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何処の国も「影」と呼ばれる暗躍工作員が存在している訳だがーー
ランドル王国のバルシュミーデ人国王が使役する影は、どうやら情報収集に特化しているらしい。
ランドル王国の影はバルシュミーデ本国の影と対立しないために情報収集以外の事に手を出す事ができないから情報収集に特化したのだと、そういった事情を後から知らされた。
ランドル王国国王の側近カークランド公爵。
つまりクリストフの義父となったヨナタン・クラルヴァインがバルシュミーデ皇国国王の許可を得てから急遽アザール王国へとやってきたのだ。
アザール王国の国王に来国の許可をもらうのではなく
バルシュミーデ皇国の国王に許可をもらうあたりに
「バルシュミーデ人の中のアザール王国の位置付け」
が如実に現れている。
クリストフの元へカークランド公爵から
「至急、重要な話があるのでクラヴェル公爵家の王都別邸まで来て欲しい」
と魔鳩便で手紙が届けられたのだ。
そのクラヴェル公爵家ーー。
初代公爵がランドル王国から嫁いできた王妃が産んだ王子だった事もあり、ランドル王国との外交の橋渡しをしている家だ。
王都のクラヴェル公爵家の屋敷に
「既にカークランド公爵が滞在中だ」
という事で、私もクリストフと共に呼び出しに応じる事となった。
「…カークランド公爵って、どんな方なんでしょう」
クリストフの義父が嫌な男である可能性もある。
もしかしたら不愉快な思いをさせられるのかも知れない。
クリストフは苦笑して
「俺も叔父上の事はほぼ知らないんだ。何せ俺が生まれるより前にランドル王国入りしてて、バルシュミーデ本国へは一度も戻ってきていないらしいからな」
と自分もこれといって予備知識が無い事を教えてくれた。
「…そう言えば公爵家の当主って外交官以外はなかなか国を離れられないものでしたね」
「ああ。カークランド公爵家は騎士団を擁する公爵家の一つらしいから、他国へ訪問すれば領土的野心を疑われやすい」
(だからバルシュミーデ国王に許可をとったと…)
「領土的野心は持たずに、純粋に私用で訪問くださった、という事は、私達に余程重要な用事があったという事でしょうか?」
「おそらくな」
「………」
(嫌な予感しかしない…)
「…手紙では済ませられない用件となると、相当なものなのだろうな。廃嫡されるような不品行を行なった覚えはないが…火のない所にも煙が立つのが社交界における誣告だ。
何の悪事も働いてないのに国や一大権力の都合による諜報で冤罪をこじつけられて破滅させられる者も少なくない。
普段から『陥れを仕掛けてくる者には容赦しない』という姿勢で自己鍛錬を怠らず身を正して生きていても、陥れられる時には陥れられる。
一応、冒険者登録もしているし、そこまで自分独りの身の振り方での心配はしていないが…『婚約の解消』もあり得るのかと思うと、せっかく縁があって君と親しくなれたのにと、それは本当に寂しく思う…」
(なんか色々縁起でもない事を考えてる…)
クリストフが気の毒になった。
だけどーー
(生まれながらに公爵令息として育った人だからこそ「陥れによる突然の破滅」を身近に感じて生きてきた、という事なのでしょうね)
と理解はできる。
「…私は『娼館に売られる』とかされる事になったら、その前に逃げます」
「何かあったら冒険者ギルドにことづてを頼むようにしてもらえるか?俺もそうするので」
「分かりました」
私とクリストフは二人で悲壮な覚悟を決めてクラヴェル公爵家を訪ねたのだった…。
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クラヴェル公爵家の屋敷に着くと、直ぐに応接室へと通された。
何故かシャリエール公爵も居て、シャリエール公爵は戸惑った様子で
「ヴィヴィアンヌ…」
と声をかけてきた。
「ご機嫌よう。シャリエール公爵様」
(顔を見たら改めてムカつくわね)
「………他人行儀過ぎないだろうか」
「他人ですよね?身内らしい言葉をかけて頂いた事もなければ、身内らしい待遇も受けておりませんが?」
「…それに関しては本当にすまなく思っている」
「今日はどのようなご用件で此処へ?」
「カークランド公爵が令息とお前との婚約に関して幾つか見直したいとかで呼び出された」
「そうなんですね?…言っときますが、貴方がお望みの通りにカークランド公爵が私を奴隷落ちさせたりとかしようとするなら、私は逃げます。
王女としての待遇も受けてきてませんが、公爵令嬢としての待遇も受けてきてません。
私にかけられた生活費など、王城勤めの下級使用人の子供達と同程度のものなので、もしかしたら孤児院で暮らしてる孤児よりマシ、という程度ですよ?
自分の養育費が『奴隷落ちで賄わなければならない大金』ではない事は自分でもよくわかってます。
私が逃げた場合には貴方がカークランド公爵に女衒から支払われる筈だった料金を公爵様が支払ってくださいね。私にはその辺の責任は一切負えませんから」
言っておくべき事を言うと
「…それは勿論だ。自分の血を引いた実子を奴隷にしたいなどとは私も思っていない」
とシャリエール公爵はマトモな人間ぶった発言をしてくれた。
「言質は取りましたからね」
「カークランド公爵にも、くれぐれも奴隷落ちなどさせないで欲しいとお願いするつもりだ」
一応、実の娘と分かったからには奴隷落ちだけは回避させる心算はあるらしい。
どうせ外聞が悪いとか、そういう理由なのだろうが。
王城での血縁関係看破の結果が出て以降ーー
何の音沙汰もなく、公爵家から何の経済的援助も無かったので
(よっぽど結果を認めたくなかったのでしょうね)
と思っていた。
(天涯孤独で、親なんて居ない、と思おう)
と割り切れた。
前世でも人生のとある時点で、自分は天涯孤独だと思い込む事にした。
身内の情や庇護が無くても一先ずは生きていけるのだ。
ただその場合
「殺された場合に仇を取ってくれる人がいない」
ので
「夫が手軽に保険金殺人を企める」
という不利が降りかかる。
なので今度は夫婦仲が冷え切ったら殺される前に離婚を提案するくらいの知恵は付いてる。
「…娘には、やはり幸せな結婚をして欲しい…」
と宣うシャリエール公爵を、私とクリストフは冷ややかな目で見つめた。
「…少しでも婚家での虐待を牽制できるように持参金は惜しまないつもりだ」
とシャリエール公爵がクリストフに向き直って言うが
クリストフは無表情で
「そういった細かい話は義父が来てからにしましょう」
とだけ答えた。
クリストフはクリストフで後継者として養子になったのに廃嫡されるかも知れないと不安を抱えているのだ。
持参金云々の話をされても耳に入らない事だろう。
(本当にヤキモキさせられるわね…)
と溜息を吐いた時に
コンコンとノック音がして
「どうぞ」
というシャリエール公爵の入室許可の声と共に
「こちらです」
と執事が人を案内してきた。
(カークランド公爵かクラヴェル公爵が来たのか?)
と、私もクリストフもシャリエール公爵も思った筈だ。
しかし現れたのはーー
何故か私のクラスメイトの一人だった。
「バレーヌ伯爵令息?」
ジョスラン・バレーヌ。
辺境伯の後継として、辺境伯の弟の養子になっている少年だ。
辺境伯の実子の御令嬢と婚約している筈だが…
私を見て
「あっ」
と声を上げたジョスランに続いて歳下らしい令嬢が2人入室してきた。
何故か令嬢のうちの1人は私を睨んでいる…。
それから偉そうな大人の男性が3人。
執事や侍女達も。
「…興味深い顔触れですが。今日はどういったご用件でのお呼び出しなのか、できれば単刀直入にお話願えますか?」
とシャリエール公爵が偉そうな大人の男性3人のうちの1人に話しかけた。
シャリエール公爵は流石は公爵、という事か。
アザール王国の貴族であるバレーヌ辺境伯とクラヴェル公爵は既に面識があるのだろう。
2人へは軽い会釈で済ませて、カークランド公爵へと真っ直ぐに直球の要求を突きつけたのだった。
「申し訳ない。こちらの用件を伝えずにお越しいただいたせいで、不安を煽ってしまったのでしょうね。
しかし今回の用件より先に自己紹介をさせていただきましょう」
シャリエール公爵に話しかけられた男性がにこやかに自己紹介の必要性を説いた。
「私はカークランド公爵ヨナタン・クラルヴァインです。初めまして」
そう言って微笑を浮かべる男性はクリストフに似た容姿の持ち主だった…。




