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(【泥棒の極意】の取り扱い説明書のような情報は無いのかしら…)
どのアイコンをタップしたら望みの物を盗めるのか分からない時は
「本マークのアイコンをタップして望みを口に出して言うなりキーボードで文章化するなりすれば良い」
のは分かった。
だけどそれは使い方の説明にはならない。
(やっぱりこういう場合には【シーカー】を呼び出すのが一番適切よね?)
「〈我の求めに応じよ【シーカー】〉」
と呼び出しの呪文を唱えると、シーカーが黒猫の姿で現れた。
「我が主は何がお困りかな?」
と気取った様子で尋ねてくれたので
「やっぱりシーカーは時間停止の対象外なのね。すごいわ」
と先ずは褒めた。
「私は闇属性の精霊だから時間停止の対象外となるが、他の属性の精霊なら普通に時間停止に巻き込まれて呼び出しには応じられない」
「闇属性ってすごいのね」
「ちゃんと分かっていれば良い。…それで?何かを尋ねたくて呼び出したのか?」
「ええ。【泥棒の極意】の使い方を教えて欲しいの」
「…基本的に、文字がタブレットに画面表示されて使用する能力の場合、どこかに初心者案内情報が載ってる筈だぞ」
「それって、どこをどう操作したら出てくるか、分かる?」
「…やっぱり本マークのアプリケーションを開いて、どこかにクエスチョンマークが出てるなら、それを押してみるとかじゃないのか?」
「…本マークのアプリケーションを開いても、クエスチョンマークとか出てないし、ただマイクマークとキーボードマークが出てくるだけよ」
「ならキーボードで『【泥棒の極意】の取り扱い説明書を盗みたい』と打ってみろ」
「打ったわよ」
「それで確定っとーーホラ、反応があった。宝箱アイコンの中の盗品リストに何か加わっただろ?」
「ホントだ…」
「『アントワーヌ・ル・テリエ・アザールの【泥棒の極意】取り扱い説明書』とあるリストの名前部分を自分の名前に書き換えてみろ」
「分かったわ」
言われた通りにするとーー
処理ゲージが出てきて、やはり目盛りが増えていく。
それでいて私自身には何の内的変化もない。
(私の脳に干渉して知識を与えてくれるという事はないのね?)
と、自分自身の変化の無さに少しホッとした。
目盛りが100%になってゲージが消え、ホーム画面に戻るとアイコンが一つ増えていた。
白い紙に何か書かれているテキストマークのアイコンだ。
「それを開いてみろ」
と言われてそうすると
ズバリ「【泥棒の極意】取り扱い説明書」と出た。
「ありがとう!シーカー!」
なんだかシーカーは初めてできた友達のようだ。
(人間なんかと友になれるか、と怒られそうだけど)
早速、【泥棒の極意】取り扱い説明書を読んでいくと
硬貨マークのアイコンは「現金」
網マークのアイコンは「罠」
破れた網マークのアイコンは「罠解除」
錠前マークのアイコンは「施錠」
開いた錠前マークのアイコンは「解錠」
宝箱マークのアイコンは「保管庫」
太陽と月マークのアイコンは「気配察知と気配隠蔽」
開いた本マークのアイコンは「ヘルプ機能とメモ」
だという事が分かった。
九つ目のアイコンであるテキストマークは言わずと知れた取り扱い説明書。
硬貨アイコンのアプリは
「自分の手持ちの金が表示されるのみならず、周囲にいる者達の手持ちの金まで表示される」
というのだから、本当に泥棒のための能力なのだなぁと実感。
「近くにお金が落ちてたり隠されている場合にも反応する」
らしいので早速起動してみたところ、マップ表示が出て点滅マークが出た。
隠し部屋を出た図書室の読書スペースの椅子の下…。
覗き込んでみると銅貨が落ちていた。
(嬉しい。お金だ…)
拾っただけとはいえ、お金をゲットできたのは嬉しい。
「保管庫」にお金や盗品を保管しておけるのも便利。
ポケットからお金を出すフリをして「保管庫」のお金をポケットに入れた掌に出す事もできるようだ。
あと、ロッカーに教科書や筆記用具等の私物を入れておくにしても鍵が単純な作りのものなので
「誰かが盗もうと思ったら簡単に盗まれてしまうんじゃないの?」
と内心で不安があった。
「施錠」「解錠」アプリは今後フル活用していくつもりだ。
あと、気配察知と気配隠蔽は絶対役に立つ。
特に気配察知には対象指定機能がある。
つまりパスカルとシュザンヌを指定しておけば遭遇を回避する難易度が格段に下がる。
(これだけの便利機能を使って代償無しだなんて、小精霊って、本当に無欲なのねぇ〜)
と本気で感心。
シーカーの知恵が無ければ宝の持ち腐れになっていた可能性が高い。
「シーカー、ありがとう」
(やっぱりシーカーと友達になりたいな)
「お安いご用だ」
なかなか男前の黒猫である。
私は早速、気配隠蔽を使う事にした。
******************
「シャルリーヌとシャルルとの間にあった親しみを私とシーカーに使って、私とシーカーが友達になるとか、そういう事はできないのかしら?」
一応シーカーに尋ねてみたところ
「精霊と人間とでは親しみを感じるツボが違うからな。お前が一方的に私に親しみを感じるだけになってしまうんじゃないのか?」
と言われた。
「それは嫌だ…。友情の片想いなんて、本当に不毛だわ」
「それが分かってるなら、ちゃんと人間と友達になれ」
常に正論を言う黒猫だ。
可愛い。
「はい、はい」
見た目が可愛いと、何を言っても可愛く感じられるという事なのか、一方通行でも私独り勝手にシーカーと親しいのだと思っておく事にしよう。
「…お前、人間の友達を作る気がないのなら、アントワーヌが遺した魔道具を回収してみるつもりはないか?」
「アントワーヌというと、【泥棒の極意】の元々の持ち主ね?アントワーヌ・ル・テリエ。初代国王と同じ名前よね…」
(初代国王の遺産が学院七不思議の魔道具?)
「ちゃんと歴史くらい勉強してるんだな」
「ホラ、私、友達いなかったから、暇だったでしょ?」
「一応、王女なんだよな?厳しい労働が科せられたりはしていない。だから学ぶ暇は充分有ったと?」
「ええ。家庭教師にとっては私はヴィルジールお兄様のオマケだったみたいだし、誰も相手にしてくれなかったから話し相手すらいなかったの」
「ならやっぱり人間の友達を探せ」
「…友達になってくれそうな人もいないし、シーカーのお勧め通り、アントワーヌ・ル・テリエの遺した魔道具とやらを探してみようかな…」
「学院七不思議ってのは知ってるんだよな?」
「あるらしいわね。そういうのが」
「7つ全部知っているか?」
「まさか。他人の会話盗み聞きしてても会話の方向性をこっちはコントロールできないでしょ?都合良く知りたい事を話してはくれないわよ」
「なら、7つのうちのどれを知っている?」
「どこかの隠し部屋にあるっていう【真実の鏡】とか【聖女の聖杯】くらいかな?」
「そうか…。いいか、よく聞け。と、その前に【泥棒の極意】のメモ機能を立ち上げろ。…そう、マイク機能で自動メモを取らせても良い」
「準備できました」
「…では、王立魔法学院高等部学舎に伝わる学院七不思議について教える。端的にいうなら、七不思議は学院敷地内の隠し部屋に隠された七つの道具の効果が歪曲されて広まったものだ。
【真実の鏡】は投影魔法の魔道具。【聖女の聖杯】は魔除けの聖水を生み出す魔道具。【隠者のマント】は透明マント。【夢見の香炉】は予知魔法の魔道具。【呪物の羅針盤】は身近な人間や物が呪われていないか確かめられる呪物索敵魔道具。【呪物改竄帖】は呪いを書き換える巻物。【封印の巻物】は名前の通り精霊を封印できる巻物。つまりお前が先日開いた巻物だな」
「………という事は、シーカーは七不思議の一つ?」
「そうだ」
「七不思議の一つである精霊が何故、他の七不思議道具を揃えるよう勧めるの?」
「やっぱり『アントワーヌの遺言だから』…というのもあるのか?魔道具の真価は七つ揃って発揮されると」
「そうなの?」
「とにかく七不思議の道具を安全に手っ取り早く入手する為には私を封印から解放するのが正解だと言う事だ」
「初代国王陛下って何を考えてたんでしょうね?」
「それを私に訊かれてもな?」
「…ツッコミ所はあるけど、迷う必要はないわね。私にシーカーを与えてくれた初代国王が七不思議道具を揃えるように遺言を残していたのなら、それに従うまでだわ」
「よく言ってくれた」
「それで?私が七不思議道具を揃えたら何か特典でもあるの?シーカーに友達になってもらえるとか?」
「それはない」
「…でしょうね。とりあえず頑張ります」
そう言い放った瞬間ーー
孤独なままなのは変わらないのに
何故かとても高揚感を感じた。




