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フィリベールにシーカーの声が聞こえない以上、シーカーの望みは私が代弁する必要がある。
「私がフィリベールお兄様にーーいえ、フィリベール殿下にシーカーの事を話して納得させなきゃいけないのよね…。…変な詐欺とかを疑われて攻撃されたりとか、しないでしょうね?」
と心配になる。
「…女に対していきなり攻撃はないだろうが、いきなり拘束という事はあり得るかも知れないな」
と言われ
「何それ、コワイ」
と思った。
「仕方がなかろう。何せお前は死んだと思われている。『死んだ筈のヴィヴィアンヌに化けて近付いて来るなど、何のつもりだ!』と当然思われる」
「…偽物だと思われてしまうって事?」
「そうだ」
「行方不明者が出てきても、喜ぶでもなく偽物扱いって…酷い…」
「人間社会はそういう所だ」
「…フィリベールお兄様にシーカーが見えれば良いのにね」
「そう言えば、私が封印されていた巻物は何処にある?」
「【泥棒の極意】の宝箱に入れてるわ。失くす心配が要らないように」
「なら、それを持ってアントワーヌーーいや、フィリベールに話しかけてくれ」
「分かった」
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リュカに化けたフィリベールは学院内の隠し通路、隠し部屋をウロつくのが趣味のようだ。
私のように図書館傍の隠し部屋で読書・自習するような、一ところに収まっておくような落ち着きはない。
「フィリベールの場合は高等部3年間の学習は入学前に終えている。学院入学の目的は学院内での情報収集と七不思議魔道具の回収だ。
【封印の巻物】以外は既に回収し終えているので、このところは学生・教員の中にいる革命派の暗躍の証拠を集めている。
そのうち断罪して、革命派の組織性解体を図る気だ」
「シーカー…。貴方ってホント健気ね。存在を認識すらしてもらえていないのに、フィリベールお兄様に加勢したいのね?」
「…今世のヤツが闇属性を持たないからだ。私の方でもフィリベールがアントワーヌだと気付けなかった。
【封印の巻物】自体が『光属性か闇属性を持つ者しか見つけられない』という制限付きだ。
アントワーヌは自分が来世で違う属性で生まれる可能性を考えていなかったのだろうな」
「【夢見の香炉】で未来を見た筈なのに?」
「【夢見の香炉】が示した未来は、アザール王国の滅亡と特級禁忌魔法を発動させようとする男の出現だ」
「【夢見の香炉】で見た未来に自分が居なかったから、自分の来世での属性が分からなかった、という事ね」
「そうなる」
「…それなら【封印の巻物】は誰にも発見出来なかった可能性が高いわ」
「お前以外の異界の魂の者達は『ヒロインが【封印の巻物】を見つけてフィリベール王子と知り合う。ヒロインの攻略対象がフィリベール王子ルートではなくても、フィリベール王子はヒロインを好きになる』というシナリオを信じていたので、発見自体はされる運命だったのだろう」
「『ヒロイン』ね…」
「アナイス・カンタール。『アナイス』はアントワーヌの妻の名だ。アナイス・カンタールは姿もアントワーヌの妻に似ている」
「そうなの?」
「…『乙女ゲームのシナリオ』とやらを書いたのが、この【世界】の神だとしても、私は驚かない」
「…だとしたら神様って、欠陥だらけよね。『特定の人物に【世界】を救わせよう』とシナリオを描いてしまうと、いざ当人達が『自己犠牲したくない』『【世界】なんて救わなくて良い』と思った場合、即詰んでしまうでしょうに」
「そこは私とアントワーヌで補うしかないだろうな」
「…因みに、私は『自己犠牲したくない』人ですから」
「だろうな。だからこそ安心だ。変に自己犠牲的な救世をやりたがる善人は狂っている。
自己犠牲者は一転すると、『お前も自己犠牲しろ』と、特定の他者へと因縁を付けて地獄へ落とそうとする鬼畜な悪魔へと変貌しかねない」
「でしょうね。…私は自己犠牲も神業的忍耐も故意に生み出されるべきではないと思うわ。自分もそれを強いられたくないし、他人へも強いたくない。だから『他人へと自己犠牲と神業的忍耐を強いる者こそ、それを強いられれば良い』と思ってしまうの」
「そういう地獄を生み出させないためにアントワーヌは『私とシーカーなら対処できるのだから私達で対処しよう』と決意していた筈なのだがな」
「…目を失った事はアントワーヌにとって地獄だったの?」
「よくよく考えてみろ。今現在は赤眼に非らざればアザール王族にあらず、という位に赤眼が正当化されているが、当時は『瞳の色が赤く変化した』など、人間の感性的に吉兆と捉える事は難しいだろう?
それこそ大規模な精神干渉を施して、当時の人々に赤眼の王を受け入れさせたのだ」
「特級禁忌魔法で【世界】が滅びそうだったから止めてあげた、という善行が仇になってたのね」
「『【世界】を滅ぼす魔法で、【世界】を滅ぼす魔法を相殺する』事でしか、【世界】を護れない、という事実が恐ろし過ぎて、人々は本能的に闇魔法に対して悪印象を持ってしまうのだ。それこそ光魔法で洗脳でもされない事にはな」
「そう…」
「アントワーヌが前世の記憶を思い出してくれたなら、『アナイス・カンタールから光属性の魅了を盗むように』と勧めてみるつもりだ」
「アナイス・カンタール…。あの特待生。自分がヒロインだって知ってて、全然ヒロインの役目を果たして無かったって事よね?」
「あの娘は自己犠牲どころか、ほんの少しの社会奉仕すらする気がない。徹頭徹尾『自分と父親が無事にランドル王国へ逃げて平和に暮らす事』しか考えていない。
学院へ入学してきたのだって『ルート毎に王都が暴徒で溢れる時期は異なるから、いち早く情報を掴みたい』『それまで学べるだけ学んでおこう』という腹づもりだ」
「まぁ、恋愛至上主義フィルター抜きで物騒な社会現状を見れば、そうなるのも理解できるわ。ゲームと違って、本当に自分の命だって脅かされる訳だしね」
「…そういう感覚は私には理解できない」
「シーカーは肉体が無いから『殺されずに生き延びる事が恋愛感情よりも遥かに大事』という生き物特有の感情が理解できないのね」
「…アントワーヌもそうした感情を持っているのかも知れないな。前世での決意も忘れて…」
「かも知れない。前世の記憶を思い出させる事はできるの?」
「『乙女ゲームのシナリオ』によると、フィリベールはヒロインから【泥棒の極意】を譲渡される事で前世の記憶を思い出す」
「だから、シーカーは【泥棒の極意】をフィリベールお兄様に譲渡させたかったのね」
「そうだな…。【泥棒の極意】の小精霊はお前を気に入っている。アントワーヌの生まれ変わりにも興味があって、アントワーヌの元に戻りたがってもいるが、お前の元に留まりたがっている気持ちも持っている」
「…シーカーが『小精霊もアントワーヌの元に戻りたがっている』みたいに仄めかしたのも、嘘は言ってなかったのね」
「ああ。『お前の元に留まりたがっている気持ちも持っている』と伝えなかっただけで、嘘は言ってない。
精霊は嘘はつけないので、『任意で特定の情報に関して話さない』事で印象操作するしかないし、こういう手法は人間も、特に賢い詐欺師もよく使う手口だ」
「…どうして、今日のシーカーはそんなに正直なの?」
「…私もお前の事が気に入っていたが、私にはお前の元に留まり続ける気がない。だからせめてお前がこれからの人生を無事に生き延びられるように教えておける事は教えておきたいと思ったのだ」
「ありがとう…」
「…それでは、行くか…」
「うん…」
私とシーカーはフィリベールの元へ向かった。
私とシーカー2人の別れを覚悟してーーー。




