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(【泥棒の極意】を使いこなせれば、実はできない事など無いのかも知れない…)
と本気で思ってしまう。
私が【泥棒の極意】の常軌を逸した機能に驚愕しているのとは対極的に、シーカーは常識でも語るかのような澄ました顔をしている。
「耐久力も盗みの対象だから、他人から筋力を盗んで使用する場合には一緒に耐久力も盗んでおいて一緒に使用しなければならない。
筋力だけを盗んで使うと、身体が筋力使用時の負荷に耐えられず壊れるからな。そうした点はくれぐれも注意が必要だ」
(そもそも筋力を盗めるってところがまた…)
「〈もしかして、耐久力も盗めるという事は他人の武器から耐久力を盗んで自分の武器の耐久力を上げるのに使えるという事?〉」
「ああ。しかし、同じ材質の物に限る。鉄の武器から盗んだ耐久力を人間には使えない。鉄の武器から盗んだ耐久力を青銅の武器には使えない。
お前が所持している懐剣は青銅だろう?同じ青銅の製品からなら耐久力を盗めるぞ」
「〈良い事聞いた!でも耐久力を盗むなら盗むで、誰からでも盗んで良い訳じゃないわよね?私はこう見えて善良だから、悪人以外から色々盗むのは申し訳なく感じられるわ〉」
「とりあえず、金を盗みたいならBクラスとCクラスの連中から盗め。連中はお前が何らかのコネを使ってAクラスに入ったに違いないと悪口を言ってたぞ。
Dクラス以下の連中は成績自体に興味が無いせいか、自分よりも上のクラスの者を妬む発想自体無いようだが、B・Cクラスの連中はその点、ギラギラしている」
「〈なんか、シーカーがすごく親切。自発的に情報をくれるなんて〉」
「私もこう見えて善良だからな。アントワーヌの継承者が現れたのかも知れないと自由に探し回れる事に関して、お前の懐の深さに感謝しているのだ」
「〈有り難う〉」
「あと、【泥棒の極意】は常時起動しっぱなしで待機モードにさせておくと良い。そうする事で小精霊も周囲の状態を観察できるので、喜ぶ筈だ」
「〈起動しっぱなしだと疲れるんじゃないかと思って、こまめに切るようにしてたんだけど〉」
「精霊も小精霊も身体が無いので疲れない。生き物が感じる疲労に似たものは感じるが、それは退屈している時に感じるものだ」
「〈そうだったのね…〉」
(人間とは根本的に感じ方が違うのね…)
私はシーカーの勧めに従って、BクラスCクラスの生徒達から銀貨一枚づつを盗ませていただいた。
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放課後ーー。
クリストフのSクラスへ行ってみると、丁度彼が教室を出るところだった。
「丁度そっちへ行こうと思ってたんだ」
と笑顔で言われた。
お金も調達できたし、大丈夫だろう。
「今日は宜しくお願いします」
私も婚約者様に笑顔を向けた。
クリストフのお友達が私の方を興味津々に見ている。
クリストフがお友達2人を振り返って
「明日、紹介するのでも良かったが、今丁度ヴィヴィアンヌ嬢の方から来てくれた事だし、今、紹介しておく。
こちらヴィヴィアンヌ・シャリエール公爵令嬢。俺の婚約者だ」
と言うと
「良いなぁ。可愛いなぁ。棚ぼたで公爵位と婚約者。ホントお前、運が良いよなぁ」
「Aクラスの生徒は全員頭脳明晰・容姿端麗で羨ましいわ」
とお友達2人が先ず感想を述べた。
「エールリヒも叔父がランドル王国の公爵だろ。養子の話とか無かったのか」
クリストフがエールリヒの妬まし気な言葉に対して言い返すが
「…叔父の娘達は王太子妃候補だよ。でも2人いるんで姉妹のうちのどちらかが婿養子を迎える事になるらしいが、その従姉妹達は2人とも相当な面食いらしくてな。お陰で初めから除外されてる…」
との事。
「…なるほど」
クリストフが頷いたところで
エールリヒとドロテーアが私の方へ向き直って
「エールリヒ・マルトリッツです。宜しく。冒険者活動の時は短縮してエレって呼んでください」
「ドロテーア・ゼーフェリンクです。私も冒険者活動の時には名前を短縮してドラって呼んでください。魔物相手にしてる時は少しでも短い言葉で指示をするべきですから」
と言ってくれた。
(エレに、ドラね。うん。覚えた)
「宜しくお願いします。ヴィヴィアンヌです。…私も名前を短縮して呼んでもらった方が良いのでしょうか?」
私が尋ねると
ドロテーアが
「そうですね。でもヴィヴィとかアナとか呼ばれて咄嗟に自分の事だと分からないようでは困るので…。どんな呼び方なら自分の事だと思えますか?」
と聞き返してきた。
「…スミマセン。…考えてみたら、私、名前を人から呼ばれる事自体あまりありませんでした。…でも、そうですね。ヴィヴィなら、ちゃんと反応できると思います」
「「「ヴィヴィ…」」」
クリストフ、エールリヒ、ドロテーアの3人が噛み締めるようにヴィヴィと呟いた。
呼ぶ方も間違えないように呼ぶ為に名前を口に馴染ませたいという事か…。
クリストフは
「ヴィヴィ、ヴィヴィ、ヴィヴィ、ヴィヴィ…」
と何回か繰り返した。
「因みにクリストフ様は冒険者活動中には何とお呼びすれば?」
「ああ、コイツはクリフだよ」
エールリヒが代わりに答えた。
(クリフ…。「クリス」じゃないのか…)
と思った。
すかさずクリストフが
「兄の愛称がクリスなんで、俺の愛称は紛らわしいからと『ステュー』にされたんだ。それこそ『誰の事呼んでるんだ?』ってノリで分かりにくかった」
と愚痴をこぼしてくれた。
(考えてみたら「兄がいる」という事すら今まで知らなかったんだな…)
と婚約者様への無関心を自分で実感し、少し申し訳なく思った…。
「冒険者ギルドへ行くんなら俺達も一緒に行くよ。基本的に独りでいるとバルシュミーデ人は微妙な差別に遭うだろ?
アザール人は自分達は我が物顔で他所の国へ入り込むくせに自分達の国へ他国人が入り込むと露骨に嫌な顔をするからな。
アザール王国内ではちゃんと複数人で行動するように心がけた方が良い」
エールリヒに言わせると、アザール人は相互主義を理解しない非対称対応をする人種という事になっているらしい。
(そういうのは多分、何処の国の人でも同じだと思うんだけど…)
おそらくーー
軍事力の後ろ盾がないアザール人が軍事力の後ろ盾があるバルシュミーデ人と同じようにアウェイでも厚かましく振る舞うと色々国際的に問題が出るのだろう。
「コラッ!ヴィヴィアンヌ嬢もアザール人なのに、ヴィヴィアンヌ嬢の前でそんな事を言うんじゃありません!」
ドロテーアがエールリヒを小突いた。
仲が良いようだ。
私が目を丸くしていると
「エールリヒとドロテーアはアザール王国に来る前は婚約者だったんだ」
とクリストフがボソッと耳打ちしてくれた…。
こちらに来る事になって婚約は解消され、婚約者はアザール人貴族を選ぶように指示されたらしい。
(要はバルシュミーデ皇国はアザール王国の貴族家を婚姻でジワジワ乗っ取っていくつもりなのね)
と解った。
それで2人が幸せになれるとは思えないのだけれど…。




