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無能スキル『完全同調』の俺、限界地下アイドル(人魚姫)のプロデューサーになる~歌のバフで聖獣機神が起動して世界を救う~  作者: 月神世一


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EP 10

人魚姫とパチンコ屋の錬金術

聖獣機神ガオガオンによる死蟲機デッド・インセクトの殲滅。

ルナミス帝国のスラム街を救ったあの大勝利から、数日が経過した。

圧倒的なロボットバトル。魂を揺さぶるアイドルの歌声。

普通なら、ここで国賓級のVIP待遇を受けたり、超大手事務所からスカウトされたりして、セレブな成り上がり生活がスタートするはずである。前世のエンタメ業界の常識に照らし合わせても、あのバズり方は異常だった。

だが、現実は非情である。

「……おい、リーザ。お前、そこで何やってんだ?」

ルナミス帝国の裏通り。

ギラギラと魔導ネオンが輝き、ジャラジャラという金属音とタバコ(に似た魔法草)の煙が充満する、治安の悪い魔導遊技場――いわゆる『パチンコ屋』の店内。

俺は、通路の隅で床に這いつくばっている青髪の美少女を見下ろし、顔を引きつらせていた。

「しーっ! プロデューサー、声が大きいです! 店員さんに見つかっちゃいますよ!」

リーザは俺をシッシッと手で払いながら、再び床に視線を戻す。

彼女は遊技台に座っているわけではない。なんと、客が落とした『銀玉』を拾い集めているのだ。

「フン……あのタヌキ娘、ついに狂ったか。我ら聖獣を呼び出すほどの魔力を持ちながら、なぜあんな泥水すするような真似を……」

俺の胸ポケットに収まっている子猫サイズのガオンが、呆れ果てたようにため息をつく。

だが、リーザの動きは「狂っている」などという生易しいものではなかった。ある意味、極まっていたのだ。

「あ、落ちた」

チャリン、という微かな音。

その瞬間、リーザの目が捕食者のように鋭く光った。

スッ……!

彼女は安いサンダルから覗く『足の指』を器用に伸ばし、床を転がる銀玉を店員の死角から見事にキャッチ。そのまま音もなく手元の紙コップへと滑り込ませた。

「なっ……!?」

俺は目を疑った。

「見ましたかプロデューサー! 人魚族の王家のみに伝わる『深海をも見通す動体視力』と、海流を捉える『精密な身体コントロール』の合わせ技です!」

「王家の血をパチンコ屋の床で無駄遣いするな!! 泣くぞ、故郷の女王様が泣くぞ!!」

俺の必死のツッコミも虚しく、リーザの「タダ活」は止まらない。

巡回する店員のリズムを完璧に把握し、死角に入った瞬間にだけ動くそのステルス性能は、もはや一流の暗殺者アサシンレベルだった。お前、そのスペックを戦闘に活かせよ。

「よしっ、目標数達成です! 行きましょうプロデューサー!」

小一時間後。

紙コップの底にそこそこの銀玉を貯めたリーザは、満面のアイドルスマイルで景品交換カウンターへと向かった。

まさか、換金して活動資金にする気か? いや、拾った玉でそれは完全にアウトだろ。最悪、衛兵を呼ばれて「世界を救ったアイドル、パチンコ屋で出禁になる」という前代未聞のスキャンダルで終わる。

俺が止めに入ろうとした、その時だった。

「お兄さん! この銀玉で、アレと交換してください!」

リーザが指さした先。

カウンターの端にある、余った端玉はだまで交換できる食料品コーナー。

店員は怪訝な顔をしながらも、彼女の圧倒的な美少女オーラに絆されたのか、無言で『それ』をカウンターに置いた。

「やりました! 錬金術、大成功です!」

パチンコ屋を出て、路地裏の夕日に照らされながら。

リーザがトロフィーのように天高く掲げたもの。

それは――『大洋サバの魔導水煮缶(通称:サバ缶)』だった。

「……サバ缶?」

俺はぽかんと口を開けた。

「はい! これ、ルナミスマートで買うと銅貨5枚もする高級品なんですよ! それが、床をちょっと凝視するだけで手に入るなんて……遊技場って、本当に夢の国ですね!」

「夢の国の出禁基準を舐めるな。ていうか、サバ缶一つに王族のスキルをフル稼働させてたのかお前は……」

「ニャンだと? サバ缶……?」

胸ポケットの中で、ガオンがピクッと耳を動かした。

聖獣とはいえ、今の体はただの子猫。その本能が、青魚の芳醇な香りを閉じ込めた缶詰に反応しているらしい。

「ふふん。プロデューサー、怒らないでくださいね。これはただのタダ活じゃないんです。私たちの『次のステージ』に必要な、とっても大事なアイテムなんですから!」

リーザはサバ缶を大事そうに胸に抱きしめ、悪戯っぽく笑った。

その屈託のない笑顔を見ていると、俺のプロデューサーとしての危機感と、保護者としての情けなさが限界点を突破した。

(ダメだ。このままじゃ、こいつのアイドルとしての『格』が底辺に張り付いたままになる……!)

「……リーザ」

「はい?」

俺は無言で彼女の腕を掴むと、そのままボロアパート『ルナミスコーポ101号室』へ向かってズンズンと歩き出した。

「わわっ!? プロデューサー、急にどうしたんですか!?」

「帰ったら、お前にはきっちり『教育』をしてやる」

世界を救う力がありながら、床の銀玉に命を懸ける限界地下アイドル。

俺は決意した。今日こそ、彼女のその「タダ活至上主義」の根性を叩き直してやると。

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