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サァァーッ
と砂が風に流されるような音がした後は
魔法陣があった箇所に床下収納庫の扉のようなものが現れていた。
王城にも似たような魔法陣がある区画があったので判ったが
「扉自体を不可視化する作用のある魔法陣」
といった所だろう。
王城の場合には近くに魔力供給源の魔石が嵌め込まれていて、魔石を外せば、扉が現れる仕様だった。
(この魔法陣の魔力供給源はどこにあるのかしら)
と不審に思い、辺りを見渡すが…
分からない。
(もしかして、空気中の魔素から魔力を精製して魔法陣の効果を維持する魔力供給源にしてるとか?…まさかね…)
と思いながら、扉を開けて、中を覗き込むとーー
2メートルくらいの深さの穴になっていた。
穴の壁には足を掛けて登り降りするための金属製の昇降梯子が取り付けられていた。
錆びもせずに金属光を放っているのがすごい。
(老朽化防止の魔法陣とかも組み込まれてるのかな?)
と思い、壁面を覗き込むとびっしりと魔法陣が描き込まれていた。
(すごい。後で魔法陣をメモに書き写しておこう)
老朽化防止の魔法陣なんて、絶対需要が高い。
(…それにしても、中に入ってる間に誰か来て、扉を閉められたりしたら最悪よね)
不安要素の対策にシーカーを呼び出して見張りをさせる事にした。
シーカーはいつになく機嫌が良い。
「お願いね」
と言うと
「任せておけ」
と頼もしいお返事。
安心して中へと降りた。
すると目の前には階段があり…
階段の入り口付近の壁にも魔法陣が描かれていた。
(罠とか、結界とか、そういうのじゃないでしょうね…)
と思いながら【泥棒の極意】を「気配隠蔽」アプリから「罠解除」アプリへと切り替えた。
半透明画面に
「罠はありません」
と表示されたので
「それなら『解錠』アプリを」
とアプリ切り替えしたところーー
「結界を解錠しました」
と表示された。
後は万が一の危機に備えて「気配察知」を使うに限る。
人間や魔物の気配だけでなく罠の気配や結界の気配も察知できる優れもの機能だ。
用心しながら階段を降りて行くと、シーカーが言っていたように地下室があった。
鍵も罠もなく、ドアはすんなり開けられた。
狭い部屋で真ん中にドンと置いてある宝箱が一目で目に入った。
確認したところ
「罠無し」
と出たは良いが…
「宝箱の中が空っぽ…」
しばし呆然となった…。
「そうだよね…。既に誰か盗んでても不思議じゃないんだよね…」
ガッカリだ…。
私はフラフラと地下室を出て階段を登り、階段出入り口の壁の魔法陣の図形をメモしてから昇降梯子に足を掛け、登って地上に出た。
穴を覗き込んで、老朽化防止の魔法陣と思しき図形もバッチリとメモ。
労力に見合う対価を得なければ気が済まないと思ったのだ。
「ちゃんと手に入れたか?」
と訊いてくれたシーカーには首を横に振り
「〈宝箱は空っぽだった。誰か先に盗んでたわ〉」
と事実を教えた。
「それはまた…。残念だったな」
「〈ええ。だからせめて魔法陣の図形くらい書き写しておかないと気が済まないでしょ〉」
「ああ、だからか」
「〈魔道具作りに必要な道具や魔石もないけど、いつか役に立つかも知れないしね〉」
「…役に立つと良いな」
「〈ありがとう〉」
「それじゃ、落ち込んでいる主にはサービスで対価を貰わず女子寮まで道案内してやる事にしよう」
「〈対価は要らないの?〉」
「幾らお前の髪がフサフサで長いと言っても、毎回、毛先を少しずつ頂いていくと、いつか男のような短髪になってしまうだろうからな。たまにはサービスする」
「〈やっぱりシーカーって優しいわよね〉」
「煽てても、次からはサービスはしない。…ついて来い」
シーカーがそう言うとーー
視界に透明な膜が掛かったかのような錯覚が起きた。
「?」
「透明化結界だ。これで誰にもお前の姿は見えない」
「〈すごい〉」
「因みに声も外には漏れない。私とお前が移動するに合わせて結界も動くので会話しながらでも進める」
「〈なんてハイスペックな精霊〉」
「わざわざ異世界語で話さなくても誰にも聞かれないから安心しろ」
「…私もシーカーみたいに透明化結界を作れるようになれるかしら?」
「精霊特有の魔法だから、人間のお前には無理だな。お前なら【泥棒の極意】で相手の視覚を奪う方が手っ取り早いだろ」
「視覚を奪うと、相手は盲目になってしまうでしょう?流石に他人を盲目にして周る程、私は鬼畜になれないわ」
「【泥棒の極意】で盗んだものは相手が人間に本来備わっているものなら、いつでも返せる。それこそ相手とどんなに離れていても『返却』を選択すれば一瞬で元に戻る」
「そうなの?」
「勿論、金やアイテムを返す場合には盗む時同様に射程距離に入る必要がある。だが視覚や聴覚は勿論、内臓や四肢を盗んだ場合には、どんなに離れていても『返却』で即座に戻せる」
「内臓や四肢は盗んじゃいけないものだと思いますが?」
「戦闘になった場合に、確実に相手を出し抜きたいなら内臓を盗む。特に心臓や肺を盗むのがお勧めだ」
「シーカーさん?すごい鬼畜発言してますが?!」
「アントワーヌは心臓盗みの名人だったぞ?なに。1分以内に戻せば死なない。お前も一度試してみれば良い」
「いやいやいや。気軽に試したりできないでしょう?!そういうのは」
「…不思議な事に『心臓を盗んで返す』といった攻撃をした相手は何故かアントワーヌを心から崇拝するようになっていた。
人間は潜在的に『己れの生殺与奪権を握り、生殺与奪権を行使する権威者』に対して魂レベルで平伏して尻尾を振る生き物らしい」
「それって、本当に、本当なの?…殺されそうになった人達が自分を殺しかけた相手に平伏するって…」
「勿論、アントワーヌは『自分が犯人です』と種明かしした事はない。やられた側からすれば単に『アントワーヌに敵意を持つと死にそうなくらいに急激に具合が悪くなって、敵意を引っ込めると急に何ともなかったかのように回復する』という現象を我が身で何度か体験しただけだ。
『自分の命を脅かしている相手や手口について情報が一切ない』からこそ、相手を神秘化してしまう訳だな」
「それって…」
(地球世界だと「電磁波攻撃」とか「超音波攻撃」とかでも同じような生殺与奪権の一方的行使ができていただろうし、実際にそういう手口が使われていたんじゃ…)
怖い話だ。
人間は正体不明の攻撃で脅かされる程に
「どんな時に不調になって、どんな時に調子が良くなるのか」
の体験を蓄積していく。
その分析結果が潜在的意識に刷り込まれれば刷り込まれる程、当たり前のように敵に尻尾を振り、好意すら持つようになる。
そうして敵の悪質さをどんどん認識しなくなり、疑う事すらしなくなる。
(そういう手口は相手がよっぽど懐柔不可の時か、殺しておくべき凶悪人物の時だけ使うべきよね。普段は封印しておくに限る…)
思わず溜息が漏れた…。




