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無能スキル『完全同調』の俺、限界地下アイドル(人魚姫)のプロデューサーになる~歌のバフで聖獣機神が起動して世界を救う~  作者: 月神世一


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EP 4

公園の炊き出しと、心温まる豚汁

ルナミス書店の開店時間を待つ間、俺たちは朝の公園へとやってきた。

ここで行われているのが、タダ活の第二関門――『朝の炊き出しボランティア』だ。

公園の広場には巨大な鍋がいくつも並べられ、食欲をそそる味噌と出汁の香りが漂っている。日雇い労働に向かう前の男たちや、スラムの子供たちが長蛇の列を作っていた。

「おばちゃーん! おはようございます!」

リーザが列の最前列(いつの間に移動したんだ)から元気よく手を振ると、割烹着を着たボランティアのおばちゃんたちがパッと顔を輝かせた。

「あらあらリーザちゃん! 今朝も可愛いわねぇ。ラジオ体操の帰りかい?」

「はいっ! 今日はプロデューサーも一緒です!」

おばちゃんたちの視線が一斉に俺に向いた。品定めのようなどぎつい視線に、思わずたじろぐ。

「へえ、あんたがリーザちゃんの言ってた『ルランさん』かい。随分とヒョロヒョロじゃないか。ちゃんとご飯食べてるのかい?」

「あ、いえ……その、いつもリーザがお世話になってます」

前世で培った愛想笑いと営業用のお辞儀を繰り出すと、おばちゃんたちは「礼儀正しい子だねぇ!」と大層気に入ってくれたらしい。

「ほれ、あんたたちには特別大盛りにしてやるよ! たっぷりお食べ!」

手渡されたのは、両手で抱えるほどの大きなお椀。

中には、あの『シープピッグ(羊豚)』のバラ肉と、満月のように丸い『月見大根』、そして『人参マンドラ』がゴロゴロと入った、湯気を立てる熱々の豚汁だった。

さらに、アナステシア大陸の万能主食『米麦草(の米の部分)』で握られた、顔のサイズほどある巨大な塩むすびまで付いてきた。

これが、無料タダ

恐るべきスラムの互助精神。

「わぁぁ……! 月見大根、お出汁がしみしみですぅ!」

俺とリーザは公園のベンチに座り、早速おにぎりにかじりついた。

米麦草の甘みと絶妙な塩加減が、空っぽの胃袋にガツンとくる。そして、豚汁を一口すする。

「……美味い」

シープピッグの脂の甘みと、月見大根のホクホクとした食感が、冷えた体にじんわりと染み渡っていく。人参マンドラも、逃げ回って身が引き締まっていたおかげか、驚くほど甘い。

「ニャ、ニャンだと……? その汁から、芳醇な肉の香りがするぞ……」

胸ポケットで寝ていた子猫ガオンが、匂いにつられて顔を出した。

「ほらガオンさん、シープピッグのお肉ですよ。あーん」

「フン! 我は聖獣だぞ、そんな人間の残飯など……ハフッ、モグモグ……ッ!? な、なんだこの肉は! 脂がしつこくなく、それでいて闘気が湧き上がるような滋味深さ……悪くないニャ!」

「ほら、ガオンさんも美味しいって言ってます!」

ガオンに肉を分け与えながら、フフッと笑うリーザ。

その横顔を眺めながら、俺は豚汁の椀を両手で包み込んだ。温かい。

ふと、前世の記憶が蘇る。

夜中の3時。誰もいないブラック企業のオフィス。パソコンのモニターの冷たい光だけが照らすデスクで、一人で食べた冷めきったコンビニ弁当。

あの頃の俺は、味なんて感じていなかった。ただ「死なないためにカロリーを摂取する」だけの作業。人間同士の繋がりなんて何もなく、心は完全にすり減っていた。

だが、今はどうだ。

周りを見渡せば、服はボロボロでも、豚汁をすすりながら笑い合う人々の姿がある。「今日も一日稼いでくるぜ!」「怪我すんじゃないよ!」と声を掛け合う、温かい繋がりがある。

『この国の人たちの日常の心を知らなきゃ、本当に心に届く歌なんて歌えません』

リーザの言っていた言葉の本当の意味が、豚汁の温もりと共に、俺の胸の奥深くにまで浸透していくのを感じた。

「……なぁ、リーザ」

「はい?(モグモグ)」

「お前が守りたいのは、世界っていうデカい概念じゃなくて、こういう『当たり前の景色』なんだな」

俺の言葉に、リーザはおにぎりを飲み込み、嬉しそうに目を細めた。

「はい! こんなに美味しいご飯をくれて、一緒に笑ってくれる人たちがいるルナミス帝国、私、大好きなんです。だから、みんながずっと笑っていられるように、もっともっと凄い歌を歌いたいんです!」

その純粋すぎる思いに、俺は小さく息を吐いた。

なんてこった。こいつはどこまでもバカで、底抜けに優しくて、最高に『アイドル』じゃないか。

「……分かった。なら俺は、お前のその思いを、この世界の隅々まで届ける最高のステージを用意してやる。死蟲機デッド・インセクトだろうが魔王だろうが、俺たちの日常(タダ活)を邪魔する奴は、全部ぶっ飛ばしてやるさ」

「プロデューサー……!」

リーザの瞳が、朝日に照らされてキラキラと輝く。

俺たちは拳をコツンと合わせ、残りの豚汁を一気に飲み干した。

「よーし! お腹もいっぱいになったし、ルナミス書店で『ガオガオン・マニュアル』をゲットしたら、次はデパートですよプロデューサー! お化粧の時間です!」

「なんで俺までデパートの化粧室に行かなきゃならないんだよ!」

腹を満たした俺たちの次なる目的地は、ルナミス帝国の商業の象徴『ルナミスデパート』。

ここからさらに、リーザの常軌を逸した「タダ活」の真髄を見せつけられることになるとは、この時の俺はまだ知る由もなかった。

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