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私はそれ以降も襲撃に遭った。
パスカルのような元貴族の男が暗殺者を雇おうにも
「金がない」
のだから、暗殺者ギルドのような
「報酬絶対主義者」
の方でも依頼を断るのが通常の流れの筈だが…
暗殺者ギルド所属の暗殺者の中にも巷の噂を鵜呑みにして
「魔女を討伐しておかなければ!」
などと義侠心を持った人間がいたらしい。
暗殺者が隠し部屋まで侵入してきて
気配を消した状態から急に
毒の付いた短剣を振り翳してきたので…
咄嗟に【泥棒の極意】で時間停止状態にし
シーカーに相談の上
ドリアーヌから頂いた「魅惑」を使い
私に好意を持たせて事情を聞き出してから
「依頼主を殺すように」
説き伏せて追い返す事に成功した。
しかし流石に私も動揺したので
「こんなんじゃ、命が幾つあっても足りないわよ!」
と泣き言が悲鳴のような声になった。
前世の記憶があり
既に元夫に殺されたという
「殺人被害者の経験」
があっても
「殺される事態に慣れる」
ような事は絶対にないのだ。
シーカーは
「早急に地道に街中に隠されている呪物を探し出して解呪していくしかないだろうな」
と、シーカー自身が私に聞かせた計画の早期履行を求めた。
シーカーは長期休暇に入る前に呪物を全て解呪しておくようにと私に薦めていたのだ。
シーカーに言わせると
「アントワーヌに王都中の呪物を解呪させるのは、アントワーヌに無駄な手間を取らせる事になる。今世の彼は忙しいのだ」
との事。
シーカーはアントワーヌの生まれ変わりに仕える事になる前提で、私に
「王都中の呪物を解呪しておけ」
と薦めているのである。
しかし、私が今現在世間の皆様から偏見を持たれまくってる元凶が、これまた
「王都中にばら撒かれている呪物」
にあるので…
一応利害は一致している。
シーカーは
「先程の暗殺者を雇った依頼主の側から内臓を頂いて、呪物探しの対価にあてるから、お前からは対価を回収せずにおいてやれる」
と美味い話をして、誘導してくる…。
「…王都中の呪物って、もしかしてドリアーヌが作ってばら撒いたの?全部?」
「いいや。呪物は『生き物を苦しめて殺す』事で出来るので、必ずしも光属性適性の魔力が無くても作れる」
(うわぁ〜…「生き物を苦しめて殺す」だなんて…)
ドン退きである。
シーカー曰く
「呪物というものは拷問や儀式殺人が行われる社会では意図せずとも発生してしまうものだ。
そうやって発生した呪物を王都内の各所に埋めるなり隠し潜ませるなりしておけば、『呪物の結界』が生じて、人々が陰惨な殺戮欲に憑かれやすい状態になる」
のだとか。
「…人災誘発装置という訳ね」
「ああ。アザール王国内で、特に王都内で、人々が暴徒化しやすくなるように予め準備が為されていた、という事だな」
そう言われて
「一体、誰が…。ドリアーヌじゃないのよね?」
と疑問に思う。
「アザール王国は近隣国から憎まれているが…南方連合国から向けられる憎しみはひとしおだ」
「南方連合国…」
「かつてランドル王国の闇ギルドがアザール王家の影と、その賛同者達によって仕切られていた事は知っているな?」
「まぁ、そういう噂よね」
「当時のランドル王国内の闇ギルドーー非合法ギルドの中でも暗殺者ギルドと奴隷商ギルドは特に当時のアザール王国の意向を反映して動いていた」
「…シーカーは詳しいわね。ずっと封印されてたのに、外の様子を覗いたりとかできてたの?」
「いいや。こうした歴史関連情報はお前に解放してもらった後で、王家の禁書棚にある『正史』から得たものだ」
「そんな所にまで忍び込んで情報収集したの?」
「…私が封印されていた300年ほどの間に一体何が起きていたのか知りたいと思ったのだ。過去の自分と所縁のある場所なら一瞬で転移出来るから、それほどの手間は無かった」
「それでアザール王国が前の世代でやってた悪事にも詳しくなってしまったのね?」
「そうだ」
「それで?ランドル人に成りすましていたアザール人奴隷商が南方連合国の人達を酷い目に遭わせてたから、その恨みで王都内の各所に呪物をばら撒かれた、と?」
「そうだ」
「『国』という単位では自業自得なのでしょうけれど…。残念ながら、当時悪事を働いた人達はもう既に居ないのよね…。
私達は自分達が犯してもいない罪のせいで、その負の遺産を引き継いで憎まれ、内ゲバで国を弱体化させなければならないと、そう運命を描かれているのね…」
「私も、アントワーヌが興したこの国がこんな事になって本当に残念なのだ」
「…私は権力とも贅沢とも全く縁がなく、王城の片隅で下級使用人に見張られながら細々暮らしてきただけなのに、権力を振り翳して好き放題に贅沢した魔女扱いで憎悪されてるのよ。私の方が残念よ。こんな国」
「だろうな。…ともかく、お前から報酬を回収せずに『私が全て呪物を見つけてやる』と言っているのだ。お前の方も解呪を習熟する訓練になるし、何より今お前に降りかかっている人災を鎮火させるのに必要な措置だ。やってくれるな?」
「…分かりました。解呪して回ります。どうか呪物の発見の方はシーカー師匠の方で宜しくお願いします」
そうして私はシーカーに誘導されるままに王都中の呪物を解呪して回る事になった。
一方でーー
私が暗殺者を追い返した翌日に王都を横断するファータール川に内蔵のない男の死体が浮かんでいたらしい。
水死体は水を吸って膨張する事もあり、元の顔など分からないものらしいが…
「ルクレール公爵家の紋章」が入った懐中時計を懐に忍ばせていたとかで「旧ルクレール公爵家の子息」と身元特定されたのだそうだ。
ルクレール公爵家は爵位も領土も手放していて既に存在していない。
パスカルは既に平民になっていたので、捜査も騎士団は動かず、警備隊が型通りの聞き込みをしただけで、犯人は分からずじまい。
(パスカルも前世の私のように、死後数十日は地上に留まって周りの人達の様子を観察できたりするのかしら?)
と、ふと思った。
あの人間性だし
私を逆恨みしているのかも知れない。
呪物は恨みを残して死んだ者達の魂を宿す憑座のようなモノ。
それを解呪すれば、魂は向かうべき所へと向かう。
私はーー単に意地悪な人達やおかしな因縁を付けてくる人達と関わりたくないだけ。
パスカルに「無難に生きたい気持ちを理解して欲しい」とは思わないけど…
「理解できずとも関わってくるな!という意向には従ってもらう」つもりでいる。
私はパスカルとの永遠の決別を心から願った…。




