45:間話
【side:フィリベール・ド・ブロイ・アザール】
学院七不思議魔道具を全て揃えるのは難しい。
何せ魔道具は初代国王アントワーヌ・ル・テリエ・アザールの遺産であり
「継承者として相応しくない者がそれを手にすると災いが起こる」
と言われている曰く付きだ。
「何度となく持ち出され、その度に元の隠し場所へ戻された」
と言われている。
俺がそれらの魔道具を回収する事になったのは…
兄王であるランベールとの賭けがキッカケだ。
「バルシュミーデ皇国の高位貴族令嬢と婚姻を結んで欲しい」
という要望を退けるため
自らに無理難題を課したのだ。
「バルシュミーデ追従で自分を犠牲にし尽くすような事をせずとも、生き残っていけるだけの才覚はある」
と示すために。
とは言え。
元々、俺は魔道具収集が趣味だったので
「上手くいけば儲け物」
程度の認識だった。
誤算はーー
ヴィヴィアンヌと遭遇し
ヴィヴィアンヌに惹かれた事だ。
ランベール兄上からは
「ツェツィーリア・アーベレ公爵令嬢を名目上の妻に迎えるように」
「実質的な妻にはヴィヴィアンヌ以外の令嬢を選ぶように」
言われた。
バルシュミーデ人と婚約したヴィヴィアンヌは
「バルシュミーデ人の方から手放してくれなければ自由になれない」
という事だ。
我が国はバルシュミーデ皇国に
「そこまで気を使わなければならない」
という状況なのだ。
何とも嘆かわしい…。
強大な軍事力を後ろ盾に持つバルシュミーデ人らの社会的立場の強さ。
そういったものに関して、この国の下々の者達はそれほど実感していないようだが…
王族・高位貴族の者達ほど実感と共に
「お前達はもう不要だ」
と通告されているようにも感じられる。
王都内ではバルシュミーデ人向けの商品を扱う店が増えてきている。
我が国の民の間では
「外国人を優遇する王族・貴族は要らない」
という風潮が生み出されている。
「父王と比べて兄王は悪政を敷いてはいない」
と断言できるのだが…
兄王の時代で近隣国からの移民が増えているので、国民側にはそうした事実が伝わっていない。
曽祖父の時代、祖父の時代で、我が国の影が近隣国で暗躍し、近隣国一帯の奴隷商を掌握していたのだが…
「ランドル人のフリをして行っていた鬼畜所業」
であった事が暴露されて以降
「アザール人、許すまじ」
の風潮が近隣国でしぶとく根付いている。
代替わりしても
「裏切りと欺きの民族」
というイメージが消えず…
先人らの悪行のとばっちりを食らい続けているのである。
そういう部分で
「国というのは面倒だな」
と思う。
自分の意志とは異なる方針で動かれて、それでいて
「お前もアザール人だろうが」
と見做されるのだ。
しかも、そうした
「所属先イメージによる先入観」
は延々と続きやすい。
近隣国の人間性が悪質なら特に
「たった1人でも悪辣なアザール人がいたら、それがアザール人を代表する人間性だ、と見做し、連帯責任的な悪評を生み出し続けてやる」
とばかりに延々と悪評が垂れ流され続ける。
アザール王国の影達も昔から近隣国に対してそういったネガティブキャンペーンを繰り返してきてるので…
自分達が圧倒的多数からやられる側になっている現状で
「陥れ行為の外道さ」
を身に沁みて実感させられている最中である。
祖父の時代は
「国際的誣告はアザール王国の独壇場」
だったのだが…
父の代では、それは破綻していて…
それなのに父は路線変更せずに
近隣国へ、特にランドル王国へ、敵意を向け続けた。
「鬼畜所業の罪をランドル人へと被せる」
諜報工作を粘着に続ける方針も
バルシュミーデが介入した時点で見直しておけば
「我が国の影が捉えられて拷問・虐殺される」
アングラ被害も少なく済んだだろうに…
父の強行姿勢のせいで犠牲になった影の数は夥しく…
影を纏めるヴィアラット家の当主に言わせると
「アンベール王は歴代最低の国王」
という位置付けにある。
曽祖父も祖父も
「国際的誣告はバレれば余計に悪印象が深くなる」
という点を考慮していなかったのだろう。
明らかにやり過ぎだった。
結局
「真実を暴く能力」
が
「他国の影にあった」
という事実のせいで、この国は苦境に立たされているのである。
他国の暗躍者達をナメ過ぎていたのだ…。
「真実に気付かないだろう」
「真実に気付く奴がいても口封じできる」
と自惚れて路線変更しなかった父のせいでアザール王家は現在のていたらく。
勿論、今の時代の他国の影が
「たまたま他の時代よりも優秀だっただけ」
で…
本来なら国際的誣告など永遠に暴かれずに済んだという可能性もある。
何故なら、そうした国際的誣告による国際関係の操作は王族教育でも学ぶものだ。
過去の歴史を正確に振り返るために記された秘された正史には、そうした国際的誣告による国際関係の操作は省かれず隠されず記されている。
(勿論、王族のみが閲覧可能な禁書棚に収納されているが)
曽祖父・祖父の代で
「我が国が奴隷商関連でランドル王国を陥れた」
事案というのは長い欺きの歴史の中における氷山の一角でしかない。
逆に他国の影の暗躍により、我が国や別の国が陥れられた事実も正史には正確に刻まれている。
そうした見方をするならば、我が国で
「平等を!」
と望む国民が増えている現象も
「他国の影による暗躍の賜物だ」
と言える。
自国の危機は、案外そういった
「内ゲバ誘導思想の普及」
で進むもの。
「平等思想を振り翳して自国内の人心分断を目論む扇動家達を国家権力で堂々と潰していく」
と、おそらく余計に国民は王家への不信を募らせ、自国内の人心分断が進行してしまう。
結局は暗躍で事を収めていくしかないのである。
それこそ
「人ならざる者の手によって起きた天罰のように」
「平等思想を振り翳して自国内の人心分断を目論んだ扇動家達が自ら破滅する」
ように仕組むしかない。
【隠者のマント】を回収できた事は、今後のこの国で暗躍しつつ生き残っていくためには、実に都合が良かった。
七不思議魔道具のうち
【真実の鏡】
【聖女の聖杯】
【隠者のマント】
【夢見の香炉】
【呪物の羅針盤】
【呪言改竄帖】
を手に入れた。
あとは
【封印の巻物】
を手に入れるだけなのだが…
何故か見つからない。
だが…
七不思議魔道具のうち六つを手にしても何の不幸も降りかからない点から
「俺はアントワーヌの継承者として相応しいと認められているのか?」
という手応えを感じてはいる…。




