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無能スキル『完全同調』の俺、限界地下アイドル(人魚姫)のプロデューサーになる~歌のバフで聖獣機神が起動して世界を救う~  作者: 月神世一


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EP 6

逃げないアイドル

「は? な、なんだあの小娘は。こんな絶体絶命の死地に、なぜみかん箱に乗って鼻に小銭を詰めている……? 我をからかっているのか!?」

迫り来る死蟲機デッド・インセクトの群れを前に、ガオンが呆れ果てたように吠えた。

当然の反応だ。神の使いである聖獣の目に、この極限状態でのリーザの姿は「正気を失った」としか映らないだろう。

だが、俺は知っている。

あれが、彼女なりの「本気の戦い方」であることを。

「ガオン、お前さっき言ったよな。敵の再生速度を上回る『莫大な出力供給ブースト』が必要だって」

「ああ、言ったが……まさか、あの小娘がそれをやるとでも言うのか?」

「ああ。最高にイカれた方法でな」

俺は再びガオンの黄金の装甲に手を触れ、『完全同調フル・シンクロ』のパスを開いた。

その直後だった。

瓦礫の上のステージ(みかん箱)から、リーザの澄み切った、それでいてどこか気の抜ける歌声が戦場に響き渡った。

『た、た、たぬきのお腹は ポンポコポンポン♪』

『月よ〜月で〜頭は ハーゲハゲでピーカピカ〜♪』

パンッ! ポンッ! と、彼女が自らの腹を叩く腹太鼓の音が響く。

絶世の美少女(人魚姫)が、鼻に五円玉を詰めて変顔で熱唱する『ハゲたぬきのポンポコ節』。

死蟲機たちですら、「何事か」と一瞬動きを止めるほどのシュールな光景。

「な、なんという下品で間抜けな歌だ……! 神聖なる調停者の前で――んんっ!?」

ガオンが抗議しようとした瞬間、その黄金の瞳がカッと見開かれた。

リーザの歌声に乗せて、目に見えるほどの濃密な黄金色の魔力バフが、波紋のように戦場へと広がっていったからだ。

(よし、ここだ! 俺の『完全同調』で、リーザのバフを余すことなくガオンのコアへ叩き込む!)

俺はプロデューサー(音響ミキサー)のごとく、空間に拡散しようとするリーザの魔力波長を強引に束ね、ガオンの内部回路へと直結させた。

「ぐおおおおおっ!? な、なんだこの力はァッ!?」

ガオンの装甲の隙間から、制御しきれないほどの炎の闘気が噴出する。

枯渇しかけていた魔力ゲージが、一瞬にして100%、いや、200%を突破して限界突破オーバーフローを起こし始めたのだ。

『お尻はツールツル〜 ターマターマはマ〜ルマル〜!♪』

「くそっ、力は! 力は底なしに湧いてくるというのに! なぜこんな破廉恥な歌詞をBGMに戦わねばならんのだッ!!」

誇り高き聖獣としてのプライドを粉々に打ち砕かれながらも、ガオンのスペックは先ほどまでの比ではなかった。

「ソレ! ヨイヨイ!♪」というリーザの合いの手に合わせ、ガオンが咆哮を上げる。

その口から放たれた炎のブレスは、まるで小型の太陽のごとき熱量を持っていた。

上空から迫っていた数十匹の死蜂型デス・ビーが、回避する間もなく炎の渦に飲み込まれ、一瞬でチリと化す。

「すげえ……!!」

俺のスキルによる最適化と、リーザの暴力的なバフ。

二つの力が合わさることで、ガオンは完全な「無双状態」へと突入していた。

「ギチギチギチッ!!」

だが、死百足型デス・センチピードも黙ってはいない。

雑魚を焼き払われたことに激昂したのか、巨大な体をうねらせ、先ほどよりもさらに濃厚な強酸を周囲一帯に撒き散らしながら突進してきた。

「甘いわムカデ野郎! 『ハゲたぬきのポンポコ節・第二番』の力、思い知れェッ!」

ガオン(もうすっかり曲名を受け入れている)が、大地を蹴って正面から迎え撃つ。

炎を纏った両の前脚が、死百足型の装甲に深々と突き刺さり、その30メートルの巨体を強引に持ち上げた。

メキメキメキッ!!

凄まじい金属音が響き、死百足型の装甲が引き剥がされていく。

「いける! このまま押し切れガオン!」

「いや、マズいぞルラン(ヒョロガキ)!」

ガオンが舌打ちをした。

引き剥がされた死百足型の装甲の奥、その肉の内部から、不気味な紫色の『コア』が脈打っているのが見えた。

周囲の瓦礫や、倒れた死蟲機の残骸が、磁石に吸い寄せられるように死百足型の傷口へと集まり、異常な速度で装甲を再構築(修復)していく。

「奴の再生速度がさらに上がっている! 今の出力でも、物理的に粉砕しきる前に傷が塞がるぞ!」

「なら、一撃で消し炭にするほどの超火力があればいいんだろ!?」

「ああ! だがそのためには、我一人では無理だ! 聖獣合体で『四神』を呼び寄せねばならん!」

ガオンが死百足型を蹴り飛ばし、間合いを取りながら叫んだ。

「なら早く合体しろよ!」

「できん! 四神を呼び寄せるには、このふざけたタヌキの歌ではダメなのだ! もっとこう、魂の底から熱く燃え上がるような、次元の扉をこじ開けるほどの『圧倒的なパッション』を放つ歌が必要なのだ!!」

魂を燃え上がらせる、圧倒的なパッションの歌。

俺の脳裏に、前世の記憶と、リーザの路上ライブの記憶がフラッシュバックした。

「……あるぞ。とびきり熱くて、今の状況にピッタリすぎる神曲パッションが」

俺は瓦礫を駆け上がり、みかん箱の上で歌い続けるリーザに向かって叫んだ。

「リーザ! ポンポコ節はストップだ! 鼻の五円玉を抜け!」

「ふぇっ!? でもプロデューサー、まだ三番の『トックリ抱えて〜』が!」

「いいから! お前のレパートリーの中で、一番熱いあの曲だ! ロボットアニメみたいなあのアニソンを、お前の全力で歌え!!」

リーザは一瞬キョトンとした後、俺の真剣な表情を見てコクリと頷いた。

五円玉を外し、深く、深く息を吸い込む。

――さあ、反撃のステージの幕開けだ。

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