50:間話
【side:クリストフ・クラルヴァイン】
ポレット・バレーヌ嬢がジョスランの婚約者の座を辞退させられた。
どうやら腹立たしい事が起きた際に感情の昂ぶりと共に魔力暴走を起こしてしまったらしい。
そこで
「火魔法を暴発させ友人だった侯爵令嬢に火傷を負わせた」
のが決め手になり、それまで不自然なくらいにポレット嬢に心酔していたらしき彼女の友人達が一斉に掌返し。
あっという間にポレット嬢は学院内で孤立。
精神的ショックを受けて寮の自室から出られなくなったとか。
学院側から報告を受けた辺境伯がポレット嬢を迎えに行き
「そんな事では敵対国の公爵夫人など務まらない。婚約解消して頂こう」
と説得。
ポレット嬢は学院も退学させられて、渋々ジョスランの婚約者の座を手放したのだった。
それに対してーー
ジョスランは
「ヤッタァ!」
と心から喜んでいる様子。
「これで俺は自由だ!」
と目を輝かせるジョスランを見て
「…実は他に好きな女子でも居たのか?」
と思ってしまった。
俺自身、シャルリーヌとの婚約が無効になり、ヴィヴィアンヌが婚約者だと言われた時に嬉しくて堪らなかった。
一目惚れしてしまっていた、という事なのだろうと後日自覚した。
ジョスランに対して
(あの時の俺と似ている…)
と感じてしまったのだ。
(まさか…)
と思いたかったが
俺の側の感情などお構いなしにジョスランが
「俺もカークランド公爵令息なんだよな。『シャリエール公爵令嬢の婚約者』の…」
と呟いた事で、ジョスランが自分の婚約者選びで誰を望んでいるのかを察してしまった。
ジョスランは俺と違い、自分の気持ちを初めからちゃんと自覚できているヤツだったようだ…。
俺とジョスランはクラヴェル公爵邸に滞在しているカークランド公爵の元へ頻繁に顔を出している。
「親子の親交を深めるため」と言われている。
半強制の命令のようなものだ。
カークランド公爵ヨナタン・クラルヴァイン(ランドル王国ではジョナサン・クラルヴァインと名乗ってるらしい)。
俺の義父となった叔父は、露骨に、ジョスランを可愛がっている。
叔父がポレット嬢を気に入っていたのも
「私のジョシュアに惚れ込むとは、見る目のある令嬢だ」
という思いからのようだった。
ポレット嬢を気に入ったせいで、叔父はお気に入りのポレット嬢がヴィヴィアンヌに関して悪口を言うのを鵜呑みにしていた。
いくら俺が
「ポレット嬢には虚言癖がある」
「他者を陥れ慣れている」
「異母姉のオデット嬢を既に陥れている」
と真実を聞かせても全く聞く耳を持たなかった。
ジョスランが声を荒げて
「ヴィヴィアンヌ嬢はポレット嬢が言うような人間じゃない!同じクラスの俺がよく知っている。俺は入学して以来ずっと彼女を見守ってきた」
と言い張って、やっと叔父のヴィヴィアンヌへの不信は収まったのだった。
ジョスランがヴィヴィアンヌに好意を持っていたお陰だ…。
(その時点でジョスランがヴィヴィアンヌを狙ってる気はしていた)
叔父がポレット嬢の讒言に誑かされて
「ヴィヴィアンヌ嬢がクリストフの婚約者として相応しくないようなら、ランドル王国へ移住後『行方不明になってもらう』事も検討していた」
と心情を暴露してくれたのでゾッとした。
それを聞いて俺は
「…貴族の運命はこんなにも簡単に誣告の影響によって振り回され、突然に明日をも知れぬものになってしまうのだな」
と痛感した。
それはジョスランも同様だったようで…
ジョスランはポレット嬢との婚約が解消されて直ぐに叔父の元へ俺を引き連れて交渉へ向かった。
「俺はヴィヴィアンヌ嬢が好きです。ヴィヴィアンヌ嬢には幸せになって欲しい。だからヴィヴィアンヌ嬢には彼女を一生護りきれる男が相応しいと思っています。
それで、俺は正直、クリストフがヴィヴィアンヌ嬢を一生護りきれるようには思えないのです。
それなら俺がヴィヴィアンヌ嬢を一生護りきれるのかと言えば、それもまた、俺が必ず護りきってみせると断言はできない。気持ちはあっても自信がありません。
なので、現時点でのヴィヴィアンヌ嬢が悪評に塗れ襲撃に遭っている状況こそが『今後の一生涯を彼女と共に生きるのに相応しい男』を割り出せる機会だと考えています。
どうか、ヴィヴィアンヌ嬢を現在の窮状から救い出せた者を彼女の婚約者に選び直すと約束してくれませんか?」
ジョスランがそう言うと叔父は目を丸くした。
「…要するに、お前がヴィヴィアンヌ嬢と婚約したい、という事なのか?」
「そうです」
「それなら回りくどい事は言わず『ヴィヴィアンヌ嬢と婚約したい』と言えば良いじゃないか」
「俺はクリストフと仲良くしていくつもりです。それこそ一生」
「…義兄弟である前に従兄弟だしな。仲良くする気がなくても仲良くしてくれなくては困る」
「それなら『婚約者を取り上げる』ような事はできませんよ」
「それもそうだな。クリストフも『婚約者を取り上げられる』ような恥辱は避けたいだろう」
俺は
「…『婚約者』がヴィヴィアンヌ以外の女子なら幾らでも取り上げてもらって構いませんよ。…ヴィヴィアンヌだから取られたくないのです」
と本音をぶつけてやった。
「…面食いはクラルヴァイン家の血なのだろうな。私はハリエットに憎まれてるにも関わらず一目惚れしてしまったしな」
叔父が自分の恋愛経験を引き合いに出して宣うた。
「それなら、俺とクリストフとの間に遺恨が残らないように、婚約の結び直しを検討してくださいますね?」
ジョスランがすかさず言うと
叔父は
「良いだろう」
と神妙に頷いた。
ヴィヴィアンヌとの婚約を継続するには
「ヴィヴィアンヌ嬢を一生護りきれる」
事を証明しなければならない。
それが決まった事で
「ランドル王家の暗部構成員をジョシュアとクリストフに一名ずつ貸し出す許可をいただく」
と言われた…。
(ランドル王家の影、か…。どんなヤツなんだろう?)
と思っていたら…
同じ学年のAクラス。
ジョスランと一緒に高等部から入学した特待生
ブリアック・リファール
ダヴィド・リファール
の両名が紹介された…。
ジョスランも
「はぁぁ?」
と驚愕していた。
俺達と同じ歳の、まだ子供だと言うのに…
既に「影」として教育を受けていて、他国の学院へ入り込んでいるという所に「アングラで生きる者達の覚悟」を感じて、少し怖くなった…。




