29
婚約者となったクリストフ・クラルヴァイン。
彼に言わせると
「バルシュミーデ人貴族の多くが、ギルド登録可能になる12歳から冒険者登録していて、魔物の素材を冒険者ギルドに売り小遣い稼ぎをしている」
のだそうだ。
男子に限らず女子も。
「バルシュミーデ人は女性も勇猛果敢なのですね」
文化の違いに驚かされた。
「休日は郊外で魔物狩りをする事が多いんだ。ヴィヴィアンヌ嬢も良かったら一緒に行かないか?」
(行ってみたいな)
「…私が一緒だと確実に足手纏いになると思うんですが、良いんでしょうか?」
「王都近郊は強い魔物は出ないから大して危なくない。冒険者登録したての初心者は大抵王都を拠点にして活動していると聞いた」
「そうなんですね?」
「今日の放課後に冒険者登録しておけば明日の休日は直行で魔物狩りに出向ける」
「それなら是非、今日のうちに冒険者登録しておきたいです」
放課後に冒険者ギルドに登録しに行く事にした。
(それにしてもバルシュミーデでは貴族令嬢も普通に狩りに参加するのね…)
クリストフのいるSクラス6人のうち3人が第一皇女派、3人が第二皇女派と分かれている。
クリストフは第二皇女派。
エールリヒ・マルトリッツ
ドロテーア・ゼーフェリンク
の2人はクリストフと同じ第二皇女派で仲が良い。
大抵、休日は3人で過ごしていたとか。
クリストフが
「婚約者を紹介がてら休日を一緒に過ごしたい」
と言い出したので、私も魔物狩りに付き合う事になったのだ。
王都周辺に強い魔物がおらず安全な理由は
「王都に在る中央騎士団が周辺のダンジョンの管理を行なっているから」
という事情があるようだった。
どこの国でもダンジョン内飽和から起こるスタンピードを警戒しているが国毎にダンジョンの管理権の在り方は異なる。
ダンジョンが在る土地の領主が管理している国もあれば、騎士団が管理している国もある。
バルシュミーデ皇国は「騎士団がダンジョンを管理する」国々の筆頭だ。
ダンジョン内で人間が沢山死ぬと…
「ダンジョンが餌を得て強力な魔物を過剰に生み出すようになる」
ので、更にダンジョンの中で人間が死に続ける。
そうした負の連鎖を生み出さないように
「ある程度以上の強さが無い者はダンジョンに入らせない」
と決められているのは各国共通。
スタンピードのような惨事はダンジョン内の魔物が間引きされる事で抑制されているものの…
「ダンジョン内で肩身に狭い思いをしている弱小魔物がダンジョンから出てきて郊外で暮らすようになる」
のを防ぐ事は誰にもできなかった。
そんな訳でーー
ゴブリンやコボルト、兎系魔物、鼠系魔物、虫系魔物、スライム等は王都の城壁、各町の市壁の外側では普通にウロウロしている。
仮に強い魔物がダンジョンから出てきても上級冒険者達が討伐してくれるので魔物の脅威から守られる安全は一応は確保されているのである。
足手纏い確実な私も冒険者登録して、新人冒険者としてゴブリン狩りに行くのは良い。
死ぬ事も大怪我する事もないだろう。
問題はーー
「服や武器がない」
「服や武器を買うお金がない」
という事…。
流石に学院の制服で冒険者活動はできない。
私服も冒険者活動には向かない。
そもそも私服は王城の下級使用人用のお仕着せのお下がり。
生成りのシャツとエプロンに茶色のスカート。
それが3枚づつ。
ハッキリ言って、そんな格好の王女なんてアザール王国以外では絶対いない。
というか、公爵令嬢でもいないだろう。
本当に「不貞の子」だったならまだしも…
「実は公爵の実子でした」
と判明したのに、公爵からも公爵夫人からも何の謝罪も慰謝料もいただいていない…。
勿論、王家は何もしてくれない。
国王にとって私は異母妹でも何でも無かったので、そうした対応も仕方ないと言えば仕方ないのかも知れない。
「先王の側妃」(義母)の「姪」。
つまり他人だ。
義理の親戚という事にはなるのだろうが…
生活の面倒を見てもらえる程の縁はない。
お陰でとても金銭的に困っている…。
結局ーー
自分で良い案が出せない私は、授業と授業の合間の休憩時間に、ひと気ない空き部屋に飛び込んで思わずシーカーを呼び出した。
勿論、【泥棒の極意】を起動して、世間の皆様を時間停止させてからの呼び出しだ。
そうしないとゆっくり話す時間がない。
シーカーはシーカーでアントワーヌの遺産を盗んだ泥棒を探している最中なので私からの呼び出しは面倒に感じるだろうに…
普通に機嫌良く呼び出しに応じてくれたのが有り難い。
主人を乗り換えるつもりでいる事に少しは罪悪感があるのかも知れない。
「〈来てくれて有り難う。それで、実はね。今日の放課後に冒険者登録をして、明日魔物狩りに行く予定ができてしまったんだけど。…お金がないし、装備もないし、困ってるの?どうしたら良いと思う?〉」
と一応盗聴を警戒して前世の言葉で尋ねると
「…それはそうだろうな。お前に金が無いのは初対面で直ぐに分かった。私服が下級使用人のような服装だからな。
だが、金なら幾らでも調達する機会はあった筈だぞ?この学院は金持ちだらけだ。学院内に売店もある。
貴族は普段は自分で買い物をしないので現金を持ち歩く事はないが、学院内では話は別だ。
売店で学用品を買うのにも金がかかるし、食堂で日替わりランチ(給食)以外のものを頼むのにも金がかかる。
勿論、大金を持ち歩く者はいないだろうが銀貨一枚くらいなら誰でも普通に持ってる筈だ。お前以外の者なら」
と言われた。
「〈そうだったの?〉」
「なので【泥棒の極意】の使用をお勧めする。何度も同じ手口を使って盗むものに関してはショートカットを作成しておくのも良いだろう」
「〈ショートカット?〉」
「『他人から銀貨一枚を盗む』→『宝箱に自動で収納される』→『宝箱に収納された銀貨を取り出し自分の服のポケットへと入れる』という一連の作業を一纏めにしたファイルを作成し、それをホーム画面へと移動させてファイル名を付ければ、次からはそのアイコンをタップするだけで勝手に【泥棒の極意】が仕事をしてくれる」
「〈すごい!〉」
「因みに魔物を殺すのも【泥棒の極意】を使えば簡単だ。『魔物から心臓を盗む』→『宝箱に自動で収納される』→『宝箱に収納された心臓から魔石だけを取り出し、魔石だけを心臓のあった位置へ戻す』という一連の作業をこれまた一纏めにしておくと、誰にも怪しまれずに魔物を安全に狩れる。
魔物は心臓を盗まれても数秒は動くが、慣性で動いているだけで攻撃力は無い。そこで刃物を使い心臓を刺せば刃物で殺したように見える。
不可思議な能力を持っているとバレて社会的に困った事になる心配も要らない」
「〈【泥棒の極意】って万能なのね…〉」
「しかし必ず見せかけだけの攻撃をしておくべきだ。刃物を使って心臓を突いておく。そうしなければ心臓部分が出血している遺骸が不自然に見える」
「〈…それなら武器は槍が良いかな?槍の柄の部分で殴れるし、倒れたところを穂先で心臓を一突きするっていうやり方が自然に見えるわ〉」
「ああ。それが良いだろう」
「〈でも重いのでしょうね〉」
「重さを盗めば良い」
「〈…耐久度が落ちるんじゃない?〉」
「大丈夫だ。重さだけを盗める」
(【泥棒の極意】スゴイ…)
シーカーから詳しく話を聞く事にした。




