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「それにしても、ポレット嬢がヴィヴィアンヌに対して態度が悪いのが気に食わない。あんな義妹、俺は可愛がってやれないぞ」
クリストフがそう言ってくれるので、私の方はそれだけで気が済んでいた。
「私のために怒ってくれて有り難う」
「ポレット嬢の姉のオデット嬢に、話を聞いてみた方が良いかも知れないな」
「気にはなりますね。ポレット嬢の為人は…」
「男女の前では態度の違う裏表の激しい女なんじゃないのか」
「その可能性もあるかも知れない。オデット嬢に詳しく聞いてみて、そういう人間だと明らかになったなら早めに対策を考えておかないと」
「ランドル王国に行った後にでも本性がバレて破談になってくれれば良いんだが。俺はヴィヴィアンヌを蔑ろにするような女とは義理の兄妹になどなりたくない。ジョスランも向こうで良さそうな令嬢を見つけて婚約を結び直せば良いのに」
「クリフはジョスランの事は義弟として認めているのね?」
「認めざるを得ないだろう。叔父上の様子を見れば。余程実子が見つかって嬉しいようだし、こちらが口出しできる事ではないな」
「そうね…」
誰だって養子より実子の方が可愛いに決まってる。
下手に口出しすれば、あのカークランド公爵は私とクリストフの方を容易く切り捨てるのだろう。
今後のためにも、ポレット・バレーヌについて分かる範囲で知っておこうと思った…。
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「…ポレットがランドル王国へ行ってくれるという事になって、心から有り難いと思っています」
オデット・バレーヌが疲れた表情で、そう言った。
「ポレット嬢のお人柄について身近な方からお話を伺いたいのですが」
と声を掛けた事への返事がそれだ。
エールリヒとドロテーアも
「「面白そう!」」
と付いて来ようとしたが
中等部の学舎へわざわざ親しくもない生徒を訪ねて話を聞きに行くのだ。
ゾロゾロと4人で行ったら怖がられる事請け合いだ。
「別行動でポレット・バレーヌの評判を漁ってくれないか?」
とクリストフが提案したので、エールリヒとドロテーアは中等部に編入したバルシュミーデ人学生の元へ向かってくれている。
「確か異母姉妹でしたよね?」
私が尋ねると
「ええ」
とオデットが頷いた。
「これまでにお二人の間で何かあったのですか?」
と核心を突く質問をすると
「元々は、側室の子という事もあり、控えめな子だったんです。それがジョスランと出会ってから激変しました」
「ジョスランと出会ってから?」
「ええ。一目惚れした、という事なのでしょうね。辺境伯家の後継になんて全く興味も無かった様子だったのに、急に『私がお父様の後を継ぐわ』と言い出して父にすり寄って、不思議と父の方でもあの子を溺愛し出して…。
そういうのも『ジョスランを婿養子にして欲しい』という要望を出すための前振りだったみたいです」
「ええと。ジョスランさんを手に入れるために急に積極的な性格になってお父様を籠絡した、と?」
「そうです」
「うわぁ〜…」
「そういう女に目を付けられる男の方がなんか気の毒だな」
「ジョスランと出会って以降のポレットは、被害妄想を拗らせていて…。私の目の前で転んでは『オデット姉様に足を引っ掛けられた』と言い張って泣き出したり、自分のドレスが何者かにズタズタにされたといっては『庶子のお前には高価なドレスは不要だと、姉様に罵られたから姉様がやったのに違いない』とか、私が言った事もないセリフを言ったと嘘を付いて私を悪者に仕立て上げるようになったんです」
「そういう令嬢なんですね…」
「勿論、オデット嬢も反論したのですよね?」
「反論はしましたが、その度に『反省すらせずにあくまでも妹を虐げた事を認めないのか』と言われて、更に立場が悪くなりました」
「…それっておかしくありません?オデット嬢の側の言い分は聞いてもらえないという事ですよね?」
「はい。おかしいと思います。なのでそれも指摘しました。両親にも周りの人達にも。ですが、そういう指摘すら『見苦しい言い訳だ』と見做されて、皆から更に憎まれました」
「「………」」
咄嗟に精神干渉系の魔法か魔道具が使われているのではないかと疑ってしまう。
「ドラマ仕立ての現実認識へと人々を引き込む」
「ドラマ仕立ての歴史認識へと人々を引き込む」
そうした諜報工作で人々がカルト思想やカルト宗教へのめり込む社会の流れは、前世のネット社会でも可視化されていた。
(被害妄想って、昼メロドラマとか小説のドアマットヒロインとか、そういうのになりきる事で拗らせる人が前世の知人にもいたけれど…)
その手の過剰情緒主義文化が浸透してない筈の中世風社会でも、やっぱりその手の女は湧くものなのか…。
(やっぱり、ポレット嬢と義姉妹になるのはご遠慮したいわ…)
と思ってしまった…。
「ヴィヴィアンヌ様もどうかお気をつけください」
とオデットに言われて
「ご心配有り難う御座います。気をつけますね」
とニッコリしてみせたものの…
内心は嫌な予感で溢れ
心臓が激しく鼓動を打ち鳴らしていた…。
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ジョスランはランドル王国へ向かう準備に入っているようだが…
学費・寮費免除の特待生だったため、一般学生よりも他国の学院への移籍手続きが複雑になるらしい。
すぐには出国できないので、相変わらず登校してきてAクラスで授業を受けている。
「義兄弟になった従兄弟と親睦を深めておきたい」
と言ってSクラスのクリストフと、その婚約者の私に構ってくるようになった。
そんなジョスランがクリストフとの関係性で真っ先に言及したのは「呼び名」に関してだった。
具体的には
「俺の事はランドル王国ではジョシュアと呼ぶようにして欲しい。クリストフの事もクリストファーと呼ぶから」
とジョスランは言った。
要するに郷に入れば郷に従えという事だ。
ランドル人風の名前で呼ぶという事。
元々ジョスランの出生届けはランドル王国の教会で出されていて、ジョシュア・ホリングワースが本名。
彼を自分の子として届け出た元侍女は彼の産みの母の親戚で姓は同じだったので、カークランド公爵の実子として届け出されていたなら、彼の名はジョシュア・ホリングワース・クラルヴァインだった。
「…クリストファーか…」
クリストフが渋い顔をした。
「ランドル王国の貴族階級はランドル人とバルシュミーデ人との混血児が今後を担っていく事になる。
そういった混血児らの多くは『バルシュミーデ皇国と新生ランドル王国は別の国なのだから』と、ランドル人風の名前を付けられているので、彼らと親しくしていくには同じ価値観で過ごすべきだ」
というのがジョスランの意見。
ランドル王国のバルシュミーデ人達はバルシュミーデ皇国本国からも近隣国からも「バルシュミーデの二次勢力」と見做されていて、本国よりも劣る位置付けに置かれているが…
当人達は「勇敢に戦ってランドル王国を支配した。本国でジッとしていた連中より我々の方が優れている」という自尊心を持っている。
そうした自尊心の表れとしての「本国との差異」なのだから、ランドル王国の貴族となるクリストフも、本国人としての高慢は捨てて新生ランドル人になりきるべきなのだとジョスランは言う。
「そう言われてみれば、そうなのかも知れない」
とクリストフも納得。
ランドル王国へ向かう準備は、そうして心構えの部分から進んでいった。




