20:間話
【sideクリストフ・クラルヴァイン】
王城に登城する事になった。
シャリエール公爵から呼び出されたのだ。
「カークランド公爵令息に是非婚約者を紹介したい」
と。
しかし何故、シャリエール公爵邸に招待して紹介するのではなく王城での紹介になるのかが謎だった。
学院内でシャルリーヌ・シャリエール嬢を見かけた事はある。
「あの子がシャリエール公爵令嬢らしいぞ」
と幼馴染みのエールリヒから知らされて見てみたのだが。
あくまでも見かけただけ。
挨拶されたりとかはない。
(俺が婚約者だと知らないのかも知れない)
Sクラスの俺達の相手はAクラスの高位貴族令息らがしてくれている。
BクラスのシャルリーヌはSクラスに顔を出す事はない。
だが時折、廊下でシャルリーヌがシャルル・ラングランと話しているのは見かけた。
唇を読んで会話を探ると
「外国人の接待なんて本来なら王族がこなすべき公務だわ。王女は何故なにもしないの?」
と言っているのが判り
(まるで俺達バルシュミーデ人が厄介者みたいだな)
と思ったものだ。
(俺が婚約者だと判ると、露骨に嫌そうな顔をしそうだ…)
と予想がつき
(アレが俺の婚約者なのか…)
と今更ながら萎えた。
元々、婚約者の公爵令嬢が性格の良い女だという期待はしていなかったので、そこまでのショックは無かった。
(そう言えば、Aクラスに王女が居るんだったな)
と、そちらの方に興味が湧いたくらいだ。
ヴィヴィアンヌ王女は入学当初学舎の入り口で歳上の男女に絡まれていた。
ヴィヴィアンヌ王女に怒鳴りつける男に
「女子に対して大声で威嚇するべきじゃない」
と意見した事があった。
バルシュミーデ人はアザール王国で特別待遇なので、まさか文句を言われるとは思っていなかったが、その男は
「外国人のくせに」
だのと言ったので、シャルルにその男の特徴と言動について話したら
「ルクレール公爵令息でしょうね」
との事だった。
「この国は公爵令息が女子を怒鳴りつけるのを黙認・許容する類の文化なのか?」
と訊くと
「まさか」
と苦笑された。
その時に
「怒鳴りつけられていた女子がヴィヴィアンヌ王女」
「ルクレール公爵令息はヴィヴィアンヌ王女の婚約者」
だと知った。
「この国では令息が婚約者を怒鳴りつけるのが許されるのか?」
「いえ、許されません」
「なら何故、誰も王女を護らないんだ?」
「…ヴィヴィアンヌ王女殿下は特殊な立場なので、王族用予算も組まれておらず、人員が割かれていません。
何より彼女を不憫に思い肩入れした使用人は発覚次第先王陛下によって解雇されていましたので、その噂を耳にした事のある者達は王女に近付きすらしません」
「先王は崩御して、もう何処にも居ない筈だが?」
「今だに先代の頃のイメージが皆の中に残っているのだと思います」
「君は王女を助けないのか?」
「そうした指示を受けていません。現王陛下の意向が先代の意思を引き継いだものである可能性もあるため、手出しはできません」
「面倒な国だな」
「そうですね…」
ヴィヴィアンヌ王女は綺麗な顔立ちの少女だ。
生意気そうな感じもしない、薄幸そうな美少女。
よくもまぁ、彼女が虐げられているのを見て、アザール人達は平気で見捨てる事ができるものだと思う。
(俺の婚約者がヴィヴィアンヌ王女なら良かったのに…)
と思う。
それにしても
「浮気男が恋人の前で婚約者を怒鳴りつける」
のは余りにもみっともない。
しかも怒鳴りつけられている令嬢は浮気男の恋人よりも遥かに美しい美少女なのだ。
美的感覚が狂っているとしか思えない。
(アザール人という人種は、俺には理解し難いな…)
俺も一応文官志望なので
「脳筋人種」
「金毛ゴリラ」
「蛮族」
だのと陰口を叩かれるバルシュミーデ人の割には、宮廷内の倒錯心理に関して多少は詳しいつもりだ。
バルシュミーデにおいて
「浮気男が恋人の前で婚約者を怒鳴りつける」
ような事態は
「浮気男が恋人に忠誠を誓う」
行為であり
「婚約者令嬢の社会的地位が自分よりも低い」
「恋人の方が婚約者令嬢よりも美しい」
場合に稀に起こる茶番だ。
要は
「この女はこういう位置付けだ」
と自他共に知らしめて婚約者令嬢を去勢する手口。
心理的マウンティングである。
(大方、ヴィヴィアンヌ王女が入学してくる前から示し合わせていて、ヴィヴィアンヌ王女の美貌を知りもしなかったんだろうなぁ)
と予想がつく。
恋人に威勢の良いことを言った手前引っ込みが付かなくなって、恋人よりも遥かに美しい王女を毛嫌いしてるフリをせざるを得なくなったとか…
そういう事なのだろう。
(ルクレール公爵令息、パスカル。アホ過ぎる…)
同情はしない。
俺の婚約者は生意気そうなシャルリーヌなのだ。
(婚約者破棄になってくれないものか…)
と心から願っていた。
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王城に着くと、控え室のような所で待たされる事になった。
「星辰の間で行われる審議へのご出席ですよね?」
と訊かれたが
「シャリエール公爵に呼ばれて来ただけだ」
としか答えようがない。
「少々お待ちください」
と言われて30分くらい経った頃にやっと『星辰の間』とかいう部屋へ通された。
(公爵の執務室とかじゃないんだな…)
入室するとシャリエール公爵だけでなくシャリエール公爵夫人とシャリエール公爵令息、そしてシャルリーヌが居た。
宰相のラングラン侯爵と、その甥のシャルル・ラングラン公爵令息も。
白い服の文官達もズラリと控えている。
俺が入室するのを待っていたかのように、俺が入って来た扉とは別の扉からヴィヴィアンヌ王女と王子達、国王・王太后が入室してきた。
そしてすかさず宰相が
「本日はシャリエール公爵のたっての願いで血縁関係看破魔道具の使用協力とその見守りを関係者の皆様にお願いする事になりました」
と宣うた。
(意味が分からない…)
俺は首を傾げた…。




