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挿絵(By みてみん)


「闇の魔女」

と言われる

「ヴィヴィアンヌ・シャリエール公爵令嬢」

は…


なんでもちまたの噂では

「公爵夫人が産み落とした不貞の子」

でありながら

「王女とすり替えられて、王城で暮らし」

「侍女達を虐めて再起不能の怪我をさせ」

「贅沢の限りを尽くして国庫を貪り尽くした」

「悪魔のような女」

という事らしい。


「えっ?誰の事?えっ?そんな嘘信じる人本当にいるの?」

とビックリするのだが…

一定数の人達は出鱈目な噂話を鵜呑みにしてしまうらしい。


風評被害というものは

「荒唐無稽な嘘話でも信じてしまう人達がいる」

事で実体化して標的を傷つける力を持ってしまうのだ。


お陰でーー

冒険者ギルドで

魔物素材の買い取りが拒否され

預金まで凍結された…。


冒険者ギルドは民間の公的機関。

「王族・貴族の権力には屈しない」

「公正公平」

がモットーの組織。


の筈なのに

やってる事は

(明らかに不公正な)

社会的攻撃と搾取。


そんな差別が

「本当に現実で起きた」

のだ。


そうして冒険者ギルドでそんな不当な目に遭わされた日の帰り道では…

十数人からなるゴロツキの集団が襲撃してきた。


「「「「「「「死ねぇぇぇぇっっっ!!!」」」」」」」

と悪意を向けられて…

彼らの本気の目を間近で見た。


本気で彼らは

「コイツさえ殺せば世の中が助かる」

と信じていたかのように

「世のため人のために」

「悪の元凶である闇の魔女を討伐しようとした」

のが、その瞬間に理解できた…。


リーダーらしき男が悔し涙を流しながら…

「…お前のような奴がいるから貧民達は餓死し続けているんだ…。お前のような悪女が国庫を荒らしたから…」

と見当違いの憎しみをぶつけてきた。


「…何故、そんな嘘を、信じてしまえたのでしょうね…」

と呟きが漏れたが…


それでさえ私が見苦しく言い訳をしてるように見えたらしく

「…呪われろ、呪われろ、呪われろ。…反省する事もない、邪悪で贅沢好きの男狂いの悪女め…。絶対に、お前だけは、許さない…。許してはならない…」

と、事切れる瞬間まで呪いの言葉を吐き続けてくれた…。


騙されやすい人達の正義は、どうしようもなく狂っている…。

民度の低い社会は怖い…。


こんな国、本当に未来はないと思った。


******************


「…カークランド公爵にお願いして早目にランドル王国へ向かわせてもらった方が良いのかしら…」

悩ましい事だ。


ダンスの授業のパートナーはくじ引きで決められているのだが、そこから交渉によって交代する行為は禁じられていない。

お陰でパートナーは婚約者のクリストフが務めてくれている。


一緒に居られる時間が増えたので、今後の事も相談する機会が増えた。


「叔父上までおかしな噂話を真に受けてたから、ジョスランと一緒に責め立てて何とか改心させたが、本当に思い込みが激しくて改心させるのが大変だった…」

とクリストフが疲れた顔で白状してくれて、少し嬉しかった…。


「カークランド公爵も騙されやすい人だったんですね?ランドル王国の重鎮なのに」


「まさしくその理由で俺達もゾッとした。平民や下位貴族ならまだしも、何故上位貴族がおかしな噂を鵜呑みにするのか疑問に思った」


「…精神干渉を無効化する魔道具とか、そういうものがランドル王国なら有りそうですけれど、案外ランドル王国の高位貴族は持ってないんでしょうか?」


「…ヴィヴィアンヌは叔父上の認識異常が精神干渉によるものだと思うのか…」


「集団でおかしな噂話を鵜呑みにして標的視されている生贄を皆で憎む、という心理は大抵精神干渉が絡んでいるのでは?」


「だがどうやって?」


「精神干渉には『接触』が必要ですが、そうした接触は必ずしも術者本人が被術者と物理的に近づかなければならないという事ではないんです」

私はシーカーに習った理論をそのまま披露する事にした。


「『接触』は間接的でも良い、と言いたい訳か?」


「はい。間接接触には『呪物』が使われます」

呪物を使う事で術者本人が被術者と接触せずとも精神干渉を行えてしまう。


(城下町のアチコチに呪物が埋め込まれている可能性があるのよね…)


「そうなると『誰に会って影響を受けたか』というだけでなく『何処に出かけたか』まで原因探索範囲に含まれる事になるな」


「『解呪』で精神干渉を取り除ける場合もあるらしいので、独学で勉強中です」

(精霊に師事してます、なんて言えないものね…)


「ヴィヴィアンヌは真面目だな」


「…たまに行方をくらませて、平民のランドル人としてランドル王国で暮らせれば、とか思ってしまいます」


「…それは、俺を捨てたい、という事か?」


「…いえ。クリストフを、ではなく、貴族身分を捨てたい、という事ですね。クリストフが私と一緒に平民暮らしをしたいなら歓迎しますよ?」

私が本心を話しながらニッコリ微笑むと


クリストフは悲しそうな顔をして

「…すまない。俺は本当にこれ以上は見込みが無いと言いきれるギリギリまで踏ん張って貴族で居続けて民の生活を支えてやりたいと思ってる。

貴族として生まれ育てられてきた今までの経験と努力を『無駄だった』とは思いたくないんだ。

だから簡単に一緒に平民暮らしをすると約束してはやれない」

と言った。


私達の表情は真逆なのに、彼も本心を語ったのだという事が何故か分かった…。


「…そうなんですね。残念です。もしもの時は私は独り寂しく市井に紛れます」


「『もしもの時』が来ないで済むよう頑張るつもりだ。…あまり悲観してくれるな」


「ええ。私も『もしもの時』が来ないように祈ります」


貴族の立場は決して磐石ではない。

カークランド公爵の突然の来国と突然の呼び出しがあった時にクリストフが廃嫡を覚悟してたように…

いつ陥れにあって、自分自身に「もしもの時」が訪れるか分かったものではないのだ。


「…そう言えば、『薬草学』の授業を受ける事にしたのか。…それも『もしもの時』に備えてのものか?」


「ええ。『薬草学』を修めておくと『魔法薬学』を受ける事ができますから。治癒系の魔法薬。所謂ポーションを製作できるようになれるかも知れません。

市井で生きていくなら少しでもアドバンテージが欲しいところですよね」


惚れ薬や媚薬などの魔法薬作りには厳罰がくだされるのに、ポーション類の製作は推奨されている。

アザール王国のみならず、他の国々でも。

品質さえ確かなら、ポーション作りはそれなりに飯のタネにできるのだ。


「…侯爵夫人が『趣味で』魔法薬を製作する、という未来の方を俺は希望するよ」


「そうなりたいですね。私、実はクリストフが婚約者になってくれて本当に嬉しかったんです。この人と結婚できるんだって思って、前の婚約者とは大違いだって思って、本当に、幸せになれそうな気がして嬉しかった…」


(いつの間にか、この人に絆されてしまってたのよね…)

自分でも自分がチョロいと自覚できる。


前世の夫と全くイメージが被らない率直な脳筋タイプの人だからこそ、なのだろうけど…。


「…『絶対幸せにする』と言ってやれないくらいには世間の厄介さを知ってしまっているけれど。それでも俺は『貴女が幸せになろうとするのを全力で応援する』と誓える」


「私も『貴方が幸せになろうとするのを全力で応援する』と誓います」


婚約者同士というよりは

親友同士のような誓いを交わした…。


******************


「お前には才能があった、という事なのだろうな…」

シーカーが皮肉な言い方で私を褒めた。


【泥棒の極意】に頼る事なく自力で

「気配隠蔽」

「解呪」

「読心」

「過去見」

を使う事ができるようになったのだ。


「亜空間収納」

「転移」

に関しては未だ使えそうな気配はない。


その代わり、水魔法が上達して

「水刃」

を出せるようになった。


「ダンジョンに入らず、郊外の魔物を狩る冒険者としてなら、今の時点でもかなり優秀だ」


「有り難う」


「だが、ダンジョンでは体外魔法は悪手だと言われる。理由は理解しているな?」


「身体の外へ出た魔力がダンジョンに吸収されるとダンジョンを活性化させてしまうから、よね?」


「そうだ。なので『転移』で心臓を抜き取る戦い方は、お前が必ず身に付けておくべきものだ」


「…『転移』も『亜空間収納』も上級魔法だし。習得には数年かかりそうな気がするわ」


「私は早くアントワーヌに仕えたい。【泥棒の極意】もだ。お前にはあと1ヶ月で『転移』も『亜空間収納』も習得してもらう」


「…そう言われても」

シーカー先生が何気に無茶振りをしてきた…。



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