19
リュカの顔をマジマジと見つめながら
「協力してくれるつもりなんだ?」
と尋ねると
「勿論。ルクレール公爵家なんて泥舟ですからね。ヴィヴィアンヌ様には相応しくありません。
それに、『殺処分』って物騒な推理も当たってる可能性がありますからね」
とリュカが聞き捨てならない事を言った。
「あの男、本当に私を殺処分するつもりなんだ…」
(あり得る…)
「この国の婚姻制度は色々問題があるんです。貴族の結婚の許可は元は国王が出すしきたりだったのが、20年ほど前から教会側の強固な主張に押されて、教会側に委ねられるようになってるんです。
つまり、領地の教会と癒着する領主が実質結婚の許可を出せる訳ですよ。しかし夫婦の財産に関する取り決めも国内で統一されていない」
「ルクレール公爵領はその辺、どうなってるの?」
「ヴィヴィアンヌ様との婚約が整ってから急に『妻の財産は夫婦共有のものとする』と変更されましたね。持参金を丸々奪い取る気でいるんですね」
「…やっぱり私、殺されるんだ…」
(またも「夫」に…)
「このところヴィヴィアンヌ様はルクレール公爵令息を上手く躱しているようですが、入学して1週間は毎日のように怒鳴られていましたよね?
本来なら『不敬だ』と誰かが国王陛下に王威毀損罪を訴え出るべきなんですが…何如せん、国王陛下がヴィヴィアンヌ様をどういう位置付けに置いているのか未だ誰も読みきれていない。
先王陛下はヴィヴィアンヌ様が使用人如きに侮られているのを知っても怒るどころかお喜びになってた方ですからね。
現国王陛下が先王陛下と同様の考え方なのか違うのか分からない事には誰も手出しできないんです」
「ランベールお兄様次第って事ね…。だとしたら少しは私にも活路はありそうよね?何せ私、Aクラスだし、成績も学年9位だし」
「ええ。『利用価値がある』と認められるだけの結果を出してると思いますよ。フィリベール様も国王陛下へヴィヴィアンヌ様が実は優秀だったと報告してくださってるし、『ルクレール公爵家なんぞに下賜するのは勿体無い』と判断される可能性は高いです」
「…試験を頑張っておいて良かったぁ〜…」
「ルクレール公爵令息との婚約はいずれ無くなるでしょうが、『せっかく婚約を結ばせてやったのに王女を粗雑に扱ったから婚約解消する』のと『持参金目当てに結婚した後は殺害を目論んでいたから婚約破棄する』のとでは大違いですよね」
「是非とも王族殺害計画を目論んだ罪で死刑になって欲しい…」
「どんな処罰になるのかは判りませんが、証拠を掴めばルクレール公爵令息は確実に破滅させられます」
「リュカはパスカルが私を殺す気でいる証拠探しを手伝ってくれるの?」
「…難しいですが一応試してはみます。しかし普通に探しても証拠は出ないでしょう。
ルクレール公爵家は貧乏過ぎて便利魔道具に関する知識が皆無ですので、それが隙にはなるでしょうね。
アザール王家の影は人の発言を録音・録画して再生する魔道具を持たされてます。
ルクレール公爵令息に張り付いていたら、迂闊な発言をしてくれる決定的瞬間を録画できる可能性はゼロではないです」
「…動画撮れるカメラとか有るんだ?」
「?カメラって?…」
「いえ、こっちの話です」
ついつい地球世界の感覚で向こうの名称が口を突いたが、同じ呼び名の筈がない。
「因みに録音・録画して再生する魔道具は何ていう名前の魔道具なの?」
「『再現魔道具』ですね。何の変哲もなく、そのままの呼び名です」
コルダーー腸弦ーーは「心を震わせる」という意味がある。
リ・コルダは「再び心を震わせる」の意味。
道具等の命名に使われると「記録の再現」を意味する事になる。
「なるほど」
「…そういう魔道具って、私ももらえないかしら?」
「無理です。二百数十年がかりでランドル王国の古代遺産庫から掠め取ってきた魔道具の一種です。
数に限りがありますので主に王族直属の影だけが持たされてます」
「そう言えば昔はランドル王国は魔道王国だったのよね?当時の魔道具技術を未だ追い越せずにいる程の技術大国だったのに、革命で滅びるなんて…」
「歴史では『とんでもない悪政を敷いてたから』って習いますね」
「…一体、どんな悪政だったのか具体的な事が伝わっていないのが残念ね…」
「そうですね。過去の悲劇に『反面教師』として役立ってもらうには正確な歴史観測が必要なんですが、それを行う事がすこぶる難しい。仕方ないと言えば仕方ないです」
「…ともかくパスカルの事、期待してるわ」
「…期待はしないでください」
リュカは自信なさげな事を言いながらも嬉しそうだ。
******************
シーカーにも
「そんなわけで、もしかしたらパスカルとの婚約は無くなってくれる可能性があるの」
と報告した。
「良かったな」
と素直に喜んでくれるので
(シーカーってなんのかんの言って、少しは私を友達だと思ってくれてるのかもね)
と思った。
「…ところでお前、国王がお前の価値を認めてパスカルとの婚約を無かった事にしてくれたとしても、今度は別の男と婚約させられるって事はちゃんと分かってるんだよな?」
シーカーが心配そうに尋ねる。
「どんな人でもパスカルよりはマシだと思うけど?」
「…どうだろうな?世の中、お前が思ってるよりずっとクズが多いぞ?」
まぁ、前世の夫より酷い男も世の中にはいただろうが、普通の人達も大勢居た筈だ。
私だけが何度も何度も地雷物件をなすりつけられる対人運マイナス人生が続く筈がない(と思いたい)。
(どんな人が婚約者になるんだろう…)
と期待に胸を膨らませていた。
そんな希望を神様が叶えてくれたのかーー
翌日の夕方には
「明日は王城に登城するように」
と指示された宰相からの命令書が早速自室に届けられていた。
(いよいよパスカルとの婚約を見直してもらえるのかしら)
とウキウキしながら早目にベッドに入り、眠れない夜を過ごした。
明けて翌日。
休日だというのに制服を着込んで、歩いて王城へ向かった。
(悪い人に絡まれたら怖いから)
と思い、ちゃんと【泥棒の極意】太陽と月マークのアプリ「気配察知と気配隠蔽」を起動させておく。
気配隠蔽は誰にも絡まれずに済むので本当に助かる。




