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挿絵(By みてみん)


そうしてポレット嬢を探し出せたのは良いがーー


ポレット嬢は寮の自室にいるらしい。

気配を消して誰にも気付かれずにここまで来れたが、流石に鍵のかかっている私室のドアを解錠して中に入れば気付かれる。


「〈出てきてくれないかしら…〉」


「ボヤ騒ぎでも起こすか?」


「〈火事になったりしない?〉」


「…小娘が部屋から出てくれば良いのだよな?」


「〈ええ〉」


「なら、任せておけ」

そう言ってシーカーが姿を消した。


何処かへ転移したようだ。

おそらくポレットの部屋へ…。


「………」

(何をする気だろう?)

心配していると


シーカーがすました顔で戻ってきて

「胃袋にそれなりの量の水を転移してやったから15分もすれば尿意を催す筈だ」

と無情な発言をしたので

(精度の高い転移ってそういう便利な使い方もできるのね)

と思った。


10分くらい経ってからやっと

ガチャッ

とドアが開き

「お茶を飲み過ぎちゃったかしら」

と首を傾げながらポレットが出てきた。


トイレへ行くつもりなのだと直ぐに分かった。


当然【泥棒の極意】を起動して時間停止させる。

「精神干渉系魔法の適性を盗む」

という盗みが本当に可能なのかどうか実は半信半疑だったが…

呆気なく盗めた。


「魅了」

とか

「魅惑」

ではなく

「扇動」。


「〈そう言えば、精神干渉系魔法の適性を失った彼女は今後どうなるの?〉」

素朴な疑問を呈すると


「どうもならない」

とシーカーが端的に答えた。


「〈術に掛けられてた人が正気に戻ったりとかはしないんだ?〉」


「その辺は微妙だな。精神干渉系魔法の耐性が無い者は術に掛かり続け、耐性の有る者は術が解けやすくなる。どの道、悪質な精神干渉は『解呪』で解けるから、お前が『解呪』を習得したなら、この小娘やさっきの小娘の周囲の人間達を実験台にして試してみれば良い」


「〈悪質な精神干渉が『解呪』で解けるのは素晴らしいわね。でも悪質じゃない精神干渉は『解呪』でも解けないって事よね?〉」


「信仰心なども共同体全体で承認されている精神干渉の産物だ。そういった多数の人間の心に寄り添った普遍的なものは『解呪』の対象にはならない」


「〈なるほど。宗教者でもない女の子達が行う精神干渉魔法は利己的な目的によるものだと相場が決まってるから、ほぼ全て『解呪』の対象になりそうね〉」


「しかし…。この小娘。『過去見』でコヤツの言動を遡って見てみたが…結構なワルだったぞ。誰彼構わずお前の悪口を言いふらして、お前に対する悪意を扇動していた」


「〈…やっぱりそういう人だったんだ…〉」


「コヤツに煽られてお前への悪意を募らせた者達がいる。襲撃されないように気をつける事だな」


「〈分かった。ご忠告有り難う〉」


襲撃される可能性と言えば真っ先にパスカルの事が思い浮かぶ。

(学院内で見かけなくなったわね…)


退学はしていないようだ。

何せ学費は年額一括払いが原則。

パスカルの一年分の学費は既に支払われてる筈なので

「仕事をしながら借金を返すのに忙しいから通学できていないだけ」

のようだから、そのうち復学してくるのかも知れない。


「お前が今さっき盗んだ魔法を使いこなせるように、それも私が教える。この小娘を『過去見』したのも、コヤツの魔法の使い方を知るためでもあったからな」


「〈シーカーは流石ね〉」


「伊達に長生きはしていない」


「〈ところで。信仰心が『解呪』の対象にならないという事は、社会的義侠心とか社会正義感情も『解呪』の対象にはならないのよね?〉」


「…それは、そういったモノを心に培っている人間次第だろうな。国教として定められている宗教の場合、祭司らには一定以上の潔癖さが規格化されて強いられている。

一方で亜流宗教やカルトの場合、そういった規格化された潔癖さが指導者へ強いられていない場合が多いので、人々の心に寄り添っているとは言えない状況になりがちなのだ。

つまり亜流宗教やカルトの信奉者は集合意識における主流・普遍性に溶け込めない。なので『解呪』の対象になる」


「〈人々の心に寄り添っているかどうかが『解呪』できるかどうかの基準になるのね?〉」


「そうだ」


「〈人々の心、か…〉」


「王族・貴族が地道な善行を積み重ねていれば、人々の表層意識がどんなに欺瞞に耽っても、義侠心や社会的正義感情を振り翳した革命派による王族・貴族粛正には何の正当性もない事になる。

逆に王族・貴族が民をただ搾取するだけの寄生虫に成り下がっているなら、王族・貴族の粛正は人々の本心から正義として受け入れられ、革命派は正当性を持ち、『解呪』対象とはならなくなる」


「〈私、この国の人達に善行を施さなければならない程に良い待遇で育ってきてないんだけど〉」


「王城に仕えている訳でもない庶民がお前の生い立ちにいちいち理解を示してくれると思うか?

善人と悪人とを区別するつもりもなく王族・貴族を一緒くたに襲撃して富を略奪しようとする欲まみれの暴徒が湧けば、問答無用に殺されるだろう。

そして、お前が実際には権力を行使していない弱者である以上、そんな暴徒は『解呪』で正気に戻すべき対象だ。

お前がランドル王国へ行ったとしても、大衆どもの社会的義侠心や社会正義感情による一方的攻撃は一生付き纏ってくる問題だ。『解呪』は何が何でも習得しろ」


「〈分かったわ〉」


私を捨ててアントワーヌに乗り換えようとしてるくせに、シーカーが意外に心配症なのを知り、本当に有り難いと思った…。



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