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「貴方のご主人様だった人間は貴方をカラスや黒猫のイメージで捉えていた、という事ね?」
と精霊を自称する謎の声に問うと
「ああ」
と答えてくれた。
「それなら黒猫の姿で現れてみてくれる?」
「分かった」
精霊は素直に黒猫として姿を現してくれた…。
(なかなか可愛い…)
つい、撫でてやりたくなる姿だ。
「単刀直入に訊くけれど、貴方はその巻物の中に閉じ込められていたの?」
「そうだ。正確には巻物に描かれた封印の魔法陣に閉じ込められていた」
「私は貴方を解放した恩人、という事で合ってる?」
「ああ。だから一つだけ願いを叶えて恩返しを終えたいと思う」
「その願いって『貴方が私を好きになって、今後一生、私の言う事に逆らえなくなって欲しい』みたいな『恩返しの無制限おかわり』とかでも叶えてもらえるの?」
「…凄まじい強欲だな…」
「ちょっと、言ってみただけですが?」
「そうか」
「それで?そういうのもできるの?」
「願う事自体は可能ではあるが、お前が私に好かれるにはお前自身に他の者には無い魅力が必要になる。
そうした土壌がないと、単にお前が死ぬ事になる。『一生』というのは死ねば終わりだからな」
「それなら『私と契約して、私に仕えて欲しい』という願いなら?」
「大抵の人間はそれを願うし、その願いを叶える形で人間に仕えてきた。だがその場合は働きに応じた報酬がその都度必要になる」
「報酬って、どんなもの?」
「小さな願いなら爪や髪のようなもので構わないし、大きな願いなら、目玉や指、内蔵なんかが必要になる」
「ならば、私の願いはそれで良いわ。本当は『友達になって』と願いたかったけれど、『好きになって』と言うのと同様に、こちらに魅力がなければいけないパターンでしょうから」
「………」
「精霊さん。私と契約して、私に仕えて欲しい」
「了解した」
不思議な気がした。
この精霊の過去の主人達も同じセリフを口にして
この精霊自身も同じ返答を返してきた。
その場面が走馬灯のように眼前に広がって、瞬時に流れ去ったのだ…。
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精霊の出てきた巻物は既に魔力を纏っておらず、魔法陣だけが描かれている。
(封印って、封印時に込めた魔力の分だけ封印期間が持続するという事なのかしら?)
謎だ。
とりあえず、大事に取っておこうと思う。
「…貴方の名前は何というの?」
興味津々に黒猫姿の精霊に尋ねると
精霊は
「名前は契約主が変わる度に変化してきた。好きに呼ぶと良い」
と面倒くさそうに顔をしかめた。
「…御伽話の中の精霊は『本当の名を言い当てた主人に対してだけ自分の力の全てを使わせた』とあったわ。適当に名付けて、適当に呼ぶのは何か違うのではない?」
「(チッ)そういう事だけはちゃんと知ってるんだな…」
(舌打ちした。…随分と人間くさい…)
「…貴方の本当の名前を言い当てたい所だけれど、ヒントとかは、くれないの?」
「やるわけがないだろ?」
「(ハァーッ)…それなら『シーカー』はどう?何となくだけど、貴方にピッタリの名前だわ」
「………お前、本当に運が良いんだな」
「もしかして貴方の本当の名前を言い当ててしまった、とか?」
「いいや。本当の名前ではないが…。以前の主人が私に付けた名前だ。なので彼が持っていた能力をお前に引き継がせてやれる」
「以前のご主人様?300年以上前の人間?」
「そうだ。因みに彼は大泥棒だったぞ?私の用途は主に『情報収集』『転移』だった。禁忌魔法を使わされた際には爪や髪では報酬が足りなくて目玉をもらった事もあったがな」
「…私は泥棒になる気はないんだけど」
「だが、能力玉はちゃんとお前の中に入っていったぞ?魔眼で自分自身の胸元を見てみろ。【泥棒の極意】という能力がギフトとしてインストールされてて、こうやって話をしている間にも既に定着しつつある」
「………【泥棒の極意】って…。なんて物騒で、無駄な、能力…」
「ふふふ。お前、友達が欲しいとか言ってただろう?『他人の心を盗む』のも泥棒の能力の一つだぞ?」
「泥棒って、『他人の心』なんていう不定形なものまで『盗みの対象』にするの?不遜極まるわね」
「だから人間は面白いんだ。お前にも私を楽しませてくれるよう期待している」
「…精霊が悪魔って呼ばれる理由って、倫理観が欠如してるとか、そういう事が原因だったりするのかしら」
「人間側がこちらをどう呼んでどう位置付けようが、私には関係ない。『自分自身が自分自身であり続ける』という権利はどんな存在にとっても破棄不能な権利なんだ。
私は人間ではないから、人間の価値観を共有して一緒に狂ってやる必要性もないだろう?それこそ人間が『友』だと言うならまだしも」
「…シーカーと『友達になる』のはハードルが高そうね」
「お前は先ずは人間の友達を作るべきだろうな?と言っても『友となるに値する人間』がそうそう存在しているとも思えないが」
「精霊は『友となるに値する』という基準を満たすのに一体何を求めるの?具体的に言って、何をすれば良いの?」
「何をすれば良い、という事よりも『愚かな事をしなければ良い』というだけだ。具体的には『欺瞞に耽らない』という事だな」
「…それは、生き残るのに腹芸が必要な王族・貴族には難しい注文ね」
「だろうな」
「でも身を立てられるだけの特技を習得してから市井にくだれば、腹芸も欺瞞も無縁に生きられるのかも知れない…」
「…お前は良い所の令嬢なんだろ?市井にくだりたいのか?」
「ええ。このままだと人間性が最悪の公爵令息と結婚させられたのち、邪魔者扱いされて殺処分されてしまいかねないの。
あの男は持参金欲しさに、私と結婚したがっていて、それでいて私を嫌ってますからね」
「へぇぇ〜…。お前は私から見ても見目麗しいと思えるのに、お前を嫌う男がいるのか…。ソイツ男色家か何かか?」
「いいえ。この国の今の社会では王家の人間でありながら瞳の色が赤くない者は軽んじられ疎まれる風潮があるの。だからあの男はそうした風潮に馴染んだ価値観で私に対して偏見を持ってるのよ」
「人間というのは本当に根っこの本質が変わらないものだな。成長するという事を知らない…」
「私は結婚後に殺されるような結婚をしたくないし、早めに縁が切れて、市井でのんびり暮らしたいものだわ」
「まぁ、そうなってくれると良いな?それで?お前に仕える事になった私は何をすれば良い?」
「相談に乗って欲しいわ。あの男と婚約破棄したいのは勿論、今後の人生をちゃんと生き延びたいもの。報酬には伸び過ぎた髪を一房。それで協力してくれると言うのなら…」
私がそう本音を語ると
黒猫の目がキラッと輝いた…。




