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結果を告げた医務官自身
「…まさかここにきて急に故障?」
と首を捻った。
それくらい、私の容姿はシャリエール公爵夫妻のどちらにも似ていない。
シャリエール公爵はアザール人には珍しい白金髪。
瞳の色は赤紫。
体格的にガッシリしていて長身。
バルシュミーデ人っぽい姿。
彼の近くにいるバルシュミーデ人学生と
「実は親戚です」
と言われて納得できるくらいバルシュミーデ風の容貌だ。
「…それでは、故障かどうか確かめるためにも、シャリエール公爵とシャリエール公爵令息との血縁関係を調べます」
と言われて誰もが緊張して待った…。
結果ーー
「間違いなく親子です」
との事。
「「「「「「「「………」」」」」」」」
誰もが納得いかない表情だ。
魔道具は壊れていない。
それならと
「シャリエール公爵令息とヴィヴィアンヌ嬢との血縁関係はーー」
と調べられると
「兄妹です。ただし両親共に同じ血の濃さではない…」
という結果。
医務官自身も納得はいっていないようだが…
結果をそのまま述べている。
皆が物言いたげにシャリエール公爵を見るしかない。
内心で皆
(お前の夫人が産んだ子はお前が胤付けしてたんじゃないか。人騒がせな男だな)
と呆れた。
まぁ、全く似てないのだから…
シャリエール公爵の気持ちも判らないでもないが。
そんな空気の中ーー
ランベールがシレッと
「実はシゴレーヌ夫人の(シャリエール公爵夫人の)浮気相手の疑いをかけられた当時の公爵家侍医バリエ・ボードリエの血判も入手している」
と言いだして、血判書をヒラヒラ目の前で振ったものだから…
皆の目がそこに釘付けになった。
そしてランベールがシャリエール公爵夫人へ尋ねる。
「バリエ・ボードリエは夫人の従兄弟に当たるから、その縁で公爵家に仕えていたのだよね?」
夫人は顔色が悪いまま
「…ええ。その通りです」
と答えた…。
「そういう訳で、次はバリエ・ボードリエとヴィヴィアンヌの血縁関係を調べてくれ」
とランベールが笑顔で指示すると
医務官は神妙な顔で
「分かりました」
と答えた。
医務官達が作業している間ーー
ランベールが更に公爵夫人へ質問する。
「バリエ・ボードリエの容姿は、貴女と彼に共通する祖先、平民だった母方の祖母に似ている、という事で間違いないね?」
「…はい」
「確か貴女とロズリーヌ妃の母君の実家はボードリエ伯爵家。歴史の浅い新興貴族家」
「そうです。ボードリエ伯爵家自体が元は豪商が爵位を買って成り上がった一族ですから、血筋云々を然程気にしない家風だった事もあり、平民だった祖母を娶りました。
祖母は大層美人だったらしいので祖父が惚れ込んだようです。
祖母当人は『改易された元子爵家の血筋だ』と自称していたとか」
「貴族籍上の当時の伯爵夫人の名と、当時の夜会などの出席名簿に記載された名とが一致していない事の理由は知っているかい」
「当時のボードリエ伯爵夫人は二人いました。相手の方次第では平民の血を嫌悪する場合もあるので、お金に困っていた男爵令嬢だったナディーヌ様をお金で買って家に置いていたそうです。
相手次第で対応する夫人を使い分けていたのだと聞きました」
「そこまでの事は私の方でも調べれば分かった。夫人二人を使い分けるなど非常識ではあるが、当人同士の承諾書があるので法に触れる事もない。
こちらとしては平民だったアルレット夫人の肖像画が欲しかったんだが…どんなに探しても肖像画のようなものが残っていないので、彼女の容姿を正確に知る事はできなかった」
「…私が生まれる少し前に亡くなっているので私も母方の祖母の容姿は知りません。母や伯父が『バリエはお母様に似ている』と言ってたので、アルレットお祖母様は美しい方だったのだろうな、とは思っていました」
「アルレット・バルビエ。随分前に改易されているバルビエ子爵家の血筋だね。アルレット当人の肖像画は何処を探しても出ないので、仕方なく彼女の姉に当たる女性の肖像画を取り寄せた」
「アルレットお祖母様の姉、ですか…」
「見てみるかい?ランドル王国で歌姫として成功して国立劇場の支配人にまで成り上がっていた女性だ。
とても美しい人だよ。ヴィヴィアンヌに似ているし、確かにバリエにも似ている。隔世遺伝というのは恐ろしいね。
血縁関係看破魔道具のような便利魔道具が普及しない事には、隔世遺伝による不貞疑惑は今後も起こり続けるのだろうし。
本来なら子供が美しく生まれたら喜ぶべきところだが、不貞の疑いを晴らす術がない環境では、深刻な悩みの種になる事もある。
疑われれば何を言っても信じてもらえない。潔白を証明もできない。貴女も随分辛かっただろうね」
ランベールがそう言いながら
シャリエール夫人の肩を軽く叩くとーー
シャリエール公爵夫人は感極まったかのように肩を震わせて涙を溢れさせた。
(可哀想に…)
ランベールがシャリエール公爵夫人の肩に手を置いたまま、医務官の1人に目配せして合図すると…
隣室から布の被せられた絵が運ばれてきた。
「レティシア・バルビエ。当時のランドル王国大貴族クレーバーン公爵の愛人だったという話だ。
レティシアにはアルレットの他にオレリアという双子の妹もいたらしく、オレリアもクレーバーン公爵との間に娘を作っている」
バサッと掛け布が外されて肖像画が明らかになる。
確かに私に似てる気がする。
同じ系統の顔だ。
ただ髪や眼の色は違う。
金褐色の髪に琥珀色の瞳。
アザール人ともランドル人とも区別がつかない色彩。
(この肖像画の人がシャリエール公爵夫人の祖母のアルレット夫人に似てるのなら、確かに私の容姿は隔世遺伝でしょうね…)
容姿はシャリエール公爵夫人側の隔世遺伝で、青い眼はシャリエール公爵側の隔世遺伝。
明らかになってみると、私は本来なら何の後ろ暗いところもない公爵令嬢だったのだ…。




