18
「何で私まで縛られるんだい?」
「不愉快だから」
「常に端末をチラつかせて私を脅してるくせに。私は何も出来やしないさ。意外と臆病なのかい? 」
「あっ、手が滑ってスイッチの面が下のまま床に……」
「分かった!分かったから!!」
シーちゃんよりもよっぽど厳重に拘束されたアズマさんが床に寝かせられている。レイさんによる私怨も存分に含まれていそうだ。心なしかレイさんの声が愉悦で弾んでいる気がする。
アズマさんが電気が苦手なんて教えたら、喜んでスタンガンを押し当てるに違いない。うるさくなりそうだから言わないでおこう。
シーちゃんは椅子に座ったまま、まだ目覚めない。だらりと俯いた状態で後ろ手に縛られ、椅子に紐を括り付けられている。ちょっとやそっとじゃ抜け出せないだろう。
顔が見えないのに、手足の長さや頭の小ささ、華奢な肩から美少女だというのがはっきり分かる。
私が渡したパジャマ、着てくれたんだ。そう思うと何だか切なくなった。
これもシーちゃんの戦略の一つで、私になんてこれっぽっちも親しみを感じてくれなかったのかな。仲良くなりたかったな。
眠るシーちゃんを横目で眺めて、大げさな溜息をアズマさんが吐く。
「いつまで寝かせておくんだい?水でも掛けて起こせばいい」
「へえ。誰にでも手を出すあなたがそんなことを仰るなんて、ずいぶん余裕を失くしていらっしゃるんですね」
「ハハッ何もせずにジッとしているのは苦手でね。ホノカに火照らされたこの体を、君が慰めてくれてもいいんだが?」
「このスイッチ、押した瞬間に作動するのか、それとも指を離した瞬間に作動するのかご存知ですか?」
「君も随分サディスティックだね!」
「もー、二人とも静かにして……」
ください、と言おうとした瞬間、シーちゃんの肩がわずかに動いた。それから体がもぞもぞと動き出す。
「ん……」
「おはよう、シージー」
「…………」
レイさんがベッドサイドに腰掛けたまま、腕と足を組んで声を掛けた。ぼんやりした表情のまま、シーちゃんは床を眺める。私は立ち上がって側に近寄った。
「気分はどう?水飲む?」
「…………」
シーちゃんは床に転がっているアズマさんに気付きしばらくボーッと見つめてから、だんだん意識がはっきりしてきたのか徐々に顔を険しくしていく。
「裏切ったのね、アズマ!信じられない!」
「捕まっただけさ」
「あんた荒事のプロじゃない!それがどうやってこの素人の凡人に負けんのよ!」
「色仕掛け?」
「信っじらんない!この女のどこに色気なんてあんのよ!」
あまりに早口の英語でここから先は聞き取れなかったが、多分私とアズマさんに対する罵倒の限りを尽くしているのだと思う。ダンダンと足で床を踏み鳴らし、シーちゃんは怒り狂っていた。キンキンと耳に響く甲高い声と声量で、思わず呆気に取られて眺めてしまう。
アズマさんはそんな彼女の罵倒を平然と受け流し、つまらなさそうにしていた。
「そういう君もレイの色仕掛けにやられたじゃないか」
「当たり前でしょ?!好きな相手にあんなこと言われて押し倒されたら、期待するに決まってるじゃない!本懐も遂げられるし!あんたと一緒にしないで!」
レイさんが色仕掛け?全く想像出来ないな。水着とか着たのかな。
隣をチラリと見ると、目の前の喧騒にうんざりした視線を送っている。我慢の限界だったのか、こめかみに指を当てながら口を開く。
「シージー」
「……レイ」
レイさんがそう名前を呼ぶと、シーちゃんはまるで叱られた猫がシュンと尻尾を下げるように、一瞬にして大人しくなってしまった。さっきまで怒涛の勢いでアズマさんを怒鳴りつけていたのに。
「ちゃんと説明して」
「……アズマとホノカから大体聞いたでしょ?それ以上のことなんて、無いよ」
プイ、と横を向いていじけたようにそう言う。
「駄目。話して」
レイさんがそうピシャリと言い放つと、彼女は渋々前を向き、でもレイさんとは目を合わせずに唇を尖らせながら喋り出した。
「……レイと一緒に帰りたかった。でもレイはホノカに夢中だったから、邪魔なホノカを始末しようとした。私たちがやったってバレないように、ホノカが自殺したとしてもおかしくないようなシチュエーションを整えて……。そして、失敗した」
シーちゃんはそこでアズマさんをギッと睨んで、それを受けてアズマさんは首を傾げ肩をすくめる。
アズマさんから聞いていた話と齟齬は無い。本人から聞くことでまた改めてショックを受けると思ったけれど、案外平気だった。
結局彼女にとっては私もアズマさんもレイさんをゲットするための道具だったんだろうな。まあ私は道具というか、障害物か。
「一緒に帰って、どうするつもり?」
「それも聞いてるでしょ?それにうちの家族の考えるようなことなんて、想像つくはずだよ」
「……。シージーは私に子供を産ませたいわけ?」
「もちろん!だって、レイの子供なんて、絶対絶対賢くて、可愛くて、素敵な子に決まってるもん!」
シーちゃんは頬を紅潮させ、瞳を潤ませる。恍惚としたその表情はこちらもつられてうっとりとしてしまうほど魅力的だけれど、喋っている内容はこちらが引いてしまうような内容だ。
「…………」
レイさんは相変わらず無表情だ。でもよく見ると僅かに口元が引き攣っている。自分の体を守るように腕を組んで、そして二の腕を撫でさすった。あ、鳥肌立ってる。
「……全く理解が出来ない。仮にシージーと結ばれたとして、女同士だから2人の子供はできないよね。ということは、他の誰かとつくらせる気なんだよね?何故好きでもない相手の子どもを産まなきゃいけないの」
「別に好きな相手じゃなくても、子供は作れるじゃない」
サラリと何でも無いようにそう言う彼女を、私は無言で見つめた。やっぱり私たちとシーちゃんの間には、大きな価値観の隔たりがあるように思う。
レイさんは首を振る。
「無理。機能としてはそうかもしれないけど、私は絶対嫌」
「レイ、そればっかり!年下も駄目だし、子供作るのも駄目?もう世界は変わったんだから、前の常識なんか捨てちゃいなよ!」
「……。私はシージーのことを軽蔑してる」
「え……」
その冷たい声音に、一気に場の空気が凍り付いた。シーちゃんの表情も固まる。
シーちゃんを見つめるレイさんの瞳には、何の温かみも感じられなかった。それどころか、その目の奥にはシーちゃんに対する冷えた敵意すら含まれているように感じる。
「邪魔だからと言って他人を始末するなんて発想をする人間のこと、何故信用できる?しかもホノカちゃんは私の大切な子だと伝えたよね。一緒に暮らす以上、リスペクトを欠くなと何度も言ったはずだけど。私が大切だと思っているものを尊重できないのに、何故一緒になれると思ったの」
「それは……」
シーちゃんは言い淀む。レイさんがシーちゃんへ今この瞬間向けている視線や感情は、私がシーちゃんにずっと向けられてきたものと同じだ。嫌悪、軽蔑、敵意、見下し。それがプライドの高い彼女にとって、しかもそれが大好きなレイさんからのもので、耐え難い苦痛なんじゃないかと思った。
「それに、もし私が怪我や病気をして、シージーたちが言うところの『価値』が無くなってしまったら、邪魔だから始末するの?」
「…………」
「そういう価値観なんでしょう。あなたたちは」
「そ、そんなことないよ、私は……」
「信じられない」
吐き捨てるようにレイさんが言うと、シーちゃんは唇を震わせて俯いた。
「でも……でも、私、本当にレイのことが好きで……」
「それを信じろと?」
「わ、私……私……」
「出て行って。もう二度と顔も見たくない。私たちのことは、放っておいて」
シン、と部屋が静まり返る。表情にはおくびにも出さず、声音に温度も無いけれど、取り付く島もないほどレイさんが怒っているのは明らかだった。ひりついた空気に、呼吸をするのも躊躇われる。
ついにシーちゃんはポタポタと膝の上に涙を落とし始め、声を上げないように殺しているのが分かるような、聞いているこちらも辛くなるような嗚咽を漏らし始めた。彼女の側にいる私は、慌てて背を向けて窓の方を向く。
シーちゃんは震える喉を必死で抑えるような、絞り出す様な小さな声でレイさんへ言った。
「……私がホノカみたいな普通の女の子に生まれて……普通の価値観で……それで、レイがワクチンを打った初めての人間だったら……レイは私のこと、好きになってくれた……?」
アズマさんが馬鹿にしたように鼻を鳴らす声が聞こえてきた。レイさんは先程までと変わらない、冷たい表情でシーちゃんを見下ろしている。
私は堪らなくなって、振り向いてシーちゃんを抱き締めた。シーちゃんは足をジタバタと動かして、私から逃れようとする。
「やめて、大っ嫌い!あんたに哀れまれたくなんか無い!」
「何で言わないの?家族に何も言わないでここに来て、アズマさんを勝手に連れ出して、でもそれがレイさんを守るためだったんだよね?」
「そんなこと言って何になるの?!余計惨めになるだけじゃん!振られてるから、守れないし!」
言いながら、思い切りお腹を蹴られた。後ろによろけて、痛みに思わず呻く。レイさんが心配して寄ってきたけれど、首を振って静止した。
「ねえ、分かるよ。シーちゃんが真っ直ぐにレイさんのこと大好きなの」
「ホノカに理解されても嬉しくない!」
「だって、私も普通になりたかった。普通だったら、こんなことで悩まなくても良いのかな、普通だったら愛されてたのかな、普通だったら誰か私のこと本当に好きになってくれるのかなって、思ってたもん」
私は床に膝を付いて、下からシーちゃんの顔を覗き込んだ。泣いて真っ赤に腫れた目を見て、胸が痛む。濡れた目はただひたすらに悲しみに暮れていて、私への敵意は感じられなかった。どこまでもレイさんしか見ていないその瞳。私は彼女の膝に手を添えようとして、でもそれは彼女は受け入れてくれないだろうと思って爪先へ手を置く。
「シーちゃんは何にも悪くないよ。そういう環境に産まれてしまっただけ。何にも悪くない。根付いてしまった価値観は、そう簡単には変えられない。シーちゃんがレイさんのことが大好きで仕方なくて、それが嘘じゃ無いのはちゃんと伝わってるよ。私は信じてる」
「…………」
暴れていたシーちゃんの動きが止まる。覗き込む私と目があって、涙をたたえた瞳が揺れた。
「まだシーちゃん、10代だよ?こんなに可愛くて綺麗で、一途で素敵な女の子なのに、何でこんなことで悩まなくちゃいけないの?世界もおかしくなっちゃって、自分の安全すら危うくて、自分の生まれにも悩んで……。真っ直ぐにレイさんを思う気持ちだけは信じてあげてもいいのに、何で……う……」
じわじわ私の目に涙が溜まって、そしてこぼれ落ちた。喉が詰まって、声を出せない。後から後から涙が湧いてきて、雑に指で拭った。
「……何でホノカは泣いてるんだい?」
心の底から不思議そうなアズマさんの声が聞こえた。誰も何も答えない。シンとした部屋の中で、私とシーちゃん二人分の泣き声が響いた。
しばらくして少し二人とも落ち着いてくると、レイさんが淡々とシーちゃんに声を掛けた。
「シージー、帰る手段はあるの?」
「……アズマが操縦する機体に乗って帰る予定だった。レイを連れて。でも……」
鼻声でシーちゃんが答える。それ以降は言葉に詰まって続かなかった。その後の言葉をアズマさんが引き継ぐ。
「私は貴重な人材だからね。また奴隷生活に戻るだけだが、シージーはどうかな?フフ、咎められて同じように首輪をはめられるかもねぇ」
「……本当に無断で来たの?」
「…………」
シーちゃんはこくりと頷いた。
「燃料や機体、アズマのことも無断で、か……。私も連れ帰れなくて、それじゃあご両親は許しても、あのお爺様が許さないだろうね」
レイさんは口に手を当てて考える。しばらくそうした後、アズマさんへ顔を向けた。
「敵対している、もう一団体とやり取りは出来るんですか?」
「ハハ、正気かい?あそこは穏健派だけれど、敵のお姫様なんて受け入れるとは思えないね」
「ではあなたの交渉の腕の見せ所ですね」
そうレイさんが言うと、アズマさんはそれまでこの状況を愉快そうに眺めていたのに、顔を曇らせた。
「……私に何のメリットがある?」
「そこまで無事に連れて行ったら、シージーも首輪を外してくれるんじゃないですか」
「価値観の話、聞いてただろう?信用ならないね」
「…………」
話についていけない。何故レイさんは他の団体の話をしているのだろう。
確かアズマさんは、知り合いがいる海外の団体に合流するという話だった。シーちゃんのところに知り合いがいたのだろうか。だったら首輪をはめられたのはちょっとおかしい気がするけれど。
それに、世界の復興を目指している団体だとも言っていた。シーちゃんの一族が世界を統べるというのが、世界の復興を指してたのかな。
私が聞いていない話もきっとあるんだろう。レイさんとアズマさんは東京に行く前に、私の知らないところでシュウくんの話もしていたようだったから。
私はとりあえず部屋の端っこに置いてあったティッシュでぐずぐずの鼻をかんだ。
シーちゃんにも渡そうとして、手が使えないんだったと思って引っ込める。
「そもそも、シージーたちのところは感染が無いように対策をされていた話は……」
「簡単な話だ!高貴な自分達と下層の人間が交流しなければ、感染もしないということさ!」
「つまり、ワクチンなどがあった訳では無いと。……なら尚更感染の可能性があるシージーの帰宅は渋られそう」
「そうだ。何だい、打ってくれる気にでもなったのかい?」
アズマさんはおどけてそう言ってみせて、レイさんはそれには反応を返さない。
シーちゃんの方に体を向けて、顔を覗き込む。
「家族の元には本当にもう帰れないの?」
「……帰れない……そもそも、私は……」
「何?」
「子供が、産めない。それもいつかバレる。厄介払いが、遅いか早いか……」
「…………」
誰も何も言わなかった。
散々彼女のことを信用出来ないと言っていた二人も、シーちゃんのその告白が嘘では無いと思ったのだろう。茶化しそうなアズマさんでさえ、何も反応を示さなかった。
シーちゃん、どんな気持ちでそんな家族の中で育っていたんだろう。子供を産むのが幸せという価値観の中で、自分がそれを成せないと知った時の彼女の気持ちを私は想像して辛くなってしまった。
「……分かった。じゃあ、その上で提案だけど、アズマと一緒にもう一つの団体と合流するのはどう?」
「私はごめんだが?」
「一旦黙っていてください。……何かしらの制限は受けるかもしれないけれど、命まで奪うことはしないと思う。かなりの穏健派だと聞いたし。そうでしょ?」
シーちゃんは僅かに頷いた。レイさんはそのまま続ける。
「シージーは一人では生きていけない。それならどこかに属さなければいけない……敵のことならよく知っているでしょう?今から知らない団体を探すよりはいいと思う」
「……このまま、レイと……」
「無理だよ。詳しく話を聞いて、更に無理だと思った。私を連れ帰って、一族の中での自分の地位も高めたかったんでしょ?打算が透けて見える」
「…………」
「私はホノカちゃんみたいに優しくなれない」
シーちゃんは何も言わずに再度俯いた。
胸の奥がざわつく。彼女は、これから胸の中に光を灯して生きていけるのだろうか。
レイさんはアズマさんに視線を向けた。
「……アズマさん。私はあなたを許してない。ここで始末しておくべきだと考えています。あなたがいるだけでこちらへの行き来が容易になり、私たちが見つかるリスクが上がる。それにホノカちゃんへの加害行為、こちらの居場所を漏らしたこと、その他諸々を含めて私はあなたを信用していない」
「君にそんなに敵意を向けられていると思うと、興奮するね」
床に這いつくばりながらそう言う。アズマさんはどんな時でも変わらないな。
レイさんは表情を変えずに続けた。
「だからこそ、あなたの実力は確かだと思います。シージーを無事に送り届けていただけますか」
「さっきも言ったけど、お断りさ!私に何のメリットがある?仮に送り届けても、この首輪をはめたままの私を見た彼らが、お姫様を受け入れるわけがないさ。何せ『平和主義』だからね!」
それに、と続けてアズマさんは唇を歪ませ憎悪の視線をシーちゃんへぶつける。老若男女みんな好きだと言って憚らない、アズマさんのそんな姿は見たことが無かった。
「私は首輪が外れた瞬間、彼女を殺す」
「…………」
「それは何故?」
「犬扱いされて喜ぶ趣味は無いからさ」
「あなたの主義に反するのでは?」
「関係ないね」
アズマさん犬扱いそんなに嫌なんだ。意外だ。私散々、大型犬みたいって言ったりしたのにな。アズマさんもノリノリで、ワンワンとか返事してたのに。
レイさんは変わらない表情でアズマさんを見下ろし、そして口を開いた。
「分かりました。では交渉しましょう」
「ハハッ、嫌だね。何故私が……」
「あなたの首輪はここで私が外します。そして、シージーを無事送り届けたらあなたにワクチンを接種します」
アズマさんの動きが止まる。そして驚きの表情でレイさんを見つめた。
「シージーにワクチンを持たせます。でも彼女にしか配合方法を教えないので、危害を加えれば打つことは出来ません」
「……着いた後に彼女が私への接種を拒否したら?」
「首輪はもう外した状態なのですから、好きにしたらいいのでは」
レイさんがそう言い、アズマさんは目を細めた。あまりに冷たい発言に驚いて私はレイさんへ視線を移す。淡々と、同じテンションでそのまま話を続ける。
「打った後にあなたがシージーに危害を加える可能性も排除出来ませんが、それはもう私にはどうしようも出来ない。そこはあなたを信じます」
「耳触りが良い言葉で誤魔化しているだけじゃないか、ハハッ」
「まあシージーに何かするなら、今後私はあなたに協力することは一切無いでしょうね」
サラリとレイさんがそう言う。
アズマさんはその発言を受けて少し考え、それから人の良さそうな気さくな笑みを浮かべた。
「ケイの分のワクチンもお願い出来るかい?」
「分かりました」
「フフ、交渉成立だ」
弾むようにそう言った。
そして、レイさんはシーちゃんの元へしゃがんで、顔を覗き込む。
「シージーにもこの後ワクチンを打つけど、良い?」
「……レイ……」
「私に出来るのはここまでだよ、シージー。好意には応えられないけれど、これがあなたへの愛だと分かってほしい。これからは新しい幸せを見つけて生きて」
愛、という言葉を聞いてドキリとした。私以外にもレイさんの愛が分け与えられているという事実に。
でも、そうだよね、いろんな形があるんだ。たまたま一緒に暮らしているから独占できていただけで、家族がいれば家族へ、友達がいれば友達への愛があって、それが普通なんだ。
少し寂しくなっている自分に驚く。そして、その気持ちは早く消さないと、と思った。
独り占めしたいという気持ちは、いつかきっと私たちの生活に亀裂をもたらしてしまうから。
「……頑張っても家には戻れないし、レイは私と一緒に来てはくれないんだよね?」
「うん」
「もう、ダメなんだよね……?」
「うん」
「……分かった」
小さく、小さくシーちゃんは呟き、その返事にレイさんは大きく安堵の息を吐いた。
複雑な気持ちで二人のやり取りを見つめて、でもレイさんのその息を吐く姿にもシーちゃんの気持ちを考えてしまって、何だかスッキリしない気持ちになった。




