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挿絵(By みてみん)


食堂内の緊張が解けてーー

食堂内が賑やかさを取り戻したところで

私はクリストフへバルシュミーデ語で話しかけた。


「〈…わざわざラングラン公爵令息に(シャルルに)訊かなくても、さっきの人達がBクラス、Cクラスの生徒達なのは分かりますよ〉」


「〈そうなのか?〉」


(銀貨を一枚づつ盗んでやったメンツだし…)


「〈…そこそこ成績優秀だから野心もあり、それでいてSクラスと関わる機会がないので平気で排外主義と愛国とを混同視してしまえるんです。

この国の市井では『平等主義』が蔓延していて、貴族達の身の振り方は多様化してる最中です。

『大衆の不満を煽って王家や公爵家を処刑させて自分達が新権力を掌握し既存権力者に取って代わろう』と欲に走って大衆を扇動する貴族が増えつつある社会状況のようです〉」


「〈…その手の連中は本当に卑怯だよな。結局は既存権力に牙を剥き、既存権力者に成り代わろうと欲を出してるくせに、『持つ者の義務を果たしていない罪』を上位貴族にだけ背負わせる事で、『自分達は持つ者の義務を果たしてる』気分になってしまえるんだからな…〉」


「〈そうですね。排外主義的な下級貴族や平民に上手に媚びた中堅貴族らが多数派からの支持を得て調子に乗ると、そういう欺瞞がどうしても湧いてくるものなのでしょう〉」


「〈バルシュミーデ人との婚姻は国王と王弟が率先して進めているというのに…〉」


「〈…公爵令嬢がバルシュミーデ人と婚約して『売国奴』呼ばわりなら、国王と王弟を『売国奴の親玉』とでも思っていそうですね〉」


「〈国家反逆罪だな〉」


「〈この国の王家、王族派の者達が『どうせ他国から淘汰されるのだとしても犠牲を必要最小限に抑えたい』と思っているのに対して、下位貴族や庶民らは『可能な限り上に立つ者の数を減らしたい』ようにも見えます。『誰がどんな人間なのか』を勘定に入れずに盲目的に〉」


「〈バルシュミーデ皇国がランドル王国を属国化してから、ここ十数年でランドル王国は以前よりも豊かになったと思うが…。

『処刑するべき者を処刑する』という的確な間引きのお陰でそうなったのだと、俺達は認識している訳だが、どうやらアザール人の多くは違うようだな〉」


「〈そのようです〉」


政治的なバランスが粗暴に破壊される事で社会は容易く混乱に陥る。


「社会的上位者の数を減らすために処刑する」

そうした間引きが人間性やそれまでの施政業績を無視して盲目的に進められると…

「処刑されるべき鬼畜が生き残りのさばる」

「生き残るべき善政施行者が処刑される」

ような冤罪処刑が罷り通る事になる。


それでは民の暮らしは成り立たない。

そして民の方では侵略によって起こる事態を本気で心配するだけの知性を培うだけの余裕も無い場合が多い。


侵略された非侵略国では当然のように既存権力者が間引きされていくし、国民全員が侵略国側の国民よりも低い地位に置かれる。

つまり既存の貴族が平民へ、既存の平民が貧民へと階級を実質的に落とされる。


それでいて「侵略国の人々は皆優良人種」「被侵略国の我々は無能人種」と思い込まされるような洗脳を執拗かつ粘着に振りかけられ続ける事になる。

「逆らえば無駄に波風を立てるだけで、余計に不利になるだけだ」

「決して勝てない」

「戦えば必ず負ける」

と、そう思い込まされることになるのだ。


そんな最悪な世の中になってしまうのだとしたら…

やはり早めにアザール王国を出たいと思ってしまう。


けれど

(貴族に生まれ、貴族に嫁ぐからには「戦わない」という選択肢はきっと無いのだわ…)

とも思う。


このままクリストフに嫁ぐのだとしても

「夫が庇護すべき民を虐げる施政を行うようなら、命をかけて諫言する」

という戦いが一生続くのだ。


自分の言葉に耳を傾けてもらえるように忠実さを示し続けて、自分という存在を愛させる。

そうした戦いで勝利し続けてやっと夫が施政者として間違わないように、夫を通して社会へと干渉できる。


戦い方は立場により様々だろうが…

「単に自分の国で生まれ育っただけの無辜の民が命を繋いで存続し続けられるように尽力する」

のが貴族のような搾取者階級の義務である以上、そうした主軸部分を押さえた状態での戦いはどうしても貴族である限り必要になる…。


とりあえずは

(王家、公爵家をスケープゴートにする事で正義を為している気になるような卑劣極まる貴族達の餌食のなんてされてやるものか)

と自分の心に自分で気合いを入れた…。


******************


夜に独りで隠し部屋で本を読んでいると

(そう言えば、このところリュカと会ってないわ…)

と気が付いた。


「フィリベールお兄様のほうで何かあって、リュカも忙しいのかしら…」

思わず呟きが漏れた時に

あるじよ」

と急に声がかかりギョッとした。


シーカーだ。


「…びっくりした。…急に気配もなく現れると怖いものがあるわね。自分が呼び出してた時とは違って」


「すまないな。だが早めに『契約の解消を望む』という意志を示しておきたかった」


「ああ…。それってやっぱり、アントワーヌのそっくりさんが見つかったって事?」


「見つけたのは『アントワーヌの生まれ変わり』だが、当人にアントワーヌだった頃の記憶は全くない」


「やっぱり精霊ってすごいね。それじゃ【泥棒の極意】の小精霊も、その生まれ変わりさんの元に戻りたがってたりするのかしら?」


「おそらくは」


「それならやっぱりシーカーに魔法を教えてもらって闇魔法を極めたい」


「分かってる。そのために戻ってきた」


「私を嫌ってる人達から銀貨をスルのが実はすごく便利だったんだけど…。それに代わる闇魔法は無いの?」


財布をスルのではなく、財布の中から銀貨をスルのだから【泥棒の極意】は本気ですごい。


アレを【泥棒の極意】に頼らず、自分で再現できるなら一生お金には困らずに済む。



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