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「実は『時間の流れを調整した亜流【世界】で訓練してもらう』事で、こちらの【世界】の1ヶ月間を12倍にまで引き延ばして訓練させてやれる」
「それって私の主観では1年間経って、実際には1ヶ月しか経たずに訓練できるって事?」
「そうだ」
「その間、私は行方不明になるって事?」
「そうだ」
「困ります。それじゃ」
「予定としては学院が長期休暇に入ってからと考えている。長期休暇は1ヶ月半ほどだろう?」
「…人間社会では、貴族令嬢が1ヶ月間も行方不明になったら『死んだ』と思われます」
「それで良いんじゃないか?『死んだ』と思われる状況下で、私はお前を訓練用の亜流【世界】へ送り込むつもりだ」
「私が死んだら困る人とか悲しむ人達も居るだろうし、心配かけられないわよ!」
「…本当にそうか?お前、本当に誰かに愛されているのか?」
「何よ。…シーカーは何か知ってるの?…私に好意的に見える人達が本当は私を嫌ってるとか…。そういう現実を実は知ってるんだぞ、とか言いたいの?」
「…それは試してみれば良いのではないか?人間は『死んだ』相手に対して、誰も見ていない場で本音を表す生き物だ」
「人の本音を知るために人を騙すなんて趣味が悪いわね」
「だが、そう悪くもないだろう?」
「………」
シーカーはニンマリ笑ってから
「長期休暇前にしてもらう事がある。先ずお前は街中に隠されている呪物を探し出して解呪していくべきだ」
と今後の予定を指示した…。
******************
シーカーは語った。
「私はお前と出会った事で『異界から来た魂』の特徴を把握した。そのお陰で、そういった『異界から来た魂』に興味が湧き、その手の連中に張り付いて情報を収集する事にした訳だが…。
その情報収集によって、私は『お前だけが特異だ』という事に気が付いた。
どうやらお前だけが、この世界を『見知らぬ異世界だ』と思っていて、お前以外の『異界から来た魂』の者達は全員が『この世界は乙女ゲームの世界だ』と思っているのだ。
『何を言ってるんだ?』と言いたげな顔をしているな。だが事実だ。お前以外の異界の魂は全員が共通して『乙女ゲームのシナリオ』とやらを意識していて、しかも全員が光属性の適性を持っている。
全員、お前と同じように前世の記憶を持っていて、それでいてお前だけが『乙女ゲームのシナリオ』に関する記憶を一切持たず、光属性の適性も持たずに生まれてきている。
私が何を言っているのか全く理解できず、それでいて理解したいと思うのなら…
以前『ドリアーヌ・パラディーヌ』という小娘から盗んだ『とある物語の記憶情報と消費感情』をお前自身のものにしてみると良い。
そうすればあの小娘の記憶にあった『ヴィヴィアンヌ』という悪役令嬢に関する情報が読み出せる筈だ」
そう言われて
(本当かな…)
と疑いながらも
【泥棒の極意】の宝箱の中に入っている
「ドリアーヌ・パラディーヌの、とある物語の記憶情報と消費感情」
を
「ヴィヴィアンヌ・シャリエールの、とある物語の記憶情報と消費感情」
と書き換えて、自分の物にしてみた。
するとーー
いつもの如くパーセントゲージが出て
それが100%になると
画面上にファイルマークのアイコンが増えていた。
ファイル名はそのまんま
「とある物語の記憶情報と消費感情」。
それをタップするとーー
乙女ゲームらしきゲーム画面が出てきて
二次絵のヴィヴィアンヌ・シャリエールの姿が現れた。
そしてヴィヴィアンヌのセリフらしき文字が
ズラーッ
と並ぶ…。
「ジョスラン様は私のもの」
「泥棒猫め。許さない」
「生まれてきた事を後悔させてあげる」
などといった痛いセリフを目にして思わず頭痛を感じる。
(うわぁ〜…)
前世で私は乙女ゲームはおろか、ゲーム自体をほぼやった事が無かった。
学生時代にロールプレイングゲームをしてたくらいで、結婚後の趣味は料理や掃除だった。
(「乙女ゲームの悪役令嬢に転生」というネタのアニメがあったのは知ってたけど、本当にそんな不条理転生が起こるんだ…)
私はガックリと肩を落とした。
「…お前は『悪役令嬢のヴィヴィアンヌに関する記憶』だけは、ドリアーヌから盗んだものの、『乙女ゲームのシナリオの記憶』自体は盗めていない。
一方でドリアーヌはこの国の物騒な社会情勢を把握していて、自分が生き残れて尚且つ勝ち馬に乗れるようにと狡賢く模索している。
『悪役に丁度良い令嬢をスケープゴートにして、平等主義の革命家達にすり寄る』『王族・高位貴族が処刑されるか亡命するシナリオの通りに現実を進める』という方向性で動いてきているのだ。
私としては早めにドリアーヌ・パラディーヌから精神干渉系魔法の適性を盗んで自分のものにしておく事を薦める。
アレは余りにも自分勝手で悪質だ。これ以上アレに精神干渉魔法を使わせるべきではない。
お前は次の休日にでも気配隠蔽してドリアーヌを尾行し、ドリアーヌと関わりのある革命家気取りの反逆者達を解呪し、正気に戻してやるが良い。
それだけで随分と『生贄令嬢殺害計画』に綻びが生じやすくなる筈だ。勿論、反権力勢力全員を解呪して回れる程、気配隠蔽は万能ではない。
そもそもこの国で暗躍しているバルシュミーデ皇国及びランドル王国の影達はアザール人令嬢であるお前を護る気など一切なく、お前を囮にして、アザール王国内の反権力勢力の情報を得ようとしている。
なので『真冬の湖に落とされる』などといった死体の上がりにくい殺され方で殺されそうになったタイミングで私が亜空間へ送れば、簡単にお前の死を偽装できる。
お前が望んでいたように、平民に紛れて生きる事が可能になる。
それと共に、お前を愛しているように見える連中の本音も今後、露わになっていく事だろう…」
「…ドリアーヌが革命家気取りの反逆者達を裏で煽っていたのね?」
「…当人は『アザール王家、上位貴族家らがギロチンにかけられた後のこの国で成り上がっていくため』と思い込んでいて、全く罪悪感すら持っていない」
「バルシュミーデ皇国とランドル王国の影達がどういうつもりなのかは分かったけど、アザール王国の影達は何をしているの?」
「アザール王国の影達は今現在は『バルシュミーデ皇国皇女達の輿入れに際しての警備の見直し』で手一杯になっている。いよいよ皇女達がアザール王国へ来国する事になったからな」
「…私が付け狙われてるのを知ってても助ける余裕はない、と」
「そういう事だ。ただ、悪意はない。流石に、元王女のお前に対して『見捨ててやろう』とか『切り捨ててやろう』と思ってたりはしない。
単に手が足りない時期に危険が降りかかっている令嬢に対して何もしてやれないから何もしない、というだけだ」
「そうなんだ…」
色々と納得できないものを感じながらも私はシーカーの薦めに従って行動する事にした。
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ドリアーヌの精神干渉系魔法はポレットよりも性能が高くて
「魅惑」
となっていた。
「魅了」
が強制的に自分に好意を持たせるものなら
「魅惑」
は特定の相手に悪意を向けさせたり
特定の相手に好意を持たせたりできる。
「魅惑」は「魅了」ほどの強制力は無いが
「自分に好意を持たせる」という限定が無い分
使い勝手が良く
社会を混乱へと叩き起こす効果がある。
(人々の好悪感情を自分勝手に操れるのだから凄い)
倫理観が無い人間が使うと
目を付けられた標的は
何の罪も犯してないのに
一方的に悪者にされ地獄へ堕とされる。
ドリアーヌが怪しげな連中に重宝された一因として
「軽い怪我なら治せる程度の治癒魔法を使える」
というものもあったので、その適性も盗ませていただいた。
「ポーション作りに役立つだろう。良かったな。丁度、悪人が盗み甲斐のある魔法適性を持っていて」
シーカーのシニカルな言い分に、私も今回ばかりは心から賛同したのだった…。




