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シュザンヌ・ブルデューが私に話しかけて来ると、必ずシュザンヌ・ブルデューは泣き出す。
私が聞こえないフリをして素通りしようとすると…
腕を掴んだり肩を掴んでくるし
そうした無作法に対して
「許可なく身体に触れるのは無礼です。今すぐ手を離して謝罪してください」
と指摘すると
「いくら王女だからって酷い!学院では身分差別は違反です!」
と言い出して泣き出す。
(嘘泣きが特技のようね)
そうなるとパスカルが近くで控えていたかのように駆け寄ってきて
「貴様!どこまで性根が腐ってるんだ!」
と激昂する。
毎度お馴染みのパターン。
それが毎朝、週を跨いで7日間続いた時点で
「…朝、普通に寮を出て、歩いて学院の敷地に向かうから、待ち伏せされるんだわ」
と気がつき、地下の隠し通路を使って通学する事にした。
無事に教室について自分の席に着席して一息ついていると
「王女様って教室に入って来る時に誰にも挨拶もしないのね。…高慢なのは感心できないわ」
などと聞こえた。
Bクラスの公爵令嬢シャルリーヌ・シャリエールだ。
私の席のすぐ側で私の方を見ながら言っているので、露骨に喧嘩を売って来てるのが明らかだ。
シャルリーヌはBクラスなのに、Aクラスの公爵令息シャルル・ラングランと仲が良いのか、度々Aクラスの教室内で見かける。
今日もシャルルの席の(私の斜め前)側に居る。
シャルルはシャルリーヌの発言に少しギョッとして
「シャルリーヌ。余計な事を言うんじゃない」
と嗜めているが…
本気で制止しようとしてはいない様子。
「王女の悪口を言っても王家の影が攻撃して来るような事はない」
と安心しきっているからだろう。
「影が王族批判者を国王に報告して、国王が王族批判者を家ぐるみで冷遇する」
という牽制。
「影が王族批判者を国王に報告して、陰湿な報復をする許可を得た上で王族批判者の心胆を寒からしめる嫌がらせを行う」
という牽制。
そういう牽制が実際に加えられるからこそ…
普通は貴族は王族批判などできないものだ。
しかし「不貞の子」などと言われる瑕疵のある王族となると、影も付けてもらえず、貴族ら平民らにネチネチ虐められても誰からも庇ってもらえない。
シャルリーヌは更に
「『持つ者の義務』を放棄している者は、王族であれ、貴族であれ、到底認められないわ」
だのと言っている。
(この女もドリアーヌの同類か…)
それに対して
「…義務放棄は必ずしも当人の意思で選択されているとは限らないと思うよ」
とシャルルは言う。
名ばかり王女が放置されて育った実情を多少知っているようだ。
シャルルの家ラングラン公爵家は王太后の実家。
宰相もラングラン家の者。
なので、シャルルが王城内の事情に詳しくても不思議ではない。
少しは私を庇う気があるようだが…
シャルルがシャルリーヌを見る目は優しい。
我儘な妹に言い聞かせてやっているような態度だ。
本気で叱り、躾けるような気は無さそう。
王城の使用人達の中にも、意地悪な人達に対して
「もっと優しくなろうよ」
と言い聞かせようとする者もいたが…
結局は人間関係は馴れ合いが優先。
意地悪な人達を断罪するような決断は誰からも出てこない。
(なんか腹が立ってくるのよね…)
溜息が漏れた。
(…【泥棒の極意】で他人の心から団結力や親和性を奪うのって、どうやるんだろう?)
ついつい
(シャルリーヌとシャルルで実験できないかな?)
と思ってしまう。
【泥棒の極意】を稼働させるには
「【泥棒の極意】起動」
ではなく
「我に従え【泥棒の極意】」
といった感じで【泥棒の極意】という能力そのものに宿る自我に対して命じる必要がある。
シーカーに言わせると
「スキルや魔道具の中に小精霊のように自我を持つ者が宿っている事がある。特定の個人によってカスタマイズされて普遍性から離れたレアスキルは特に」
との事。
当然
「小精霊だと、やっぱり使役するのに対価や恩が必要になるのよね?」
と疑問を尋ねたところ
「小精霊は自分自身の力が使われて人間が振り回される事自体に愉悦を感じる。それが対価だ。なので特に対価を気にする必要はない」
だそうだ。
因みにシーカーを呼び出す際にも
「我の求めに応じよ【シーカー】」
と呼びかける必要がある。
自我のある者を利用するのには気遣いが必要となるのである。
なので小声で
「〈我に従え【泥棒の極意】〉」
と前世の母国語で言ってみた。
すると【泥棒の極意】が稼働したらしく
ブウゥゥン
と蜂の羽音のような音が聞こえた。
と同時に
それ以外の音が急に掻き消えた。
どうやら私以外の者達の時間が停止したらしい。
教室内の生徒達の身体が動作途中で停止している。
(ジックリ観察する暇があるわね…)
と満足してシャルリーヌの顔を見つめた。
(ヴィルジールお兄様に似てる顔と赤眼…)
微妙に腹立たしい。妬ましい。
しかしすぐに半透明なiP◯dらしきタブレットが目の前に出現したので、視線をシャルリーヌからタブレットへと移した。
タブレットにはアイコンが並んでいる。
硬貨のマーク
網の(蜘蛛の巣か?)マーク
破れた網のマーク
錠前のマーク
開いた錠前のマーク
宝箱のマーク
太陽と月のマーク
開いた本のマーク
合計八つのアイコン。
シャルルとシャルリーヌとの間にある
「親しみ」
を盗んで、仲間割れさせたい場合
どのアイコンをタップするべきなのだろう…。
思わず直感的にーー
開いた本のマークを押した。
するとマイクのマークとキーボードのマークが出た。
マイクのマークを押して
「〈シャルリーヌ・シャリエールとシャルル・ラングランとの間にある『親しみ』を盗みたい〉」
と言ってみた。
すると「確定」ボタンが出たので、それをタップ。
すぐさま自動で、破れた網のマークのアプリが起動。
「物理/非物理」
の選択ボタンのうち
「非物理」が自動で選択された。
そして
「〈シャルリーヌ・シャリエールとシャルル・ラングランとの間にある『親しみ』を盗みたい〉」
と、私が言った言葉がそのまま表示され
次いで
「シャルリーヌ・シャリエールとシャルル・ラングランとの間にある『親しみ』は幼馴染みとして過ごした過去の体験共有の記憶がベースになっています。それらの記憶を盗みますか?はい/いいえ」
と出た。
当然「はい」を選択。
「シャルリーヌ・シャリエール/シャルル・ラングラン/双方」
という記憶奪取の対象選択では
(確実に盗もう)
と思ったので当然
「双方」
を選択。
処理ゲージが出てきて、1、3、9、13、19、23、29
といった感じでパーセンテージが上がっていく。
100パーセントにゲージの目盛りが達した時点でゲージが消えて、画面表示がホーム画面に戻っていた。
宝箱マークの上に「2」と出たので、宝箱マークをタップすると
「シャルリーヌ・シャリエールの、シャルル・ラングランとの思い出」
「シャルル・ラングランの、シャルリーヌ・シャリエールとの思い出」
が宝箱に保存されていた。
宝箱マークのアプリはどうやら保管庫のようだ。
宝箱マークのアプリを終了させると
「他に御用はございますか。はい/いいえ」
という選択肢が出た。
「いいえ」を押して【泥棒の極意】を終了。
途端にーー
周りの音がガヤガヤと耳に入ってきた。
「あれ?」
とシャルルが狐に包まれた顔になり
首を傾げて
「私は一体…」
と呟いた。
シャルリーヌの方は
「…ラングラン公爵令息。貴方は『持つ者の義務』を放棄している者に対して『改めて欲しい』という欲求を向ける事すら『するべきではない』と思うのね?
…今日は貴方が私とは違う考えなのだという事がよく分かりましたわ。さようなら」
と言って、さっさと教室を出て行ってしまった…。




