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亜流【世界】の生き物達は皆強い。
ダンジョン内に召喚される魔物達は、こうした亜流【世界】の生き物達が召喚されている。
一方で「不可視の魔物」の場合は、【世界】と【世界】の狭間に棲んでいる。
そうした厄介なモノ達が【扉】が開いた時に本流【世界】へと侵入する。
「この小屋の周りには結界を張っているから、余程強力な魔物が襲撃して来るのでない限り、安全だ」
とシーカーのお墨付きを頂いているが…
「強力な魔物が襲撃してきたら結界が保たない、という事よね?」
と訊くと
「そうとも言う」
と言われ、不安ではある。
「早めに『転移』を習得して、敵の心臓を抜き取れるようになれば、何の問題もない。習得が間に合わなくても【泥棒の極意】を使えばいつでも敵を瞬殺できるのだし、不安要素はない筈だぞ」
「シーカーは合理的よね。『つい悪い想像をして不安になる』という人間心理とは真逆の考え方みたいで羨ましい」
精霊という存在は肉体が無い分、不慮の死を恐れる事もない。
そういう存在だと殺傷力の高い敵に襲撃される恐怖というものが根本から理解できないのだろうと思う。
「とにかく、結界の内側からでも『転移』は使える。結界に守られながら、結界の外にやってきた魔物相手に『転移』を試せるんだ。訓練場として最適だろう?」
「そう言われてみると、そうね」
一応納得して、1年間の修行に入る事になった。
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闇魔法の
「読心」
「過去見」
は情報収集だけでなく
「他人の能力を使いこなす」
のにも効果を発揮する。
【泥棒の極意】に宿る小精霊に対して
「読心」
「過去見」
する事で、小精霊がアントワーヌを気に入っていた感情が流れ込んできた。
小精霊はアントワーヌを子供時代から見守っていた。
(子供時代のアントワーヌって、リュカに似てる…)
しかもアントワーヌは双子だった。
アントワーヌと双子の弟のセヴラン。
アントワーヌが闇属性の適性を持つのに対して
セヴランは光属性の適性を持っていた。
セヴランの光属性は魅了に特化した魔法適性だった事もあり…
アントワーヌの周りの者達はセヴランばかりを可愛がった。
当時のアザール王国の領土は複数の小国が周辺の大国を牽制する目的で連合を組んでいる連合国家群だった。
アントワーヌとセヴランはそうした小国の一つをまとめる大公家の令息達。
本来なら兄であるアントワーヌが父の後を継ぎ、セヴランは冷遇される筈が、両親はセヴランを手放したくないために継承権の順位を入れ替えた。
「アントワーヌには能力的にも人間性にも問題がある」
と言い張り、後継から外したのだ。
貶められた上での継承権の引き下げという事もあり、その後の婿入り話もマトモな相手からは来る筈もなく…
「男爵家の未亡人」
の元へ婿入りする事が決まった。
アントワーヌは自分の人生に絶望した。
そんな時期にアントワーヌはシーカーに出会った。
闇属性の魔法で出来ない事など無いのではないかと思われる上位精霊。
アントワーヌは私と同じように封印を解いて、契約し
「シーカー」
と名付けた。
(…ああ、そうか。…この小屋は、シーカーがアントワーヌのために用意したものだったんだ…)
と分かった。
アントワーヌもまた
「一刻も早く闇魔法に習熟したい」
と望み、この亜流【世界】で修行していたのだ。
アントワーヌを子供の頃から見守っていた小精霊もまた、アントワーヌと共に自分の魔法を鍛えていたので、アントワーヌができる事を自分もできるようになった。
そしてアントワーヌが魔法を使うたびに小精霊も真似て同じ魔法を使うので、アントワーヌの使う魔法の効果は常に倍になっていた。
ここで3年間。
本流【世界】では3ヶ月間時間が経過した頃には、アントワーヌは闇魔法の達人になっていた。
そうして修行を終えたアントワーヌが本流【世界】の家族の元へ戻ると
「お前が婿入りを嫌がって逃げたせいで違約金を支払わされた!」
と両親と弟にキレられた。
誰も
「生きていたんだね。良かった」
などと言わなかった。
だからアントワーヌは盗む事にした。
セヴランの魅了も
両親の愛情も
爵位も財産も全て。
「欲しいものは全て盗む」
と決意した後のアントワーヌは容赦なかった。
連合国家群をまとめ上げてアザール王国を興した事も
「欲しいものを盗み続けた結果」
である。
初めから国を興そうなどと思っていた訳ではない。
一目惚れした男爵令嬢のアナイスと結婚するために
「アナイスを聖女にする」
べく
「アナイスに解毒魔法と治癒魔法を使わせるために光属性と闇属性の適性を他人から盗む」
ような事もした。
要は初代王妃アナイスが解毒魔法と治癒魔法に長けた聖女だという伝承は【泥棒の極意】の賜物であり、男爵令嬢のアナイスは水属性の適性を持つただの美少女でしか無かったのである。
そうして世を欺いて妃にしたアナイスの事を、アントワーヌは心から愛していたらしく…
アナイスがシーカーへ特級禁忌魔法の対価として両目を支払い盲目になった時には、迷わず自分の両目をアナイスへと与えた。
アントワーヌにもらったアナイスの眼も
黒眼の義眼を入れたアントワーヌの眼も
呪いで真っ赤に染まった。
アントワーヌの緑眼を気に入っていたシーカーは
「…アナイスから対価を受け取らなければならなくなったのは、そもそもが特級禁忌魔法で【世界】を滅ぼそうとした男がいたからだ」
と主張し
「犯人の男の親族達に連帯責任を負わせる」
という形で眼を奪っていった。
そうした
「罪人の親族達の眼」
を魔道具の材料へ組み込み
作られたのが
【真実の鏡】
【夢見の香炉】
【呪言改竄帖】
だった。
「罪人の親族達の眼」
が憑座になって、小精霊達が憑いた。
「世の中が少しでも良くなるように役立てるために使う」
とアントワーヌは誓いを立てて、それらの魔道具を使った…。
それらの魔道具には
「アントワーヌの瞳」
という文字が刻まれていた。
当時の言葉で
「瞳」
という語は
「人形」
とも言う。
近しい人の瞳を覗き込むと
その相手の瞳の中に
自分の姿が小さく映る。
まるで人形のように。
よって
「瞳」
という語は
「人形」
を意味すると同時に
「鏡」
をも暗喩していた。
人が鏡を見て身を正すように
アントワーヌも魔道具を用いて
自分自身を正し
自分自身の堕落を禁じた。
治世は恙なく行われて
アントワーヌは偉大な初代国王と呼ばれた。
中でも
【夢見の香炉】
は治世に関して大いに役立った。
アントワーヌが自分の死期を悟ったのも
【夢見の香炉】
で未来予知した結果なら
シーカーが再び封印される事になったのも
【夢見の香炉】
による未来予知が原因だ。
「いつの日か、アザール王国が滅ぶ時に、再び特級禁忌魔法『超重力天体召喚』を使って【世界】を滅ぼそうとする者が現れる」
と未来予知で判ってしまったせいで
「【世界】を滅ぼそうとする者の前に、今度こそ私自身が立ち塞がるように」
とアントワーヌは誓い
「再び『我が師』(シーカー)と共に甦ろうぞ」
との願いを込めてシーカーを封印し、自分自身も死を迎えた。
(そうだったんだ…)
私は【泥棒の極意】に憑いた小精霊の記憶を読みながら、諸々が腑に落ちた。
シーカーはアントワーヌを友達ではないと言いながら、友達と思っているようにしか思えない振る舞いをしていた。
そうーー
「ただの友達」
なんかじゃない。
「戦友」
のようなものだから…
シーカーは
「友達」
という言葉でアントワーヌを括れなかったのだ…。




