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走馬灯のように前世の記憶が蘇った代わりに、今世の記憶は代わりに抜け落ちたのか?
と言えば、そんな事はない。
しっかり今世の記憶もある。
しかし今世の記憶もちゃんとあるが故に…
「これまでの王女人生」
を振り返ると本気で残念だ…。
入学当日に因縁をつけられたのを皮切りに、その後も翌日・翌々日と…
三日目の今日も、私の婚約者のパスカル・ドニ・ルクレールがブチ切れて私を怒鳴りつけてきた。
(私、この国の王女なのに…)
私は王立魔法学院の高等部に入学した一年生。
パスカルは二学年歳上で三年生。
シュザンヌもパスカルと同じ三年生。
(こんなのが17歳か…)
シュザンヌとパスカルの幼稚で身勝手な人間性に辟易する。
(こんなクズ男、消えて無くなってくれないかなぁ…)
ちょっと言い返しただけで
「なにが『婚約者のいる身なのですから誤解を招くような異性との接触は控えてください』だ!
俺は貴様のような女が俺の婚約者だなどと認めた覚えはないぞ!
王族の血を引く証も持たぬ『不貞の子』の分際で、よくも自分自身を恥じずに自殺もせずにいられるな。
その上、何の権利があると言うのか、俺の友人を侮辱するとは烏滸がましいにもほどがある!」
と唾を飛ばしながら喚くのだからウザい事この上ない。
パスカル・ドニ・ルクレール。ルクレール公爵令息。
黙っていれば貴公子の風体。
3年前から年に一度パスカルの肖像画が送られてきていたので、顔は知っていた。
(肖像画の方が実物より三割り増しくらいイケメンに描かれているものの)
確かに私の婚約者はこの男の筈だ。
逆に私の絵姿は3年前に一度雑に描かれた物が送られたきりの筈。
(よく私がヴィヴィアンヌだと分かったわね?)
と、ある意味感心する。
パスカルは流石は高位貴族らしく所作は美しい。
しかし口を開けば怒声が飛び出す。
内面の醜さがこれでもかと現れている。
さっさと縁を切りたい…。
男爵令嬢シュザンヌ・ブルデューが私に絡み
言い掛かりを付けて嘘泣きするとーー
途端にパスカルが駆けつけてきて
「俺の友人に何をした!」
と怒声をぶつけてくる。
先日から繰り返されているパターン。
私は「不貞の子」だのと呼ばれてはいるが王族籍に入れられている。
一応ちゃんと認知されているアザール王国の王女。
今現在の状況が学院内で出来上がっている事自体、アザール王国の恥だ。
今年度からバルシュミーデ皇国から新入生・編入生が入ってきているのだ。
令息・令嬢らは外交の練習も兼ねて貴族らしい品位を保った振る舞いを心掛けるべきだ。
ところがどっこい。
パスカル達にはそうした物の道理が理解できていない。
案の定、見るからにバルシュミーデ人らしい生徒達が
「〈男子が女子に怒鳴りつけるのがアザール王国の文化なのか?〉」
「〈そうらしい〉」
と目を丸くしてパスカルと私を見物している。
(まるで見せ物ね。恥ずかしい…)
私はパスカルと違って面の皮は厚くない。
しかし
「〈気の毒に…〉」
と同情の声が聞こえた事で
(まぁ、普通に人間の心がある人達なら、普通に私に同情してくれるよね)
とバルシュミーデ人学生の方々の感性の正常さを感じて、少し気分的に慰められた。
アザール王国の国民はそういう点で少し(というか盛大に?)オカシイのだ。
私は
「アザール王家の血を引く者達に現れる特徴」
である
「赤眼」
(もしくは赤味がかった眼)
を持たない。
鮮やかな青い眼をしている。
そのせいで
「側妃が浮気をして産んだ偽王女」
と陰口を叩かれ続けた。
赤眼が遺伝しなかっただけで散々な言われようだと思う。
私という存在に関して、国民の皆様は
「親とは似ても似付かぬ王女がいる」
という噂話だけ聞き齧って知っている気になっている。
「不貞の子」
と呼ばれる私を
「殺さずに王女として認知した」
父王は
「妻の不貞で托卵雛の養育をなすりつけられた気の毒な父親達」
から
「同情と親しみを得て支持率を上げた」
節がある…。
お陰で誰もが
「王女とは関わりたくない」
と思っているようだ…。
パスカルに絡まれていてもアザール人の生徒達は誰一人助けてくれず…
バルシュミーデ人学生の方が同情的で、高位貴族らしいバルシュミーデ人の男子が
「女子に対して大声で威嚇するべきじゃない」
と、パスカルへ意見してくれた。
それに対してーー
パスカルのバカは
「外国人のくせに口出しするな!」
と腹を立て
「覚えてろよ!」
と睨みつけながら逃げていった。
パスカルの将来がお先真っ暗なのは、まさにそういうところだ…。
アザール王国はバルシュミーデ皇国とランドル王国との間に位置していて、ランドル王国はバルシュミーデ皇国の属国。
つまりこの国は両隣をバルシュミーデに押さえられている。
外国人がドンドン入ってきていて属国化・植民地化へ向かいつつある社会状況だ。
それを理解できていないかのような無謀な横柄さ…。
公爵令息として色々あり得ない。
「…助けていただきありがとうございます」
と、私は一応バルシュミーデ人学生にお礼を言ってから、そそくさ教室へと避難した。
それにしてもーー
(パスカルが私を憎悪する理由が分からない…)
パスカルの行動の動機部分が本当に謎だ。
ルクレール公爵家は私が降嫁する予定があるから
「持参金の手付け」
として王家から相当な額の支援金を得ている。
本来なら傾きかけた公爵家なのである。
基本的にアザール王国ならびに近隣国の公爵家の多くが
「他国から嫁いできた王妃が産んだ王子が初代公爵」
という成り立ち。
つまりーー
「公爵家」
は必ずしも偉い訳じゃない。
国王の同母弟の王子が興した公爵家は
「騎士団を有して国防を任される」
(王家に次ぐ権力者である)
のに対して
他国の血が混じった王子が興した公爵家は
「表面的にはルーツ国との国交を任される」
とは言え
「売国奴かも知れない」
と常に疑いを向けられ
「外患誘致罪で一族郎党公開処刑が降りかかる」
可能性も少なくない。
唯一の例外は軍事大国バルシュミーデ皇国をルーツとするシャリエール公爵家とその派閥のみ。
「公爵家間の格差は他の爵位よりも遥かに大きい」
のである。
お陰で底辺公爵家は薄氷を履むような運命の中に在る…。
なので潜在的にそうした危機の内在を察し
「底辺公爵家の人間達は慎ましく無難な人間性に育つ者が多い」
筈なのだが…
パスカルはその点、色々と普通とは違う。
ルクレール公爵家のルーツ国は今は存在してない。
ゆえにルーツ国の後ろ盾も外交の橋渡しもない。
小さな領地から徴収できる税だけが収入源。
普通なら色々自分の立ち位置の危うさを鑑みるところだろうに…
パスカルは
「馬鹿」
「楽天家」
「野心家」
という最悪な性質を併せ持っている。
(コイツ絶対、そのうち破滅するよな…)
と誰の目にも明らかだ。
ルクレール公爵家は王女の降嫁先としては最低ランクの公爵家。
本当にいつ潰れてもおかしくない。
(パスカルの有責で婚約破棄されないかな…)
と本気で思った。
昨日は思い切って
「パスカル様。どうして貴方はそんなにも私の事が嫌いで堪らないくせに婚約破棄をしてくださらないんですか?」
と素朴な疑問を呈してみたが
パスカルは
「よく言う!金で公爵夫人の座を買おうとしている醜悪な性根の女が!」
と激昂した。
(この調子では…「結婚後、事故に見せかけて殺す」とか、こちらを殺処分しようとするんだろうな…)
と予想がつく。
王家の金は啜るが王家の厄介者は引き受けたくないだなんて…
ルクレール公爵家は王家に寄生する寄生虫そのものだ。
(お兄様達が私に対して多少なりとも愛情を持ってくれていれば、こんな寄生虫男「生かしておく値打ちはない」と理解してくれるのだろうに…)
残念ながら、私は家族からも愛されていないのだ…。




