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「シャリエール公爵にご納得いただいたようですし、次は俺のほうの疑問に答えていただけるんですよね?」
「ああ。クリストフ。立派に育ったな。お前はクラルヴァイン家の誇りだ」
「…そういうのはイイですから。今はAクラスのジョスラン・バレーヌをジョシュア・ホリングワースと呼ぶ事になった経緯についてご説明ください」
「ああ。外聞が悪いので妻は病死したという事になってはいるが、実際には就寝時に寝首をかかれそうになり私自身が暗闇で襲撃者を処したところ、妻だったというのが真相だ」
「………」
「妻は心底から侵略者であるバルシュミーデ人の私を憎悪していた。私の胤で孕んだ子を余程育てたくなかったのだろう。
生まれたばかりの赤子を『捨ててこい』と侍女に命じ、出産に立ち合った者達には『死産だった』と口裏を合わせさせていた。
なので私は『死産だった』という言葉を信じて、ハリエットの腹にいた胎児は死んだものと思っていた」
「よく見つかったものですね」
「血縁関係看破魔道具のお陰だな。あと、王立魔法学院の特待生は『無償で学ぶ対価として国に忠誠を捧げる』誓約書に血判を押す事になっている。そこから微量の血液を削り取って調べれば結果はすぐに出た」
「ジョスランをピンポイントで実子かも知れないと疑った訳ですね?」
「ハリエット・ホリングワース。私の妻の肖像画は、私の屋敷に来た事がある者なら誰でも目にしているからね。ジョシュアはハリエットにそっくりなんだ。
年齢的にも合致するので『本当は死産ではなかったのでは』という可能性に思い当たれば疑いは当然出てくる」
「それで?ジョスランはアザール王国の辺境伯家へ婿入り予定だった筈では?」
「だからバレーヌ伯爵とその御令嬢らにもお越しいただいている」
「成る程…」
皆の視線が辺境伯家父娘に向いた。
(身長も同じくらいだし、年子なのかしら?)
と思ったところ
「中等部3年に在籍のオデット・バレーヌです」
「同じく中等部3年に在籍のポレット・バレーヌです」
と自己紹介していただけた。
(同じ歳という事は双子なんでしょうけど。双子にしては似てないわね。「二卵性双生児」?)
私と同じ疑問は皆も思った筈だ。
顔に出ていたという事なのか、オデットが
「妹とは母が違うので異母姉妹ですわ」
と自己紹介の言葉を付け足した。
カークランド公爵が笑顔で
「ポレット嬢がジョシュアに惚れ込んでくれてたから辺境伯家への婿入りが決まっていたらしい。実に見る目のある令嬢だ。
2人の婚約は今後も継続していくつもりだが、ジョシュアが婿入りするのではなく、ポレット嬢に嫁入りしてもらう事になる。
それに伴いポレット嬢にもヴィヴィアンヌ嬢に降りかかるのと同じ人災が降りかかるだろう事は容易に想像できる。
ランドル王国の公爵夫人としてやっていく覚悟があるのかどうか先ほど別室で意志確認させてもらい、安堵している」
と宣うた。
バレーヌ伯爵の方は
「…アザール人を敵視する国の公爵夫人になどなったら、どれだけ苦労するか知れないぞ」
と脅すように言うが
「ジョスラン様は私の運命の相手です。誰が何を言って来ようとも絶対に妻の座を守り抜いてみせます」
とポレット嬢は意気込み
オデットは白けた顔で
「ポレットが我が家から出てくれるのなら私はそれで満足ですわ。ランドル王国で幸せになろうが不幸せになろうが関係ありませんもの」
と小声で呟いた。
ポレットとオデットは仲が悪いようだ…。
カークランド公爵はオデットの言葉が聞こえなかったようで
「クリストフにとってもヴィヴィアンヌ嬢にとってもポレット嬢は義妹という事になる。仲良くしてやってくれ」
と述べた。
クリストフが
「宜しく」
と手を差し出すと
ポレットは
「宜しくお願いします。お義兄様」
と手を握り返した。
次いで私も
「宜しくお願いします」
とポレットに手を差し出すと
何故かポレットは
「そう言えば、お義父様」
とカークランド公爵に話しかけて私を無視した。
「「???」」
私とクリストフは驚いてポレットを凝視してからお互いに目を合わせた。
(今の無視はわざとなのかしら?…)
クリストフも私と同じ疑問を持ったらしい。肩をすくめている。
「私達はこのままアザール王国の学院に居ても良いのでしょうか?ランドル王国の学院へ編入して、少しでも早くランドル王国の同世代の貴族達に馴染んでおくべきかと思うのですが…」
ポレットが訊くと
カークランド公爵は
「ジョシュアはどうしたい?」
と真っ先に実子の意見を尋ねた。
「…私は早目にランドル王国の学院に入り直したいと思います」
ジョシュアがそう答えると
「そうか。それならヴィクトール陛下にお願いして編入試験が受けられるようにしてもらおう」
とカークランド公爵は相合を崩した。
「編入試験って年度途中でも受けられたのですね?」
私が疑問を口にしたところ
クリストフは
「バルシュミーデ皇国でもアザール王国でも編入試験は進級試験のタイミングで行われる筈だ。年度途中では受けられない。教員達も忙しいからな」
と答えてくれた。
「ランドル王国でもそうらしいが、ヴィクトール陛下は私に実子が見つかった事を喜んでくださっていて、特別に臨時教員を増やして対応するつもりだと仰ってくださっている。
ジョシュアがアザール王国の特待生としてアザール王国に忠誠を誓った状態というのは次期公爵としてマズイ事だから国から出してもらった入学金・学費・寮費も返金して早めにランドル王国の学院に移籍してもらいたいのだそうだ」
カークランド公爵はランドル王国のヴィクトール王から配慮してもらえる事が嬉しいようだ。
ポレットがすかさず
「私もジョシュア様と少しでも早くランドル王国へ行きたいです。ランドル王国の学院に入り直せば、お義父様とも暮らせるのですよね?楽しみです!」
とカークランド公爵にすり寄った。
カークランド公爵は実子のジョスランと少しでも早く一緒に暮らしたいと思っているようだ。
実子に向ける視線の優しさは私達へ向けるものとは明らかに違う。
(私達が一緒に行くと親子水入らずの時間を邪魔する事になるのかも知れないな…)
と思った。
「叔父上。俺は父上からは『学院の高等部を卒業してある程度の教養を身に付けて欲しいという要望が寄せられたがランドル王国の学院をとは言われていない』と聞いていました。
やはりランドル王国の貴族になるからにはランドル王国の学院に通うべきなのでしょうか?」
「必ずしもランドル王国の学院に入り直す必要はないが、同世代の貴族で気の合う者達を見つけておく事が今後の長い人生で有利になるだろうと思っている」
「なるほど」
「クリストフもランドル王国の学院に入り直してくれる気はあるのか?」
「そうですね。同世代の貴族と親交を深める機会は必要でしょう。ですが、そのために特別扱いしてもらう気はありません。
一学年の終わりの進級試験の時期に編入試験が行われるのなら、その頃にランドル王国入りして試験を受けたいと思います。
それで受かれば2年生からはランドル王国の学院に在籍できます」
「そうか。それだとクリストフがランドル王国に来るのは来年という事だな?」
「ええ。俺と、婚約者のヴィヴィアンヌも」
「分かった。ヴィクトール陛下にはそう伝えておこう」
「宜しくお願いします」
そう話がまとまって、私とクリストフはホッとして顔を見合わせた。




