EP 10
伝説の幕開け(と、次なる営業先)
圧倒的な大爆発の光が収束し、夜空に再び静寂が戻った。
死蟲機の群れと、あの絶望的な巨大ムカデは、文字通り跡形もなく消え去っている。
「終わった……のか?」
コクピットの中で、俺が限界を迎えてへたり込むと同時に、ガオガオンの合体が解除された。
四神の聖獣たちは無言のまま、再び光の粒子となって東西南北の空へと帰っていく。そして、俺たちを乗せていたガオンの巨体もまた、シュゥゥゥ……と蒸気を吹き出しながら急激に縮んでいった。
ポンッ!
軽い音と共に俺とリーザは地面に放り出され(みかん箱も無事に着地した)、濛々と立ち込める煙の中から、一つの小さな影がトコトコと歩み出てきた。
「……にゃーん」
「えっ」
俺とリーザは目を丸くした。
そこにいたのは、手のひらサイズの『黄金の機械子猫』だった。
「フン、何を見ているヒョロガキ。四神との合体と大出力の連発で、魔力がすっからかんなのだ。エネルギー節約のための仮の姿に過ぎん!」
威厳たっぷりに腕(前足)を組もうとする子猫。しかし、手足が短すぎてうまく組めず、コロンと仰向けに転がってしまう。
「くそっ、この脆弱なフォルム……我の崇高なるプライドが……!」
「あははっ! プロデューサー見てください、ガオンさんすっごく可愛いです!」
「や、やめろタヌキ娘! 我の神聖なる肉球をプニプニするな! 殺すぞ!」
リーザに抱き上げられ、ジタバタと抵抗するガオン。
さっきまで50メートルの巨剣を振り回していた神の兵器が、今やただの愛玩動物である。俺は全身の筋肉痛と火傷の痛みに耐えながら、思わず吹き出してしまった。
「……なんだよそれ。無敵のロボットの正体が、生意気な子猫かよ」
だが、笑っている場合ではなかった。
周囲の瓦礫の陰から、避難していたテント村の労働者たちや、衛兵たちが恐る恐る顔を出してきたのだ。
「お、おい……今の、嬢ちゃんがロボットを呼んで、化け物をやっつけたのか……?」
「あんな凄まじい魔法、帝国の宮廷魔導師だって使えねえぞ……!」
ざわめく群衆。
マズい。目立ちすぎた。帝国軍に目をつけられたら、最悪『兵器』としてリーザもろとも軍に軟禁される可能性がある。俺のプロデューサーとしての危機管理レーダーが警鐘を鳴らす。
「リーザ、とりあえずここは逃げるぞ。みかん箱を持て!」
「待ってくださいプロデューサー! お客さんが、こんなにたくさん……!」
リーザは俺の制止を振り切り、瓦礫の上に再びみかん箱を置いた。
そして、群衆に向かって、ありったけのアイドルスマイルを向けたのだ。
「みなさーん! 本日のゲリラライブ、最後まで見てくれてありがとうございましたっ! 世界を救うアイドル、リーザです! これからも応援よろしくお願いします!」
深々と頭を下げるリーザ。
一瞬の静寂。
そして――。
「うおおおおおおおおっ!! リーザちゃぁぁぁん!!」
「命の恩人だ! あんた、最高の歌姫だよ!!」
「俺は最初から売れると思ってたぜぇ!!(※昨日知ったばかり)」
割れんばかりの大歓声が、夜明け前のスラム街に響き渡った。
それは、死の恐怖から解放された安堵と、圧倒的なエンターテインメント(ロボットバトル)を見せられた興奮が入り交じった、純粋な熱狂だった。
「嬢ちゃん! これ、俺の今日の稼ぎだ! 受け取ってくれ!」
一人の労働者が、帽子の中に銅貨を掴んで放り投げた。
それを皮切りに、次々と群衆から『おひねり(スパチャ)』が飛んでくる。
「これも持ってきな! 今日採れた『月見大根』だ!」
「うちの屋台の『太陽芋』も全部やるよ!!」
チャリン、チャリン、ボトッ、ドサッ。
リーザの足元に、銅貨、銀貨、そして大量の野菜の山が出来上がっていく。
「ふぇっ……!? ぷ、プロデューサー! 大根です! しかも丸ごと一本! これで明日はパンの耳じゃなくて、おでんが食べられますよぉぉぉ!」
大根を抱きしめて号泣するリーザ。
限界地下アイドルにとって、野菜の現物支給は金貨以上にありがたいスパチャだったらしい。
「おいルラン、なんだこの惨状は。我ら聖獣が、なぜ下等な人間どもから泥のついた芋や大根を恵まれているのだ……屈辱だ」
俺の肩に乗った子猫が忌々しそうに吐き捨てるが、その尻尾は群衆の熱気にあてられて無意識にパタパタと揺れていた。
「いいじゃねえか。泥臭い営業からトップを獲るのが、アイドルの王道ってもんだろ」
俺は、朝日に照らされるリーザの笑顔を見ながら確信した。
無能と呼ばれた俺の『完全同調』。
バフを撒き散らす純真な歌姫。
そして、ツンデレの超絶ロボット。
このイカれた3つのピースが揃った今、俺たちなら絶対に天下を獲れる。
死蟲機とかいう世界のバグも、ステージを荒らす害虫というなら、ついでに全部駆除してやる。
「よしリーザ、撤収だ! 大根と芋を全部回収しろ!」
「はいっ! ガオンさんも手伝ってください!」
「誰がやるかバカ娘! 我は神の使いだぞ!」
ワイワイと騒ぎながら、俺たちはみかん箱と大量の野菜を抱えて、ボロアパート『ルナミスコーポ101号室』への帰路についた。
ルナミス帝国、いや、アナステシア大陸全土を巻き込む『絶対無敵のアイドル伝説』と『世界救済ツアー』は、こうしてひっそりと、しかし確かな爆発力を持って幕を開けたのだった。




