30:間話
【sideフィリベール・ド・ブロイ・アザール】
シャリエール公爵が血縁関係看破魔道具を入手していたなど完全に寝耳に水だった。
しかも魔道具を入手する際の交渉で娘を差し出す約束をしていたなど、俺は全く知らなかった…。
(カークランド公爵令息…。彼がヴィヴィアンヌの婚約者か…)
ヴィヴィアンヌとカークランド公爵令息の晴れやかな表情は俺の気分を落ち込ませるのに充分な威力だった。
王家以外の者達が退室した応接室で
「…ヴィヴィアンヌの事で兄上にお話があります」
と俺が言うと
「私もお前に話があったんだ」
とランベール兄上が微笑んだので
(きっとロクデモナイ話なんだろうな…)
と思ってしまった…。
母とジルベール兄上が何か言いたげだが
「フィリベールと二人きりにしてくれ」
とランベール兄上が追い払った。
幼い頃から次期国王として俺達とは違う待遇で育った人だ。
しかもアザール王国は明らかに傾いている国。
滅んでないのが不思議なくらいだ。
そんな国を背負うという事は俺達では計り知れない苦悩があった筈。
(やっぱり俺は兄上が命じる相手と婚約させられるのか?…)
気が重い。
「お前の言いたい事は解っている。私はお前に『学院在学期間中にアントワーヌ王の遺産を全て回収できたら婚約者を自由に選ばせてやる』と約束していたが、その約束を反故にしなければならない。
どうせお前は『ヴィヴィアンヌが妹でないのならヴィヴィアンヌを婚約者にしたい』と思っていたのだろう?」
「その通りです」
「ヴィヴィアンヌの婚約者が国内の者だったら、私はお前の望み通りにして良いと思っていたが、お前も先程聞いたように、シャリエール公爵がランドル王国との交渉で自分の娘を差し出す約束をしている。
なのでヴィヴィアンヌの身の振り方に関して我々は既に干渉できない」
「ランドル王国のヴィクトール王は『シャリエール公爵令嬢』を押し付けられて迷惑に思ったからカークランド公爵の後妻に、と譲ったんですよね?
それを尚且つカークランド公爵にも迷惑がられて、養子に取った甥の婚約者にと、なすりつけられてる。
そういう押し付け合いで決まった婚約でヴィヴィアンヌがマトモな扱いを受けられるとは思えないのですが?」
「…国が勢いを失って傾いている以上、王族も高位貴族もマトモな結婚などできはしないよ」
「…やはり俺もバルシュミーデ人と婚約しなければならないのでしょうか?」
「そうだ」
「相手は誰ですか?」
「私の側妃に、と考えていた令嬢だ」
「兄上の側妃候補というと、俺と同じ学年のツェツィーリア・アーベレ嬢ですか?」
「ああ」
「…第一皇女が成人するまでの間、側妃に妃業務をさせる為にアーベレ嬢を側妃候補にしたんでしたよね?そうなると妃業務は誰にさせるんですか?まさか第一皇女に?この前10歳になられたばかりなのに?」
「いや、アーベレ嬢は女官長の地位に就いて妃業務を皇女に代わって代行してくれるつもりらしい。
皇女に代わって子作りにも協力してくれるそうだ。実質は側妃だ。
しかし表向きは側妃の座に着きたくない、『誠心誠意お仕えするアウグスタ皇女殿下のお立場を脅かす地位には就きたくない』という意向だ」
「実質は側妃として働いて、兄上と閨まで共にして、名目上だけ俺の妻になると?それがアーベレ嬢の意向なんですか?」
「『名目上の夫』に関しては『誰を』と指定はされていない。なのでシャルルをどうかと思ったが、シャルルだとアーベレ嬢よりも2歳年下だ」
「…俺がアーベレ嬢の名目上の夫になったとして、『俺の実質的な妻』はどうしろと言うんですか?それこそヴィヴィアンヌでもくれるんですか?」
「側室は自由に選んで良い。それこそヴィヴィアンヌ以外の令嬢を」
「…サイアクだ…」
「あと、お前の卒業後には伯爵位を与えるつもりだったが、侯爵位へと変更する。ヴィルジールもな」
「…まさかジルベール兄上の側妃候補者もアーベレ嬢みたいな事を言ってるんじゃないでしょうね」
「残念ながらその通りだ」
「…ですがヴィルジールには既に婚約者が居たでしょう?婚約者解消するんですか?こちらの有責で?」
「違約金、慰謝料はバルシュミーデ皇国が支払うそうだ」
「それだと側妃候補者達の言い分って実は当人の意志じゃなくてバルシュミーデ皇国に指示されて言ってるって事ですね?」
「そうなるな」
「…それだと向こうさんは、暗に『国王、王弟は側妃を持つな。皇女を娶るからには一夫一妻を貫け』と強要してるって風にも取れますが?」
「そういうつもりなのだろうな」
「…兄上は納得してるんだ?」
「納得するしかないだろう?国同士の関係は国力の差に応じて決まり、決して対等ではない。『理由をこじつけられて軍隊で攻め込まれて王族・高位貴族は一斉公開処刑』みたいなランドル王国の二の舞は御免だからな」
「…相互主義の通用しない非対称な関係を受け入れる、と?…それじゃあ、もしも皇女が浮気して兄上の胤じゃない王子を産んで、その子供を王太子にするとか言い張ったら、次の王からはアザール王家の血は絶たれる事になりますが?それでも良いと?」
「…ランドル王国は既にそうなっているだろうな」
「…あの国は…」
「…ランドル王国の第一王子は表向きは正妃が産んだ事にされているが、実際にはヴィクトール王が当時コッソリ囲っていた愛妾、現在の第一側妃に産ませた子だ。ヴィクトール王は、正妃であるランドル王国の王女とは一度も閨を共にしていない」
「…属国化というよりは、もう、寧ろ露骨に植民地化ですね、それじゃ。…支配下に置いた国の王族の血を一滴も交えずに形だけは混血で血を残してるように見せかけるのがバルシュミーデ風なのだとしたら、クズ過ぎて笑えますよ」
「…まぁ、第一皇女が浮気して浮気相手の子を産むかどうかは今の時点では全てが未定だ。
一応、私もジルベールも結婚相手の皇女から気に入られているらしいので、そのままご機嫌を損ねずに済むように一生気を使って生きるつもりだよ」
「………」
斜陽の国では、どうやら誰も幸せな結婚などできないものらしい…。
俺はこれ見よがしにハァァーッと溜息を吐いて、イヤミの代わりにした。




