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リュカは度々図書室の隠し部屋まで様子見に来るようになった。
最初は
(安否確認なんて面倒よね。する方もされる方も)
としか思ってなかった。
しかし、リュカは人の心の機微に聡いらしく…
「どうぞ。今日の献上品です」
と言って菓子を持ってきてくれるので、ついつい笑顔になってしまう。
(食べ物で懐柔されるなんて我ながら現金よね)
学舎の食堂や寮の食堂で出される給食はメニューも量も決まっていて、融通が効かない。
甘い物など出ない。
早速、頂こうと手を伸ばすと
「毒味しますから」
と言って、私がつかんだクッキーをリュカが一口齧った。
「………」
「毒味は目の前でしないと意味がないから、仕方ないよね」
と笑顔で言われて、納得はする。
(わざと、なのかな?この人…。結局、いつもこうやって間接キスする羽目になってるし…)
リュカが齧った食べかけを食べて
「美味しい…」
と感想を言うと
「愛情込めて手作りしてますから」
とシレッと宣う。
「手作りって…護衛にそんな暇無いでしょうに…」
「暇は自分で作るものなんですよ」
「リュカみたいな不真面目な護衛だと、フィリベールお兄様が可哀想」
「納得してくれてるし、良いんですよ。ささやかな自由くらい楽しんでも」
「もしかして、お菓子作りがリュカの楽しみなの?」
「そうですよ。お菓子に限らず料理は得意です。何しろアザール王国の影は万能ですから。どんな職種の仕事にも就けるように幼少期から訓練を受けてるんです」
「鍛治師とか職人の真似事は流石にできないのよね?」
「いえ、普通にできますよ?金属の加工だけじゃなく、革の加工も、石の加工もできます。と言ってもベテラン同様にまではできません。手広く手に職つけてるんで、せいぜいどれも『やっと一人前』程度の腕前です」
「すごいわ。…私も色々やってみたかったな」
「女性は器用貧乏になる必要はないと思います」
「でも私が今までの人生でしてきた事って裁縫と読書くらいよ?」
「良いと思いますよ。多くの貴族女性が他人を陥れるような悪口を触れ回る以外の事をしてない世の中です。
王女様の趣味は上品で素晴らしい。それにこういう図書室に通じる隠し部屋にいつも籠ってるあたり、本当に読書が好きなんだなって判ります」
「…読書は好きよ。読書には人間の言葉があって、読んでいると、友達の言葉に耳を傾けているかのような錯覚を感じられるの。
それでいて批判の矛先が読者に向かってくる事もない。安心して触れられるコミュニケーションの一種だと思うわ」
「…そう言えば、1年のAクラスで王女様、孤立してるんですね?」
「…面と向かってそう言われると、流石に傷つくんだけど?」
「スミマセン。つい…」
「ねぇ。リュカには友達とか居るの?影って護衛対象の王族の友人とか相談役とかも兼ねてたりする訳?」
「そうですねぇ〜。ある意味でフィリベール王子もフィリベール王子の影達も皆親友みたいなものかも知れませんね。何せ『プライベートがない』んですから」
「相手の全てを把握しておく訳ね?…それってお互いに?」
「ええ。お互いに。つまり俺は俺だけでなく王子や仲間の人生も一緒に把握しながら生きてるんです。大変ですよ。この瞬間にも王子や仲間が『今何してる』かを予想しながら生活してるんですから」
「それは何て言うか…。『友達』ってレベルの結びつきではないわね」
「ええ。ですから俺の友達は今のところヴィヴィアンヌ王女だけですかね?」
「…私、リュカの友達枠に入れてもらえてたのね?」
「はい。友達じゃなきゃ、こうやって食べ物を貢いだりしませんよ」
「有り難う」
(善い人だなぁ…)
「王女様の方こそ、俺のこと、ちゃんと友達だと思ってくれてるんですか?」
「ええ。唯一の人間の友達だと思ってるわ」
「『人間の』友達…ね。…まるで人間以外の存在が友達みたいな言い方してますね」
「正確には、『まだ友達だと認めてくれない人外の存在』なら居るわ」
「王女様は実は幽霊とか精霊とか『見える人』だったんですか?」
「…実は『魔眼』と呼ばれる眼は持ってて、魔力が見えるの。だから魔力体を認識できるわ。流石に体内魔力までは見えないけど、漏れ出てくる魔力の質でリュカが王族並みの魔力を持ってる事は分かるの」
「…実は影って『王族の庶子だ』って知ってて言ってます?」
「…それも王城の使用人達が噂話で話してた情報だけど、事実だったの?」
「ええ、まぁ」
「それだと、リュカは『リュカお兄様』?」
「どうかなぁ…。俺はアンタの事、血の繋がりのある妹とかって全然思えない」
「…リュカも、私のこと『不貞の子』だって思ってるんだ?」
「…そう、だね。ごめんね?…でもそのお陰で『恋人になりたいと思う前に先ずは友達になるべきだ』と思って、こうして尽くしてる。
『国王の子じゃない』ってのも、全部が全部悪いことばかりじゃないだろ?」
「…お母様の不倫相手って誰?王城で働く人達って生粋のアザール人ばかりよね?下働きの下僕にしても皆、赤みがかった茶色の眼だったし、青い眼の子供が生まれる余地は無かったと思うんだけど…もしかして私が生まれる前までは普通に外国人も王城で働いてたの?」
「いや、それはない」
「だよね。お父様は元より外国人嫌いだったって話だし…」
「外国人が嫌いというより、ランドル人が嫌いって感じでしたよ。あの方は」
「ランドル人が?…近代史にも出てこないけど、実は我が国はランドル人から酷い事をされてきたとか?何か理由があるの?」
「酷いことをされたのではなく、酷いことをしたから報復を恐れて嫌悪していた、という感じでしょうね」
「…アザール王国って一体何をしてたの?」
「色々あるけれど、一番深刻な禍根を残してる問題はアザール系ランドル人達がアザール人としてのアイデンティティのまま『ランドル人だ』と自称して違法な奴隷調達・奴隷売買・奴隷を使った残虐極まる儀式殺人を行なっていたという事かな?」
「…それは確かに報復が怖い罪業だわ」
「そうした事情をバルシュミーデ人によってランドル王国内は勿論、南方連合国でまで暴露されて、今の現状があるんです」
「近隣諸国から憎悪されまくってる訳ね」
「現国王は先代よりも現実がしっかり見えてる人だからバルシュミーデ皇国から皇女を正妃に迎える準備をなさってる」
「…今後はアザール王国もランドル王国のようになっていくのかしら。王族・貴族が皆、バルシュミーデ人を配偶者に選んでバルシュミーデ人の血を引かない貴族は貴族にあらずって感じに…」
「…ランドル王国の場合は戦いに負けて、王族籍に名を連ねていた者達は全員処刑されてましたね。アザール王国の場合は王族・高位貴族は自発的な謙りによって血を流さず属国化していくつもりのようです」
「そう言えば、婚約者が未だ決まってない人って多いわね。それってやっぱりバルシュミーデ皇国の貴族令嬢を婚約者にと思って慎重に相手を調査してるからとか?」
「ええ。そういう感じです」
「ヴィルジールお兄様は貧乏伯爵家への婿入りが決まってるから女生徒達が婚約者候補に入りたいと狙ってる様子が無いけれど、フィリベールお兄様はスゴイ人気よね?」
「ランベール国王陛下もジルベール王弟殿下もバルシュミーデ皇国から妃を迎えますからね。
フィリベール殿下は学院卒業後は王家直轄地から一部譲渡され伯爵位を賜って臣籍へくだられる事になってますから、新興伯爵家の夫人の地位が欲しい令嬢達からは狙い目なんですよ。イケメンだし」
「同じ顔なのにイケメンって言っちゃうんだ?」
「事実ですから」
「…貴族家の令嬢って、結婚後もそんなにも貴族で居たいのかしら?」
「ヴィヴィアンヌ王女は公爵夫人になる予定ですよね?」
「ルクレール公爵令息はとんだ地雷物件よ…。持参金目当てに結婚はするつもりでしょうけど、結婚後すぐにでも私を殺処分する気満々だわ。
ルクレール公爵家自体、いつ改易されてもおかしくない家だし。パスカルの有責で婚約破棄にならないものかしら」
私が自分の心情を正直に話すと
リュカは含み笑いをしながら
「…それに関してはお役に立てるかも」
と言ってくれた。




