EP 9
必殺! 聖獣剣・一刀両断斬り!
「ギ、ギギギギギ……ッ!?」
死百足型が、明らかな困惑の声を上げた。
ルナミス帝国の外壁すら溶かすはずの致死の強酸ブレス。それが、ガオガオンの下半身を構成する『玄武の重力シールド』によって、ただの水飛沫のように弾き返されているのだ。
「フン。絶望するにはまだ早いぞ、害虫。我らのステージはここからが本番だ!」
コクピット内でガオンがニヤリと笑う。
俺は操縦桿から伝わる圧倒的なフィードバックに震えながらも、プロデューサーとしての指示を飛ばした。
「まずは周囲の雑魚から掃討だ! リーザ、曲のテンポを落とすな!」
「はいっ! 『左腕は青龍! 紅蓮の雷 悪を裁くレーザーの雨(シュート・ナウ!)♪』」
リーザの歌声に呼応し、ガオガオンの左腕である青龍の顎がガチリと開く。
そこから放たれたのは、夜空を真昼のように照らす『紅蓮のレーザー』の豪雨だった。
空を覆い尽くしていた死蜂型と、地を這う死蟻型の群れが、回避する間もなく次々と光の束に撃ち抜かれ、爆散していく。
「ギチィィィッ!!」
手駒を失い、追い詰められた死百足型が狂乱したように突進してくる。
30メートルの巨体による、全質量を乗せた体当たり。
「ガオン、上だ!」
「指示するまでもないわヒョロガキ! 飛ぶぞ!」
ガオガオンの背中に合体した朱雀の炎の翼が、爆発的な推進力を生み出す。
重力という概念を完全に無視した超高速の跳躍。死百足型の突進は空を切り、ガオガオンは夜空の遥か高みへと舞い上がった。
「隙だらけだぜ! 右腕、いけぇッ!」
「『右腕は白虎! 鋼の牙で 絶望さえも砕き尽くせ(ドリル・オン!)♪』」
急降下しながら、ガオガオンは右腕の白虎を突き出す。
闘気を纏った白虎の頭部が超高速で回転を始め、必殺の『白虎穿孔ドリル』へと変形した。
ズガガガガガガガッ!!!
「ギギャァァァァァァッ!?」
ドリルが死百足型の極厚の黒鋼装甲を紙のように抉り、内部の機械機構を粉砕する。
たまらず大地に縫い留められる死百足型。
だが、奴もしぶとかった。引き裂かれた装甲の奥から、紫色の『核』を剥き出しにし、周囲のマナを異常な速度で吸収し始めたのだ。
「マズい! あいつ、自爆してでも俺たちを道連れにする気だ!」
俺の『完全同調』が、敵のコアから膨れ上がる致死量のエネルギー増幅を感知する。
ルナミス帝国のスラム街ごと吹き飛ばす気だ。
「させん! 動きを止めるぞ!!」
ガオンが咆哮する。
胸部のライオン(ガオンの頭部)の目が赤く発光し、大気を震わせる『獅子の大咆哮』が放たれた。
「ガァァァァァァオオオオオオンッ!!!」
物理的な破壊力ではなく、圧倒的な神気と音波による精神攻撃。
その咆哮を浴びた瞬間、死百足型の巨大な体がビクンと痙攣し、自爆のチャージごと完全にフリーズした。
「よし、完全にロックした! リーザ、ラストサビだ! 一番熱いパッションを叩き込め!」
「はいっ!! プロデューサー、ガオンさん、いきます!!」
リーザがみかん箱の上で、これ以上ないほどの笑顔でマイク(代わりの拳)を握りしめる。
『今だ、光の刃で一刀両断!♪』
「ガオン! 剣を出せ!」
「応ッ!!」
ガオガオンが右腕を虚空へと突き入れる。
空間がパチンと弾け、異次元の扉が開いた。そこから引き抜かれたのは、星の輝きを凝縮したかのような、まばゆい光を放つ巨大なエネルギー剣――。
『聖獣剣! ゴッド・ブレード!!♪』
「終わりだ、サルバロスの呪いよ! ルチアナ様に代わって、我らがお前を神の理から切り離す!!」
ガオンの闘気、リーザの魔力バフ、そして俺の『完全同調』による1000%の最適化。
三位一体となった究極のエネルギーが、ゴッド・ブレードに注ぎ込まれ、光の刃が天を突くほどに巨大化する。
「いっけえええええええええッ!!!」
俺とガオンの声が重なる。
ガオガオンが、光の巨剣を上段から一気に振り下ろした。
「必殺! 聖獣剣・一刀両断斬りィィィッ!!!」
ズバァァァァァァンッ!!
音すらも置き去りにする、究極の一撃。
光の刃は死百足型の巨体を、その内部で臨界点に達していた紫色のコアごと、空間の歪みすらも真っ二つに両断した。
「ギ……、ギ…………ッ」
死百足型の体が左右にズレていく。
その直後、切断面から溢れ出した圧倒的な光のエネルギーが、敵の自爆エネルギーを完全に相殺し、呑み込んだ。
カァァァァァァン……ッ!!!
夜空を真昼に変えるほどの、凄まじい大爆発。
爆炎を背にして、聖獣機神ガオガオンは剣をゆっくりと下ろし、微動だにせず、完璧に計算されたかのような美しい『勝利のポーズ』を決めた。
爆風が静まり返る中、リーザの透き通るような歌声だけが、戦場を優しく包み込むように響き渡る。
『ガオッ! ガオッ! ガオッ!♪
聖獣機神 ガオガオオオオン!!♪』
歌い終えたリーザは、「ふぅ」と息を吐き、みかん箱の上で最高に可愛らしいウインクを決めた。
「ふっ……。どうだヒョロガキ、そしてタヌキ娘。我ら(・・・)のステージは」
「ああ……最高だったぜ」
コクピットの中で、俺は全身の疲労と火傷のような痛みに顔を歪めながらも、笑った。
無能スキルと呼ばれた俺と、パンの耳で生き延びていた地下アイドル、そして毒舌の神の兵器。
ルナミス帝国の片隅で、誰も知らない伝説の第一歩が、今ここに刻まれたのだ。




