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シーカーに
「アントワーヌの生まれ変わりは、この学院の生徒なの?」
と尋ねても教えてくれない。
何故教えてくれないのかすら教えてくれない。
「今はまだ答えたくない」
という言い分こそが、その事に関する唯一の情報だ。
(私に教える事でアントワーヌの生まれ変わりに何か損害が生じるとでも思ってるのかしら?)
謎だ。
だがシーカーに言わせると
「契約権の譲渡」
が必要になるので、そのうち必ず私はアントワーヌの生まれ変わりに会って
「契約権を譲渡する」
行為を行わなければならないらしい。
どうせそのうち会うのに…
何故正体を隠すのか、意味が分からない。
釈然としないものを感じつつも、無事に王都中の呪物を解呪し終わる日がやって来た。
「…これでやっと、お前を悪く言う者達の言葉は力を失った。今後は『虚言は正しく虚言として受け止められる』事になるので、お前は寧ろ人々から同情される位置付けを得られるだろう」
シーカーがそう宣うたので
私のほうも
「〈それなら冒険者ギルドは買い取り停止措置を解いてくれるかしら?預金の凍結も〉」
と気になる点を尋ねたところ
「金が絡む場合は、人間どもは敢えて誤解を誤解のまま引きずる傾向が強い。実質冒険者ギルドを仕切ってる勢力側が『職員達に公正さを強いる』自浄作用を持つ者達でなければ、国内の冒険者ギルドでは、このままの対応が続く可能性が高い」
と絶望的な解答をいただいた…。
「〈冒険者ギルドって民間組織よね?…もしかして反権力的な人達が仕切ってるの?〉」
「昔は王家の影達が仕切っていたらしいが、現在は他国の影とこの国の反権力層とが入り乱れて影響力の奪い合いをしてる現状のようだ」
「〈他の国だと、どうなの?〉」
「バルシュミーデ皇国の冒険者ギルドは普通に皇家の影が仕切っている。ランドル王国の冒険者ギルドは『元愛国派』と呼ばれる傭兵組織が仕切っている。南方連合国はこれまた各国の影が仕切っている。
お前が自国の権力から冷遇されて、尚且つ自国の民間ギルドからすら搾取された情報は各国の冒険者ギルドに伝わるだろうから『アザール王国のコネクション外の民間人』として、アザール王国以外では普通に受け入れてもらえるだろうし、お前の血筋と能力が分かれば『有用人材引き入れ』の対象にされる」
「〈『有用人材引き入れ』対象?〉」
「他国へ逃げても他国の何処かの派閥に取り込まれるだろう、という事だ」
「〈魔法適性が高い高位貴族の血筋は需要がある、のね?〉」
「そうだ」
「〈やっぱり平民として他国で暮らすにも政略結婚的な婚姻関係が強いられるのかしら?〉」
「闇属性の魔法適性を持つ者自体が希少だし、闇属性の魔法適性を持つ者で魔力の質が高い者となると更に希少だ。
お前は簡単に『解呪』を覚えたが、普通は闇属性の魔法適性を持っていても、なかなか覚えられない。
『解呪を使える』というだけでレア魔道具を収集する趣味を持つ金持ち達から狙われるくらいには需要が高い」
「〈レア魔道具に解呪が必要なの?〉」
「レア魔道具が呪物と化している場合もある」
「〈そうなの?〉」
「レア魔道具に小精霊が憑く場合もあるのだ。凶悪な死霊や、非業の死を遂げた犠牲者達の死に際の念が憑いて呪物化する事だって当然ある」
「〈コワッ…〉」
「レア魔道具を使いたいのに使えない状態の者達は解呪師に縋るしかないのだ」
「〈なら、『解呪を使える』私は今後食べていくのに困る事は無いわね?〉」
「さてな。需要があり過ぎると、監禁されて、ひたすら呪物化した品々を解呪させられる環境に囚われる可能性もある。『転移』を覚えず半端に優秀だと、ろくな目に遭わない」
「〈うわぁ〜…〉」
「転移」と「亜空間収納」を覚えるための訓練…。
気乗りしなかったけれど、やっぱり訓練は必要だと思った。
シーカーは私を不安にさせて誘導するのが巧みなヤツなのだった…。
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そうしてーー
長期休暇前の終業式の日。
私は
「湖でスケートをしたい」
と我儘を言い…
襲撃に遭い
割れた氷の隙間から湖に落ち
そのまま行方不明になる
というシーカーの描いたシナリオ通りに事を進めたのであった。
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シーカーの「訓練用亜空間」ーー。
時間の流れが違う、と教えられたけれど…
全然、通常の空間との間に違和感がない。
不思議だ。
森の中の小屋の前に出たので
思わず辺りをキョロキョロ見回した。
「…この空間ーーこの亜流【世界】の森は、一見普通の森だが。我々の【世界】でいう『魔界』。つまり、この亜流【世界】で出会う生き物は全て『魔』がベースに在る魔力持ちだ」
「…えっと。…この空間では魔力を持たない、ただの人間や、ただの動物がいない、という事?」
「そうだ。この亜流【世界】では『魔人』が人間の位置付け。『魔物』が動物や植物の位置付けにある」
「亜流【世界】、すごい…」
「確かに、戦闘力や生命力の面で亜流【世界】はレベルの高い生き物で溢れている。
しかし我々の【世界】こそが本流だ。それを忘れてはならない。
お前が理解できるかは判らないが…川に擬えるならば、亜流【世界】は分流の小川。本流から分岐し、再び本流と合流する。
そういうルートを辿る分流。本流とは異なる独自の生態系から成り、本流へも影響を与えるが、分流は分流でしかない」
「どうして時間の流れが違うの?」
「厳密には時間の流れは一定しておらず相対的だ。闇属性の魔力を持つ者達が無自覚のまま調整しているから、【世界】の時間の流れが安定したリズムで一定のペースで流れているかのように感じられる。
闇属性の最たる能力は時間の流れを自分にとって有利なように任意で調整できる事にある。そして他者が調整した流れに一次的に適応できるのも闇属性か光属性のみだ」
「それじゃ、闇属性か光属性を持たない人がこの空間に紛れ込んだら、この空間の1年間が本流【世界】の1年間と同じになってしまうという事?」
「必ずしも『本流と同じになる』とは限らない。もっと悪ければこの空間の1年間が本流【世界】の12年間になる事もあり得る。
お前は普段、闇属性の有り難さを実感する事が無いのだろうが…闇属性は空間毎の時間の流れだけでなく重力の差異すらも調整してしまう」
「闇属性なら誰でもできる、という訳ではないのでしょう?」
「勿論。闇属性の精霊も下位精霊だとせいぜい『解毒』『浄化』ができる程度だ。私はこう見えて上位精霊だから、闇属性の魔力でできる事を余す事なく行使できる」
「シーカー先生!すごい!」
「そうだ。私はすごいのだ」
猫面がドヤ顔をしている…。
シーカーの説明を充分に理解したとは言えないし、自分が同じレベルで亜流【世界】の時間の流れを調整できるようになれるとは全く思えないのだが…
すごいものをすごいと理解できる程度には私も魔法というものを理解できるようになった…。
「あと、ヴィヴィアンヌ・シャリエールが『死んだ』という事になると学院も自動的に退学となり『薬草学』や『魔法薬学』を学ぶ機会もなくなるだろうから、学院の図書室から教科書と参考書を拝借してきている。独学で学べる分は頑張って学んでおくと良い」
図書室から拝借してきたという本が大量に小屋の中のテーブルの上に積み上げられていた…。
それを見て
「上級魔法の習得に加えて、ポーション作りの習得か…。やり甲斐はあるけれど、1年間も頑張れるかな?」
と、かなり心許なくなった…。




