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「先にクリストフと、クリストフの婚約者になったヴィヴィアンヌ嬢に謝罪しておきたい。
私は甥のクリストフが養子になってくれた事を本当に心から喜び、有り難いと感謝していたのだ。
しかし事情が変わってしまい、せっかく養子に入ってくれたクリストフにカークランド公爵位を継がせる事が出来なくなってしまい、本当に申し訳なく思う」
「「「えっ?」」」
クリストフと私とシャリエール公爵が思わず驚きの声を揃って漏らした。
爵位の後継に関しての変更は予想していたものの「申し訳なく思ってくれてる」のが少し意外だったのだ。
「…私は実子が死産だったと思っていたが、この度、『実は死産ではなく、妻の指示によって捨てられていた』事が明らかになった。
ジョシュア・ホリングワース。彼との親子関係は君達にも馴染みのある血縁関係看破魔道具で確認済みだ。
よってカークランド公爵位は実子のジョシュアに継がせ、養子のクリストフにはワイアット侯爵位を継がせたいと思う」
カークランド公爵がそう言うと
「(ハァァーッ)…よりにもよってワイアット侯爵位ですか…」
とクリストフが頭痛でもするかのようにこめかみを指で押さえた。
「ワイアット侯爵位の悪名も下火になってきているので問題はないと思うが」
「…まぁ、そうなんでしょうね。ランドル人がアザール人を憎悪するキッカケを作った奴隷商ギルドの元ギルドマスターがワイアット侯爵だと覚えてる人間も今では少ないでしょう。
ですが覚えてる人間は覚えてるだろうし、アザール人の妻を連れたバルシュミーデ人の俺がワイアット侯爵になると、寝た子を起こすような風評を作り出して広める輩も出てくるのでは?」
「それを言うなら、騎士団を預かるカークランド公爵の妻がアザール人だと言うのもランドル国民の不安を煽るものだろう?」
「それはそうですが…」
「既にランドル王国内ではヴィヴィアンヌ嬢の出自に関しては『シャリエール公爵夫人が産んだ不貞の子で、実の父親はランドル人医師』という噂を流してもらっている」
「ありがとうございます」
「勝手な事をしてもらっては困る!」
私とシャリエール公爵がほぼ同時に物申した。
「ヴィヴィアンヌ嬢は理解してくれているものと思うが、ランドル王国内でのアザール人に対する憎悪感情は未だ燻っている。
アザール人女性がランドル王国に嫁いできて無事に過ごすには出自にも工夫が必要だ。
『父親がランドル人だったため、ずっと虐げられて育った』ような出自があれば『アザール人だから憎い、痛めつけろ』と盲目的に攻撃を受ける可能性が激減するのだから、そうした出自を広めて回る事も大事だ」
「だがヴィヴィアンヌは私の実子だ!」
「それで?シャリエール公爵はヴィヴィアンヌ嬢のために何かしてあげたとでも?クリストフからの知らせではヴィヴィアンヌ嬢の養育費はシャリエール公爵家から一切出ておらず、ダンス授業用のドレスさえヴィヴィアンヌ嬢は持っていなかったという話だが?まさかクリストフが嘘を吐いたとでも仰るのかな?」
「…い、いえ、それは…」
「ランドル王国の影から得た情報で色々と分かった事も多い。ジョシュアが私の実子だと分かった事もそうだが、ヴィヴィアンヌ嬢が王女として王城で暮らしていた間にどんな物を食べてどんな衣服を着せられていたのか等もよくよく理解した。
そのお陰でヴィヴィアンヌ嬢の出自に関する噂をこちらの一存で流して構わないだろうと判断した。
何せ高貴な血筋からするとあり得ない冷遇を受けていたというのは保護者に対する名誉毀損などではなく単なる事実なのだからな。
本来ならシャリエール公爵に対しても何の通告も要らない筈だと私としては思ってさえいる」
「そんな勝手な!」
「勝手なのはどちらだ。親としての義務を果たした事すらない貴殿には何の権利もない。
後々そちらが我々の方でヴィヴィアンヌ嬢を守るために広めた出自情報を勝手に覆す動きをされると迷惑なので、事前に釘をさすべくこうして説明して差し上げているに過ぎない」
「…私がヴィヴィアンヌの養育に全く関与していなかったのは、ヴィヴィアンヌがすり替えられて王家に取られていたからだ。
その分、シャルリーヌには公爵令嬢として必要なものは全て揃えてやっていた。
ヴィヴィアンヌが下級使用人の子供のような暮らしをしていたのは全て王家の責任だ。ダンス授業用のドレスなど入学前から王家が揃えてやっておくべきものではないか」
「確認ぐらい取れば良かっただろう?王家がどれだけケチなのか貴殿も事実を薄々察していた筈だ」
「それは…私の落ち度だが。私がシャルリーヌを虐待せずに養ったからには、王家もヴィヴィアンヌを虐待せずに養うべきだった。
王家がヴィヴィアンヌを虐待していた事まで私が虐待したかのように事実誤認されるようでは困る」
「それなら何故今までヴィヴィアンヌ嬢に会いに来なかった?」
「合わせる顔が無いからだ。すまないと思っているが、どうせ許してはもらえないだろうから謝るだけ無駄だ」
「貴殿という男は…。本当に色々と間違ってるな。ともかくランドル王国においてはヴィヴィアンヌ嬢の本当の父親はランドル人で、ヴィヴィアンヌ嬢は不貞の子と見做されアザール王国において虐待されてきたという出自は既に流し始めているし、それを撤回させる気はない。
シャリエール公爵とアザール王家の皆様はヴィヴィアンヌ嬢を虐げたクズなアザール人だと認識されるだろうが、そうした不名誉のお詫びとして持参金は不要だという事を伝えさせていただくために今日はお越しいただいた次第だ」
「…持参金は不要?要は名誉毀損の慰謝料代わりという事ですか?」
「そうですが、くれぐれもランドル王国内でのヴィヴィアンヌ嬢の身の安全のためだという事をお忘れなく」
「…そういう事であれば、了承致します」
シャリエール公爵は渋々といった体で頷いた…。




