40:間話
【side:ポレット・バレーヌ】
「この世界は乙女ゲームの世界だわ!」
と私が前世の記憶を取り戻したのは
ジョスランと出会い
一目惚れしてしまい
雷に打たれたかのような衝撃を受けた時だったわ。
『暁の乙女と初代国王の遺産〜アントワーヌの人形〜』
の攻略対象の1人。
ジョスラン・バレーヌ。
本名ジョシュア・ホリングワース。
彼の育ての親である元侍女は、彼の母親の親戚の女性で姓は同じホリングワース姓だったので、彼の名前は奇しくも彼の母方の祖父と同姓同名に当たるの。
ジョスランことジョシュアこそがランドル王国のカークランド公爵家の正統な後継者。
(流石は私のジョスランだわ)
と、自分の見る目があり過ぎて自分でも怖くなったものよ…。
それにしてもーー
ゲーム開始当初。
ジョスランは辺境伯の娘に気に入られて、婿入りする前提で辺境伯の後継に決まっていたのだけれど、辺境伯の娘の名前は一度も登場していない。
辺境伯、つまり私の父には娘が2人いるので
正妻の娘である異母姉のオデットと
側室の娘である私ポレットの
どちらがジョスランの婚約者だったのかも分からない。
ゲーム開始当初のジョスランの婚約者に関しては
「バレーヌ辺境伯の娘」
という説明文のみ。
(ゲーム内のシナリオではオデットがジョスランの婚約者だったのかも知れないわね…)
と思うと心穏やかではいられなかった。
当然、オデットを排除する事に決めたわ。
ジョスランは王立魔法学院高等部に入学して一、二ヶ月うちに
「実はランドル王国のカークランド公爵の実子だ」
と明らかになる設定。
そのジョスランの母国である隣国。
ランドル王国は、国王も貴族達もランドル人ではなくバルシュミーデ人。
ランドル王国はバルシュミーデ皇国の属国となっている。
そしてアザール王国の王族・貴族がランドル王国のレア魔道具を購入するにはランドル王国の国王の許可が要る。
現在のアザール王国は国王と王弟がバルシュミーデ皇国の皇女を正妃に迎える事が決まって、俄かにアザール王国へ入国してくる外国人が激増している。
なのにアザール人はバルシュミーデ皇国において嫌悪されていて、ランドル王国では憎悪されている。
国自体が窮している国際状況にあるの。
アザール王国は斜陽の国だ、という世界感設定。
(シナリオライターって絶対性格悪いわよね…)
と心優しい私は思ってしまったわ。
ジョスランルートの悪役令嬢はヴィヴィアンヌ・シャリエール。
ヴィヴィアンヌは最初は対人恐怖症気味の大人しい令嬢だったけれど…
誰にでも気さくに声をかけて周る愛想の良いジョスランに内心で惹かれてて、そうした淡い初恋が執着に変わってしまう面倒な粘着女。
シャリエール公爵とランドル王国国王との交渉で
「シャリエール公爵令嬢はカークランド公爵令息の婚約者になる」
事が決まっていたので、ヴィヴィアンヌはカークランド公爵の甥、つまりジョスランの従兄弟と婚約する事になったの。
そこで大人しく納得していれば良かったものの…
ジョスランの従兄弟に対しては
「怯えているフリ」
を徹底して逃げ回り
「…ヴィヴィアンヌ嬢はジョスランの方が良いみたいだから俺は身を引きます」
とジョスランの従兄弟に言わせ、ジョスランの婚約者の地位を奪いとった強かな女だったわ。
ジョスランがヒロインのアナイスに惚れてしまってからのヴィヴィアンヌは
「対人恐怖症設定はどこにいった!」
とツッコミを入れたくなるような徹底した悪女ぶり。
とにかく陰湿でタチが悪かったのよ。
他の悪役令嬢が
「暴漢を雇う」
「ヒロインの私物を壊す」
「ヒロインを階段から突き落とす」
のに対して
ヴィヴィアンヌは
「虫や小動物の死骸をヒロインのロッカーや寮の私室に忍ばせる」
名人。
呪詛のこもった呪物を王都内の各地から見つけてきて、解呪する能力があるくせに解呪せず、ヒロインを呪うのに転用するようなクズ女。
しかも地頭が良いので特待生のヒロインよりも成績優秀。
ヒロインが無自覚に垂れ流す魅了系の光魔法を無効化する闇魔法を毎日使い続けるものだから、ジョスランルートは最も難易度が高かったわ。
魅了の追い風が無く、完全にただの恋愛感情だけでジョスランを墜とすしかなかった…。
ヴィヴィアンヌ・シャリエール…。
シャルリーヌ・ド・ブロイ・アザールと赤ん坊の頃に取り替えられていた女。
シャルリーヌもシャルル・ラングラン公爵令息ルートの悪役令嬢で、当然、性格はよろしくないけれど、ヴィヴィアンヌと比べるなら遥かにマシだったわ。
(ジョスランと私が結ばれるにはヴィヴィアンヌをどうにかしなきゃいけないのよね…)
と思うと気が重い。
私はゲーム内では名前も出ていなかったモブ。
魔法適性は火属性と光属性。
と言っても光属性の方はサブ属性。
治癒魔法のようなものは使えない。
私が光属性魔法で使えるのは「魅惑」の下位互換である「扇動」。
私に好意を持たせる事はできない。
私にできるのは人の中にある感情傾向を煽る事だけ。
つまり私に少しでも好意を持ってる相手に対しては、その好意を溺愛にまでエスカレートさせる事ができるものの…
私に少しも好意を持っていない相手を私に惚れさせる事はできない。
辺境伯であるお父様は私を溺愛してるので、オデットを押し退けて後継者の座に収まるのは難しく無かった。
辺境伯家の使用人達がオデットを嫌うように仕向けるのも簡単だった。
だけどジョスランが私を溺愛してくれる事は無かった。
つまりジョスランにとってポレットは恋愛対象ではないようなの。
「大勢いる友人知人のうちの1人」
のような微妙な位置付けに置かれているっぽい。
(ジョスランて、多分、面食いだわね。ヴィヴィアンヌもヒロインも美少女だもの。それに引き換え私は…)
ともかく、私はヴィヴィアンヌ・シャリエールの事がオデット同様に最初から嫌いだったわ。
だからカークランド公爵からの呼び出しには
(絶対、ヴィヴィアンヌをオデットと同じように嫌われ者に仕立て上げてジョスランの視界から消してやる…)
と決意して、内心緊張しながら応じたの…。




