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挿絵(By みてみん)


呪物の解呪のためとはいえ、夜な夜な王都中を徘徊して回るのは体力的にキツイ…。


私はインドア派だ。

隠し通路から皆様の声を盗み聞きして情報を仕入れる陰湿な女だ。

動き回るのはトコトン性に合わないのだ。


「う〜ん。シンドイ…。シーカーは肉体が無くて楽よね」

とイヤミを言いたくなる。


「肉体が無いなら無いで別の苦労もあるのだがな…」

シーカーが可愛い猫顔で呟いた。


(どんな苦労なんだろう?人間から必ず報酬を回収しなければならない、という事が関係してるのかな?)

と少し興味が湧いた。


ーーが


今はとにかく疲労が溜まっている自分自身の状態が一番の問題だ。

呪物の解呪は

「解呪魔法を使うだけ」

という事ではないのだ。


そもそも先に浄化してからでないと呪物自体に触れられない。

故に、浄化魔法と解呪魔法とをセットで使う事になる。

魔力量自体は私はかなり多めらしいので魔力切れは簡単には起こらなそうだが…

魔力消費抑制のために身体強化は使わないように指示されている。


結構な距離を身体強化無しで毎晩夜中に三、四時間歩き回る生活が続いている。

そんなの何日も保つ訳がない。


シーカーは

「平民は普通に15時間立ちっぱなしで仕事をしてたりするぞ」

とブラック労働を引き合いに出してくる…。


どうやらシーカーの見込みでは、私が市井で暮らすと

「15時間立ちっぱなしの仕事しかさせてもらえない待遇」

に落ちる事になると、ほぼ確信している模様…。


(こちとら一応、魔法も使える優良労働者ですが!)


「〈そういえば…。何日くらい解呪して回れば、王都中の呪物を無効化できるの?〉」

と万が一の盗聴に備えて前世の言語でシーカーに問いかけた。


「方位を八等分して回ってるので、一日一方位回れば八日で済む予定だ。魔力が持つなら休日で二日分回れるので、その場合はたった七日で済む」


「〈たった七日、ね…。〉」

七日って「たった」という言葉で括られるような短時間だったのか…。

精霊の時間感覚はやっぱり人間とは違う。


「それにしても…。人間が尾行して来てるぞ」


「〈…不審者?それともストーカー?それとも何処かのお国の影?〉」


「お前のクラスメイトだな」


「〈…もしかしてストーカー?…いつの間にか惚れられてしまったとか?…迷惑よね。ホント〉」


「…お前のような正直すぎる性格の女に惚れると苦労しそうだな」


「〈尾行はまけるのよね?当然〉」


「当然だ。任せておけ」


(クラスメイトは、特に特待生は、優秀な人達が多いから侮れないのよね…)

他の学年だと特待生は二、三人らしいので、同じ学年に如何に優秀な人材が揃っているのかが分かる。


しかしシーカーは私以上に陰湿な性質なので隠れるのも煙にまくのも得意中の得意の筈だ。


「隠蔽結界をサービスで使ってやる」

と言い、本当に高度な結界を無報酬で使ってくれた。


「ケチなシーカーが大盤振る舞いね」

と感心したところ


「…精霊は決して『ケチ』で報酬を回収している訳ではない」

と猫面が微妙に不機嫌に歪んだ。


「そうなの?」


「精霊が精霊たる資格を失うのも、人間が精霊になってしまうのも『等価交換』が関係しているのだ」


「『等価交換』?」


「必ず相応しい対価をいただく、という等価交換の原則を破れば、精霊は精霊でいられなくなる」


「精霊が消えるって事?」


「いいや。肉体を持つ存在にーー人間や動物として生まれてくる事になる」


「…それは、嫌でしょうね」


「ああ。だから精霊は気に入った人間のために無償で何かをしてやりたくなっても、決してそうはしない。してはならない」


「ケチだからじゃなかったんだ」


「人間が精霊になる際は、先ずは、生きている間に全く等価交換が為されなかった者達が生き物として生まれ変わり続ける輪廻の輪から逸脱する。

そして魂そのものが解体されて永く【世界】に仕えさせられる事になるから、反転作用によって能力を持つのだ。

契約を守りながら人間と関わる精霊は『等価交換を希う』から人間と関わっている『等価交換の執行者』のようなものだ」


「…それなら、私は、精霊になりたいかも」


「…そんな願いは持たない方が良い。人間が精霊になるには魂が壊れ奪われ尽くす絶望経験を必要とする。それはお前が思うよりもずっと苦しい」


「…そうなのね。…でも、そうなると、精霊に対する見方が変わってしまうわね」


「お前は精霊を今まで何だと思ってたのだ」


「単に我儘で、単に力を持った、ケチな存在?」


「………何も知らない人間からするとそう見えるのだな」


「ごめんね。今後は敬意を持ってシーカー師匠に師事します」


「なら良い」


そうして私達は尾行をまきながら、つつがなく王都内の呪物を解呪して回った…。


******************


このところクリストフと二人きりになる事がない。

何故かクリストフと話す時はジョスランも側にいる。


結果、同じクラスにいるジョスランとの方が話す機会が増えてしまっている。


(ポレット嬢との婚約が解消されたそうだけど、私はクリストフと婚約してるので、あまり親しくするのも良くないと思うんだけど…)

と少し戸惑っていたら…


シャルル・ラングランが空気を読んでジョスランに話しかけてくるので、ジョスランとも二人きりにならずに済んでいる。


クリストフとジョスランとではクリストフの方が少し誕生日が早いのでクリストフの方が「兄」という事になる。

なのでジョスランは私からすると婚約者の義弟。

私がクリストフと結婚した後は一生親戚付き合いする事になる人なので嫌われたくはない。


ただ少し…

(というか、かなり?)

視線が甘い気がするのだが…


気付かないフリをするに限ると思った…。



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