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「…レティシア・バルビエは魅了魔法の適性があったのではないかと思われる。基本的に大衆相手の魅了魔法だと魔力の質が高い高位貴族よりも魔力の質が低い下位貴族の方がアドバンテージがある。
レティシアの場合、それがハマったから大衆に支持されたのだろう。
バルビエ家にはそういう不可思議な能力が備わっていたのかも知れない」
ランベールがそう言うと
「… バリエ・ボードリエとヴィヴィアンヌ嬢との血縁関係の結果が出ておりますが…」
と医務官もソッと横から口を出した。
「それで結果は?」
「ただの親戚ですね。よろしければ、バリエ・ボードリエとシャリエール公爵夫人の血縁関係も調べますが?」
「頼む」
「…陛下」
シャリエール公爵が複雑な表情をしている。
「…シャリエール公爵。聞いたところによると、君はこの魔道具を手に入れるためのランドル王国との交渉の際に『シャリエール公爵令嬢を差し上げます。妾としてでも奴隷としてでも好きに利用してください』と娘を差し出す約束をしてるようだね。
こうやって血縁関係が明らかになってみて、君の娘、シャリエール公爵令嬢はヴィヴィアンヌだと分かった。
しかしそれでいてヴィヴィアンヌには昨日まで婚約者が居た。
ヴィヴィアンヌがシゴレーヌ夫人の生んだ娘だと確信していて勝手に娘を売り飛ばしていたのなら、君はヴィヴィアンヌの婚約破棄に関して責任を持ち慰謝料を支払わなければならない。
それについてはちゃんと理解できているのだよね?」
(…なんか聞き捨てならない事を言ってる?…)
「…っ……」
公爵は何か言おうと口を開いたが、うまく声が出ないようだ。
「ヴィヴィアンヌが自分の胤の筈がない、確実に妻が浮気して孕んだ子だ、と確信していたのだろうが…事実は君が望んだのとは違った。満足したかい?」
「…申し訳ありませんでした」
シャリエール公爵が大きな身体を縮こまらせて絞り出したような声で謝罪を口にした。
(お前は先に妻に謝れ)
と言ってやりたいのは、多分この場にいる皆と同じだ。
ランベールは今度はバルシュミーデ人学生の方を向いて
「カークランド公爵令息」
と話しかけた。
「はい」
(以前シャルルが「クリストフ様」と話しかけていたけど、「カークランド公爵令息」だったのね。以前、パスカルを止めてくれた人だ…)
「君がカークランド公爵に認められた後継で、シャリエール公爵令嬢の婚約者、という事で合ってるのだよね?」
(んん?…)
「はい。私がシャリエール公爵令嬢の婚約者です」
「非常に申し訳ないが…。こういう訳で。君の婚約者はシャルリーヌからヴィヴィアンヌへと変更になったが…許してもらえるだろうか?」
「はい。喜んで!」
「陛下。結果が出ました」
「それで?」
「やはりただの親戚です」
「だろうな。…という事でーー今回の血縁関係看破魔道具の使用で、王女と公爵令嬢とが入れ替えられていた事が判明した。
よってそれに応じた対応も今後必要となる。出生届の変更など前代未聞だが、血縁関係看破魔道具の普及によって、今後もこうした出来事が明らかになる可能性はある。
赤子が取り替えられていた場合の対応を法で定めて、早急に下級官吏に至るまで対応マニュアルが行き渡るようにしたいと思う」
ランベールが国王として至極真っ当なことを述べた後
「意見は無いだろうか?」
と宰相、シャリエール公爵、次弟のジルベールの顔を見て意見を募ったが、特に何も反対意見は無いようだった。
フィリベールだけが
「法施工に関しては意見はありませんが別件でご相談があります。後でお時間をいただければと思います」
と発言した。
「分かった。…それでは本日集まってくれた皆の者、王家とシャリエール公爵家のために協力・見守りいただき有り難く思う。
特にカークランド公爵令息にはこちらの都合で一方的に婚約者の変更をお願いしたのに快く受け入れてもらえて感謝している。
血縁では無かったと判明したもののヴィヴィアンヌは私と同じ王族籍に在った。この縁を大事にしたい。
クラルヴァイン公爵、カークランド公爵、ランドル王家との今後の懇親を期待して、我が国からも正式にシャリエール公爵令嬢の婚約を祝福したいと思う」
「有り難う御座います!」
皆が複雑な表情をしている中でーー
バルシュミーデ人学生であるカークランド公爵令息だけが満面の笑みを浮かべている。
(…婚約者の変更を喜んでいる?)
「あ、発言しても宜しいでしょうか?」
私は訊いておきたい事がある。
「許す」
「私とルクレール公爵令息との婚約はどうなってるんでしょうか?私の婚約者に関して『昨日まで』と仰ったようですが」
「ああ。それに関してはお前に話すのを忘れていたな。…実は、昨日のうちにルクレール公爵令息に対しては『婚約者への態度が酷過ぎる』事を問題視してルクレール公爵令息側の有責で婚約破棄している。
当然、ルクレール公爵家への支援金も返済してもらうので、あの家は爵位も領地も手放す事になる」
「…あの人、結婚後に私を殺処分して持参金を丸々奪おうと画策していた嫌疑がありますが?」
「今日の事態に備えて早めに婚約破棄しておく必要があった。取り替えが明らかになった後での婚約破棄だと、こちらの都合での破棄という事になる。
本当は『王族殺害を目論んだ』として公開処刑にしてやった方が、民へ『王族を害する事のリスク』を知らしめる役に立ってくれたのだろうが、向こうの有責で婚約破棄するには取り替えが判明する前に行っておく必要があった」
「それなら処刑は諦めます」
「彼は今後借金取りに追い回されて学院へももう来れなくなるだろうから、学院で絡まれる心配は要らなくなるだろう。
ただ彼のあの性格だと、お前を逆恨みして襲撃する機会を伺うかも知れないので、今後は独りで町中を彷徨いたりしない方が良い」
「…もしも襲撃されたら騎士団へ届け出れば良いですか?」
「まだ彼の家に爵位がある時点で襲撃されたら騎士団へ届け出てもらうが、平民落ちした後なら城下町の警備兵団へ届け出てもらう事になる。
騎士団が動くのは罪人が貴族である場合だ。平民の犯罪に対する逮捕・取り調べは警備兵団の担当だ」
「分かりました。有り難うございます」
「お前の婚約者が代わった事に関しては、何か言っておく事はないか?お前の言い分が通るとは保証できないが、不満があるなら一応検討はする」
「不満はないです。パスカルに比べたら、どんな人でも100倍は素敵です。今度はちゃんとした人を当てがってもらえて嬉しいです」
「そうか…」
「では失礼します」
本当に嬉しい。
パスカルが平民落ちしてくれるのが一番のご褒美だ。




