
(いや、何?唐突に。…急に弟自慢?…えぇ???)
と戸惑ったが
何食わぬ顔で
「…そうなのですね」
と返事をした。
「そのヨナタンだが、実は妻に先立たれて以降、後妻も娶らず、ずっと独り身を貫いている。しかも愛人すら持たずにきているから、実子が本当に、1人もいないのだ」
「はあ」
(何を言いたい、何を)
「随分前から『次男を養子に欲しい』と言われていた。我が家の次男。つまりお前の事だな」
「…初耳です」
「言ってないからな。何しろ人生、一寸先は闇。未来で何が起きるか分からない。我が家の長男が無事に成人するかどうかも分からない時点で、次男を他所に出す訳にもいかないだろう?」
「…それで?」
「クリストハルトも立派に成長してくれたし、お前をカークランド公爵家の養子へ出した」
「………」
(何言ってんだ。このオヤジ…)
「不満か?ランドル王国の、とは言え、公爵家だぞ?」
「我が家も公爵家ですよね?」
「だがお前は次男なので後継ではない」
「以前、伯爵領をくださると仰ってましたよね?」
「すまんな。ベネディクタ様と共にアザール王国入りするとなれば、バルシュミーデ皇国内に領地を持っていても管理が行き届かなくなるだろうと思い、お前へ譲位するのは領地無しの子爵位となる」
「なるほど」
「だがランドル王国では次期カークランド公爵だ」
「…俺、アザール王国へ赴く事に決まってる筈ですが?」
「アザール王国の王立魔法学院へは入学してもらう」
「それじゃ、卒業後にカークランド公爵家へ行け、という事ですね?」
「ああ。ヨナタンの方からは『学院の高等部を卒業してある程度の教養を身に付けて欲しい』という要望が寄せられたが『ランドル王国の学院を』とは言われていない。アザール王国の学院を卒業するので問題無いだろう。
一応養子の件は既に了承していて、向こうでも本決まりしたそうなので、こうやってお前にも通告している。
なのでアザール王国でのお前の身分は『クラルヴァイン公爵家の次男』ではなく『カークランド公爵家の後継』という事になる」
(事後報告かい!何の相談も無かったぞ!)
「…それだと今後は姓もカークランド姓になるのでしょうか?」
「いいや。ランドル王国の貴族家の場合は姓と称号が異なるのが普通だ。弟のヨナタンも『ヨナタン・クラルヴァイン』のまま、カークランド公爵だ」
「名前は変わらないんですね」
「そうだな。学院卒業後の進路が変わっただけだ。良かったな。何と婚約者まで付いてくるらしいぞ?」
「…あ“〜…」
(そういうのは要らないんだが。マジで…)
「アザール王国のシャリエール公爵がランドル国王のヴィクトール陛下と取引きをして『娘のシャリエール公爵令嬢を差し上げます。妾としてでも奴隷としてでも好きに利用してください』と言ってきたらしくてな。
ヴィクトール陛下が『ヨナタンの後妻に』とカークランド公爵家へ令嬢の所有権を押しつけてきたらしいんだ」
「ヴィクトール陛下。…我が国のフリートヘルム陛下の義兄にあたられる方ですね」
ランドル王国のヴィクトール王はバルシュミーデ人だ。
元はバルシュミーデ皇国第一皇子だった方が、ランドル王国を実効支配後、ランドル王国の当時の王妹を女王に仕立て上げ、その女王の娘を(王女を)娶る事で王位を継承なさった。
つまり今現在、ランドル王国はバルシュミーデ皇国の属国なのである。
「ああ。ヴィクトール陛下もお人が悪い。ヨナタンが『要らない』と言ってるのに無理に押し付けるんだからな」
「それで叔父上は、今度はその不用品を俺に押し付けようと…」
「まぁ、『シャリエール公爵令嬢』がどんな娘かは知らんがな」
「実の父親から『妾としてでも奴隷としてでも好きに利用してください』とか言われて捨てられる令嬢って、一体…」
「シャリエール公爵が取引きで求めたのは『血縁関係看破魔道具』らしいからな。どうせ『妻の不貞で托卵された』とか、そういう事情があっての腹いせだろう。おそらく令嬢の側には落ち度はない。夫人が浮気をした結果だろうとも、子供自身は『生まれてきただけ』だ」
「『おそらく』でしょ?」
「………」
「アザール王国の公爵令嬢、という事は、アザール王国へ行けば、その令嬢に会える、という事でしょうか?」
「多分な」
「なんか、アザール王国へ行くのが怖くなってきました…」
「男は度胸だぞ」
「…『シャリエール公爵令嬢』か…」
「…因みにお前と同じ歳だ。王立魔法学院高等部の新一年生として入ってくるだろうから運が良ければすぐに会える」
「全く嬉しくないんですが?!」
無責任な大人達の皺寄せで
勝手に進路を決められて
勝手に婚約者まで決められてしまった…。
嘆いてもどうしようもない…。
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そうして、いざアザール王国に着いてーー
王立魔法学院高等部の男子寮で荷解きしていると…
どうやらアザール王国のラングラン公爵令息が隣室だったらしく
「丁度、我が国の宰相からバルシュミーデ皇国からの入学生達のお世話を言いつかっていました。シャルル・ラングランです」
と挨拶しにきた。
宰相の甥に当たる公爵令息なので、王子に継ぐ権力者だろうに愛想が良い。
俺は真っ先に
(シャリエール公爵令嬢について聞きたい)
と思ったのだが…
(シャルルがシャリエール公爵とランドル国王との取引きを知ってるとは限らないんだよな…)
とも思ったのでーー
婚約者に関して聞きたい気持ちをグッと堪え、バルシュミーデ人学生の学院内での待遇に関してのみ質問した。
すると、どうやらバルシュミーデ人学生はSクラスに一纏めにされるらしく、アザール人学生らとは関わる機会があまり無いらしい事が分かった。
文化も習慣も違うのでトラブル回避のために関わり自体を制限する方針が取られているようだ。
(それだと、「シャリエール公爵令嬢がどんな為人かを見る」ような機会も無いって事だよな…)
と判り、ホッとしたような残念なような…
微妙な気持ちになったのだった…。




